フカボリ

設立5年を迎えるMaOI機構の今

2024年7月5日

日本平夢テラスから富士山を眺めていると、目に飛び込んでくるのは眼下の街並みと駿河湾。改めて駿河湾は広いなぁと実感していたところ、ふと、「そういえば清水港付近に(一財)MaOI機構(マリンオープンイノベーション機構)があったなぁ」と頭をよぎりました。今、どんなことを行っているのだろう・・・。気になったら、居ても立ってもいられない筆者です。早速、MaOI機構に行ってみました!

目次

  1. 設立5年。MaOI機構の今
  2. 進む!海洋資源の遺伝子解析とオープンデータの構築
  3. 今夏、駿河湾が世界から注目される!ブルーエコノミーエキスポの開催

1.設立5年。MaOI機構の今

静岡県の海の玄関口である駿河湾。世界有数の急峻な海底地形を持ち、2,500mにも達する深さは日本一。他にも、長い砂浜海岸が特徴的な遠州灘、汽水湖の浜名湖、伊豆半島に面する相模湾など、静岡県は、多彩な環境により生物多様性に恵まれた「海洋」を前面に有しています。MaOI機構は、この豊かな海洋を舞台に、貴重な海の資源や働きを守り、生かしながら、産業や環境などの人々の暮らしに役立てる取り組みを進めています。令和元年7月の設立から5年。これまでの取り組みや最新の話題を同機構 専務理事の渡邉眞一郎さんに伺いました。

MaOI機構 渡邉さん

海の豊かさを維持しながら、海から得られる恵みを持続的に活用する経済活動や、その経済効果を、「ブルーエコノミー」と呼び、近年、国際的に注目を集めているのをご存じですか?ここMaOI機構では、マリンバイオテクノロジーをはじめとした多様な先端技術を活用して、ブルーエコノミーに取り組む企業や団体などの活動を支援しています。

「マリン」と聞くと、水産振興をイメージする方もいらっしゃると思いますが、化粧品や健康食品、エネルギーの分野など、水産振興にとどまらず、「海」をキーワードに、多種多様な産業分野を対象として活動しています。もちろん、静岡の代表的な海産物である、サクラエビやしらす、アサリといった資源について、最先端のデジタル技術を導入して、遺伝子レベルでの解析の研究にも取り組んでいます。

欧米では既に、海洋に関するさまざまな産業が集積するブルーテッククラスターが活発な経済活動を展開しています。ここ静岡においても、豊かな海洋環境を生かして、ブルーテック(海洋先端技術)を基盤とした産業の拠点を形づくることを目指しています。

ー具体的にはどんな活動がありますか?-

MaOI機構 渡邉さん

MaOI機構の活動は、大きく3つあります。①産業界、学術機関、官公庁、金融機関によるネットワークを足がかりに、課題解決や新たな価値の創造を支援すること、②拠点施設であるMaOI-PARCのラボ(実験室)や、駿河湾に関する調査データなどを一元的に集めたデータベース「BISHOP」の利用の提供、③海に関わるさまざまな市民・団体との連携や協働の推進、です。

ーネットワークという点では、「駿河湾だからこそ深められた」と感じることはありますか?ー

MaOI機構 渡邉さん

毎年11月に、アメリカのサンディエゴで、ブルーテックウィークというブルーエコノミーの国際的イベントが開催されていて、欧米10地域のブルーテックの産業クラスターによる会合に参加しています。これがきっかけとなり、先日、サンディエゴの企業の方々が来静し、県内企業とのビジネスマッチングが実現しました。
実際に、駿河湾の海の恵みを活用した養殖現場なども見学いただき、静岡の海が持つ魅力をお伝えすることもできました。

