静岡の未来、創造 総合情報誌ふじのくに
清水港の交流機能を強化し、新たなにぎわいを呼び込む クルーズ船を地域活性化の旗艦に!
2025(令和7)年1月
物流港の印象が強い清水港だが、近年、その役割は広がりを見せている。
事実、2013年の富士山世界文化遺産登録を契機に、クルーズ船の寄港回数は右肩上がりに増加し、2024年には87隻が寄港。過去最高を記録した。
この快進撃を支えているのは、官民一体となった地道な誘致活動の積み重ねにほかならない。
清水港は今、クルーズ船を地域活性化の旗艦とし、地域と世界をつなぐ交流拠点として、さらなる進化を遂げようとしている。
華のある客船を誘致しにぎわいのある清水港へ
県は、清水港の物流機能を最適化しながら、交流機能の強化に向けた施策を推進している。「富士山」を望む美しい景観を生かし、日本の玄関口にふさわしい魅力あるウォーターフロントを目指す。その要となるのが、クルーズ船誘致である。
県も構成員である清水港客船誘致委員会がクルーズ船誘致に向けて本格的に動き出したのは、今から35年前。豪華客船「クイーン・エリザベス2」が清水港に初入港した1990年2月23日。岸壁を埋め尽くす見物客が詰めかけ、港は熱気に包まれた。
この光景を目の当たりにした、清水港を拠点に物流サービスを展開するアオキトランス株式会社の当時の会長、故・望月薫氏は、「清水港に華のある客船を誘致し、にぎわいのある港にしたい」という思いを強く抱いた。これを機に同年4月、望月会長を中心とする「清水港客船誘致委員会」が発足。事務局は静岡市が担当し、県や港湾事業者、商工会議所、観光協会、金融機関など、行政と経済・産業界を横断した組織が構成されている。
こうして官民が手を携えて、クルーズ船でにぎわう港づくりという新たな挑戦が始まった。
官民連携による誘致活動と港でのおもてなしが実を結ぶ
発足当初、クルーズ船の寄港数は年間数隻にとどまり、誘致活動は厳しい道のりだったが、船会社・販売代理店への訪問やファムトリップなど地道な努力を続けた。
また、港では歓迎事業にも注力。歓送迎時に演奏や演舞などで訪れる人々をもてなし、その心遣いが高く評価され、徐々に成果を上げていった。
大きな転機となったのは、2013年の富士山世界文化遺産登録である。これを機に外国クルーズ船の寄港数が右肩上がりに増加。「富士山が間近に見える港として、駿河湾を北上すると真正面に広がるそのロケーションの素晴らしさは、インバウンド需要を引き寄せる強力なコンテンツです」と清水港客船誘致委員会事務局長の眞田剛光さんは語る。
コロナ禍で寄港数は一時的に減少したものの、収束後は回復基調に転じ、2024年には過去最高となる87隻が寄港。長年にわたる地道な誘致活動が実を結び、さらにコロナ後の反動や円安といった追い風も、その成長を後押ししている。
静岡県内港湾への寄港状況(年次推移)
清水港が選ばれている三つの理由
数ある国内の港の中で、清水港が寄港地として選ばれている理由の一つ目は、豊かな観光資源にある。乗客が訪れるのは、富士山にゆかりのある三保松原や日本平夢テラス、富士山本宮浅間神社など、文化的な体験ができる観光地が多い。
二つ目は、清水港の地理的な利点だ。外国クルーズ船は、東京・横浜を出発後、昼は上陸観光し、夜間に次の港に移動するコースが多い。東京・横浜で乗船し、一晩の航海を経て清水港に到着するという無理のないスケジュールは、船会社にとって大きな魅力となっている。
三つ目は、三保半島が天然の防波堤となり、外海の影響を受けにくいため、安全で穏やかな寄港地として高い評価を得ていることだ。実際、コンテナ取扱貨物量では、名古屋や東京、大阪に及ばないものの、外国クルーズ船の寄港回数では清水港が上回り、クルーズ業界における存在感を示している。
クルーズ船誘致がもたらす多様な効果
県の分析では、クルーズ船1回の寄港がもたらす地域への経済効果は、直接効果・間接効果合わせて約2.1千万円になると見られている。
また、外国クルーズ船の寄港は、地域の教育にも良い影響を与えている。「地元の小・中学校では、授業の一環としてクルーズ船の歓送迎活動を取り入れ、子どもたちはクルーズ客に英語で話しかけるなど、実践的な英語力を養っています」と眞田さん。このような経験を通じてグローバルな視野が育まれ、次世代の国際人材育成にも貢献している。
今年もクルーズ船寄港数の増加が見込まれる中、県はハードとソフト両面で受け入れ体制のさらなる強化を進めている。
ハード、ソフト両面の強化で乗客の満足度を向上
ハード面では、2017年に「国際旅客船拠点形成港湾」に指定された後、国の直轄事業として岸壁増深改良工事に着手し、整備が加速された。県港湾振興課の杉本崇課長代理は、「日の出埠頭(ふとう)では、昨年3月には国の岸壁工事が完了し、大型クルーズ船や貨物船の2隻同時接岸が可能になりました」と話した。旅客ターミナルや待合所、緑地の整備も進められている。駿河湾フェリーの乗り場もJR清水駅近くに移転予定で、駅周辺の活性化が期待されている。
一方、ソフト面では、昨年10月に清水港史上最大級のクルーズ船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が初めて寄港した際、地元有志による「清水クルーズ祭り」が開催され、2万人を超える来場者を迎えた。眞田さんは「和太鼓や書道などのパフォーマンスでおもてなしを行い、出演者たちも大きな手応えを感じていましたね。クルーズ船誘致に携わって10年以上になりますが、岸壁にこれだけの人が集まったのは初めてです」と振り返る。また、「クルーズ船が、観光コンテンツになる可能性を確信しました。今後も定期的にイベントを開催し、さらに多くの人に清水港に足を運んでほしい」と意欲を語った。
今後は、乗客の周遊を促進するため、商業や観光との連携を強化し、新たな観光体験コンテンツやツーリズムの創出に力を入れる。杉本課長代理は「乗客のさらなる満足度向上にも焦点を当て、市と協力して寄港地観光の上質化を図るとともに、地域が受ける恩恵を最大化できるよう取り組んでいきたい」と将来像を描いている。
清水港客船誘致委員会 〜これまでの歩み〜
平成2(1990)年
「クイーン・エリザベス2」初寄港
清水港客船誘致委員会 設立
平成3(1991)年
「にっぽん丸」「飛鳥」寄港
平成18(2006)年
海外ポートセールス実施
※以降、2年に1回実施
平成25(2013)年
富士山の世界文化遺産登録
平成27(2015)年
クルーズオブザイヤー2015「特別賞」受賞
平成29(2017)年
清水港が「国際旅客船拠点形成港湾」に指定
令和元(2019)年
清水港開港120周年の記念で、帆船「海王丸」の寄港と、客船「にっぽん丸」の清水港発着チャータークルーズが実現
令和2(2020)年
新型コロナウイルス感染症により日本への外国クルーズ船寄港が中断
令和5(2023)年
日本への外国クルーズ船寄港再開第一号「アマデア」寄港
令和6(2024)年
「クイーン・エリザベス」初寄港
清水港史上最大級のクルーズ船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」初寄港