県政TOPICS 総合情報誌ふじのくに
VIRTUAL SHIZUOKA で広がる新たな可能性
2025(令和7)年1月
静岡県が仮想空間の中に県土を再現、
公開している「VIRTUAL SHIZUOKA」。
地域情報化アドバイザーとして長く活動され、
これまでに多くの自治体の地域情報化プロジェクトに関わってこられた 関 治之氏に、
その知見や経験を踏まえた専門的・俯瞰(ふかん)的観点で、
VIRTUAL SHIZUOKAの利活用や、
今後の可能性について寄稿いただきました。
全県域をカバーする3次元点群データ整備
静岡県は2016年度から、航空レーザー測量と車両にレーザスキャナを搭載したMMS(モービルマッピングシステム)による地上からの計測を組み合わせ、県土の3次元点群データ整備を開始しました。これは全国の自治体の中でも最も早い取り組みの一つです。
このデータはオープンデータとして誰でも自由にダウンロードし、利用することができます。「VIRTUAL SHIZUOKA」ポータルサイトでは、国土地理院などが整備している基盤地図情報や標高データ、航空写真なども合わせて提供されています。
詳しくはこちらから(「VIRTUAL SHIZUOKA」ポータルサイトへ)
防災分野での活用
2021年7月の熱海市土石流災害では、このVIRTUAL SHIZUOKAのデータが活用されました。土石流発生前の地形データと、発災後にドローンで撮影したデータを比較することで、土砂の崩壊状況や流出量の把握に役立てられました。
点群データは、地形の変化を定量的に把握できる特徴があり、災害対応における状況分析の重要なツールとなりつつあります。
PLATEAUとの連携による新たな展開
最近では、国土交通省が推進する3D都市モデル整備プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」との連携も始まっています。PLATEAUは、建物や都市空間の3次元データを整備・活用するプロジェクトで、VIRTUAL SHIZUOKAのデータと組み合わせることで、より詳細な都市空間の分析が可能になります。
例えば、都市計画における建物の高さ規制のシミュレーションや、洪水時の浸水予測など、さまざまな分野での活用が期待されています。
広がる活用の可能性
VIRTUAL SHIZUOKAの活用例は、こうした分野に限りません。静岡県のポータルサイトでは、以下のような活用事例が紹介されています。
インフラ施設の維持管理
橋梁や道路の経年変化の把握
都市計画
新規建造物の景観シミュレーション
文化財の保存
建造物の詳細な記録
観光分野
バーチャルツアーコンテンツの作成
オープンデータによる共創の実現へ
VIRTUAL SHIZUOKAの特徴は、高精度な3次元点群データをオープンデータとして公開している点です。これにより、行政機関だけでなく、民間企業や研究機関、市民団体など、さまざまな主体が自由にデータを活用できます。
実際に、大学での研究利用や、民間企業による新サービスの開発など、多様な活用が始まっています。オープンデータとして公開することで、行政だけでは思い付かなかった革新的な使い方が生まれる可能性も広がっています。
データ活用の始め方
データ活用にはコミュニティが重要です。私は、このようなオープンデータ活用を官民で行うための、Code for Japanという官民連携コミュニティを10年以上運営してきました。
この経験から、データそのものの価値もさることながら、データを介して人々がつながり、アイデアを出し合い、実践していく「場」の重要性を実感しています。VIRTUAL SHIZUOKAのような質の高いオープンデータは、このようなコミュニティ活動の重要な触媒となり得ます。
オープンデータを活用した地域課題の解決に興味をお持ちの方は、まずはポータルサイトを訪れてみてはいかがでしょうか。また、Code for Japanのコミュニティにも参加いただき、仲間と共にデータ活用の可能性を広げていただければ幸いです。
関 治之 氏
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事、静岡県フェローなど。東日本大震災時に情報ボランティア活動を行ったことをきっかけに、住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決することの可能性を感じ、2013年に一般社団法人コード・フォー・ジャパン社を設立。「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をモットーに会社の枠を超えてさまざまなコミュニティで積極的に活動している。
県が目指す VIRTUAL SHIZUOKAとは
県は、自然災害の激甚化や社会インフラの老朽化など深刻化する課題に対応するため、仮想空間の中に県土を再現する『VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル しずおか)』を推進している。
私たちが住む現実空間をレーザスキャナ等で広範囲かつ高精度で測量し、取得した膨大な点群データにより仮想空間に静岡県を原寸(縮尺1:1)で再現し、防災やまちづくり、インフラ維持管理や自動運転、観光などさまざまな「モノ・コト」に活用することで、誰もが安全・安心で利便性が高く快適に暮らせるスマートな社会の形成を目指している。