ービジネスマッチングというと、企業さんの悩みや課題の把握が第一歩と思いますが、どのようにニーズを把握しているのでしょうか?ー

MaOI機構 渡邉さん

当機構には、食品、水産、金融、行政の分野それぞれに精通しているコーディネーターや、主にバイオテクノロジーの分野に精通した研究職員がいます。コーディネーターは県内の企業を訪問し、お困りごとをお伺いする活動を続けています。企業のお困りごとを聞いていく中で、「○○大学の○○先生の研究と結びつけると、解決に近づくかもしれない」、「水産分野のこの技術と、全く別の○○産業のあの技術を結びつけたら、新しい発想の商品が生まれそう」というように、コーディネーターが持つ知識や人脈を駆使した、課題解決のお手伝いやご提案を行っています。2023年度は累計で600社を超える企業訪問を実施しました。
海洋関連産業は非常に幅広いため、ご相談の中には、MaOI機構だけでは全てを解決できない案件もたくさんあります。その際には、コーディネーターや研究職員が橋渡し役となり、他の支援研究機関や企業と連携してフォローをしていきます。

ー相談がきっかけとなり、新しい取り組みに発展した事例にはどのようものがありますか?ー

MaOI機構 渡邉さん

好事例の一つとして、アジのへい死のメカニズムを明らかにする研究があります。
沼津市内浦地区では、海面養殖の現場で発生した養殖魚の突発的な大量死について、いけすの周辺の海中を、最先端のセンサーやカメラを使って細かく観察し、情報を集めていくことで、科学的に原因を解き明かそうという活動を進めています。
発端は、「マアジがへい死する。でも、理由は分からない」という漁業者の声でした。この話を聞いたコーディネーターや研究職員は、これまでの知見や人脈を生かし、海中の状況を観測できる東京のスタートアップ企業や地元企業、集めたデータを分析できる大学研究者と漁業者とをつないで一つの研究チームを結成し、原因究明に取り組んでいます。
イノベーションにより、水産現場の課題解決を図る好事例として、高い評価を受けています。
さまざまな分野の専門家や企業の知見が集まり、海をテーマに新しい可能性を見いだしていくって、とってもすてきですよね。これからも、「これがやりたい!」という企業の方々の一歩を後押しできればと思っています。

ー最近は、どのような相談が多いですか?ー

MaOI機構 渡邉さん

県外も含めた企業や研究者から、「静岡の海で実証実験をしたい」、という相談が多く寄せられています。例えば、水中ドローンの実証実験など、研究室で試したことが実際のフィールドでどうなるかを駿河湾で試したい、といった相談です。
実際の海で実験を行う際には、さまざまな許可を得る必要があるため、場所の選定から、許可を得る作業を考えると、数日の実験であっても、非常にハードルが高い状況があります。
そこでわれわれは、地元の商工会議所などと一緒に、ワンストップ窓口のサービスの提供を始めました。これは、「実際の海洋で実証実験をしたい」、という企業のニーズに応え、各関係機関との調整をまとめて請け負う取り組みです。「海洋での実証実験をサポートしてくれる!」と知った県外企業・研究者が静岡に集まって来ることで、県内企業とマッチングする機会が生まれるなど、大きな可能性を生み出すきっかけとなることが期待できます。

2.進む!海洋資源の遺伝子解析とオープンデータBISHOPの構築

お話を伺っているオープンスペースから、ガラス張りの共同ラボ室が見えました。さまざまな機器が並んでいて、見るからにハイテクな印象を受けました。

共同ラボ室
滅菌機など解析に必要な機器を常備

ー遺伝子レベルでの研究で明らかになったことはありますか?ー

MaOI機構 渡邉さん

共同ラボ室には、遺伝子解析ができる機器がそろっています。こちらは、当機構の研究員が活用していますが、ご希望に応じて企業や大学などの研究者にもご利用いただけます。当機構の研究成果としては、例えば、サクラエビやシラスなど、静岡県を代表する水産資源のゲノム解読を行いました。引き続き、生態解明や資源管理に役立てるよう研究を進めています。また、絶滅の危機にあるサラガメ(海藻)の生態についての研究を行い、その復活に向けた対策への糸口を探求しています。

ー水産・海洋関連情報を一元的に集めたデータベース「BISHOP」は、どんな利用が考えられるんでしょうか?ー

MaOI機構 渡邉さん

BISHOPは、これまで、海洋や水産の分野で、各研究機関・組織が集め、公開しているデータ(例えば、水温、水質、黒潮流路など)について、一箇所に集めることで、それぞれの公開元から個別に収集する手間を省き、研究者がより利用しやすいデータ形式で公開しています。データ収集を併行して進めており、まさに発展中の部分もありますが、「静岡の海のことを研究したい・調べたい」と思った方は、BISHOPを訪問するとそれらに広く出会うことができ、そこから新たな産業活用のアイデアが生まれる!、という姿を目指しています。
このBISHOPでは、静岡の海由来の、海洋微生物ライブラリーも公開しています。例えば、「駿河湾由来の乳酸菌と、静岡のイチゴが出会って、より美味しいイチゴのアイスクリームが誕生した!」、というように商品に付加価値を与えることにもつながります。この海洋微生物ライブラリーを、企業目線でもっと使いやすいように、「この微生物はこういう用途に向いていますよ」といった情報の提供まで発展できればと思っています。

ーラボ室というと、公的な研究機関や大学にもあると思いますが、どんなところにMaOI機構の特徴があると思いますか?ー

MaOI機構 渡邉さん

MaOI機構は、研究機関でもあり、支援機関でもあります。いきなり専門的な研究機関に相談、というと、地元企業様にとっては相談のハードルが高いですが、われわれのような組織が間に入ることで、相談の入口は広くしながらも、専門家としてビジネスにつながるアドバイスができるところに価値があると思います。こちらのラボ室でできないことは他機関へおつなぎすることもできます。気軽に試す・相談できる場として、ご利用いただいています。

海の乳酸菌を培養
(ヨーグルトの香りがしました)
電子顕微鏡で見ると形もハッキリ確認

3.今夏、駿河湾が世界から注目される!ブルーエコノミーエキスポの開催

国内外からの関心が高まってきているMaOI機構の活動。「世界的な拠点を目指す!」というミッションに向け、7月17日(水曜日)から18日(木曜日)にかけて、海洋先端技術が一堂に集結する「BLUE ECONOMY EXPO @ Suruga Bay(以下、ブルーエコノミーエキスポ)」が開催されます。

ーブルーエコノミーエキスポが駿河湾で開催されるきっかけは何でしょうか?ー

MaOI機構 渡邉さん

発端は、昨年度、清水で開催したブルーエコノミー国際ラウンドテーブルという国際会議です。この会議において、国内外の有識者により、「海の未来を考える会議」と「海洋先端技術に特化した展示会」の開催が提言されました。この国際会議の反響は大きく、県外企業や研究者にも、駿河湾を始めとした静岡の海の魅力や、当機構のことを知ってもらう絶好の機会になりました。
このブルーエコノミーエキスポでは、「海の未来会議」と、「海のEXPO」などを実施します。このうち「海のEXPO」では、国内外のさまざまな企業が、海洋先端技術をじかに紹介する機会となり、県内企業とのビジネスマッチングの場となることも期待しています。
この展示会では、陸上養殖に関する技術や水中ドローンを始めとする海洋関連機器、あるいは海洋のさまざまな情報を収集し、人の暮らしに生かす取り組みなど、海洋に関する多種多様な研究成果やビジネスが紹介される予定です。ブルーエコノミーエキスポを通じて、国内外のブルーエコノミーの取り組みや、先進的な海洋関連技術に触れていただければと思います。

取材を終えて

 MaOI機構からの帰り道、日本一の高さを誇る富士山と日本一の深さを誇る駿河湾を同時に見られる雄大な景色に感動するとともに、世界的な拠点を目指す組織がこの地にあることを誇らしく思いました。設立5年を迎えるMaOI機構が、さらなる発展に向けて開催するブルーエコノミーエキスポ。水中ドローンの実演やウインドサーフィン・体感シミュレータの出展もあるそうです。最先端の技術に触れることができる2日間が今から楽しみです。

(一財)MaOI機構 https://maoi-i.jp/
ブルーエコノミーエキスポ https://blue-economy-expo.jp/
県民だより7月号 https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/pr/johoshi/kenmin/1061761/1064110/index.html

―――↓問い合わせ――――――――――――――――――――――――――
【問い合わせ】 県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(221)4032

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