フカボリ
瓦の魅力を伝えたい!リノベーションで伝統を残すチャレンジ/静岡県浜松市
2025年2月21日
県民だより3月号2面にて、空き店舗などを再生して、雇用創出やエリア価値の向上などを図り、社会課題を解決していく取り組み「リノベーションまちづくり」を特集で取り上げています。(3月1日発行)
静岡県浜松市の中心部に位置する「gramme(グラム)」は、伝統的な瓦を活用したユニークなリノベーションプロジェクトで注目を集めています。今回は、店主であり、株式会社浜松家守舎キュウの代表取締役の柳本茉希さんに取材し、リノベーションまちづくりへの取り組みやその魅力についてお話を伺いました。
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目次
1.カフェをオープンするきっかけ
2.しずおかリノベーションまちづくりフォーラム
3.今後の目標とメッセージ
4.最後に
1.カフェをオープンするきっかけ
リノベーションへの関わり
浜松市中央区北田町に位置する「gramme(グラム)」は、瓦の魅力を伝えるためのカフェで、瓦の文化と現代のライフスタイルを融合させる場所として、2023年3月にオープンしました。柳本さんのご実家が「柳本産業」という浜松の瓦土を使って瓦を製造する会社で、現在は、瓦の窯は閉鎖していますが、リフォーム工事などを施工する地域の屋根を守る会社です。
柳本さんは、前職の金融機関を退職する際に、コロナ禍となり、「実家の瓦業界もあまり元気じゃないし、自分自身も子供を産んで脇役として生きていこう、みたいな感じで思ってたんですけど、本当にそのままでいいのかな、といろいろ考えるきっかけがあって参加しました。」とリノベーションスクールに参加したきっかけを話してくれました。
「なので、最初から瓦屋を盛り上げようとか、自分でカフェを出そうと思ってリノベーションスクールに参加したわけじゃなくて」と、これからの自分の人生をどう生きようかのタイミングで参加をしたとのことです。
柳本さんが参加したのは、2020年11月に浜松市で開催された個人版のリノベーションスクールです。3日間にわたり、8人程度の初対面の人たちのグループに空き物件が与えられ、ここで何ができるか考えるものでした。実践型のスクールなので、本当に事業を起こしたいことが参加条件で、事前にそれぞれやりたいことを考えて来ています。最後にグループで考えた事業案を市長とオーナーさんの前で発表します。
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瓦と食の関わり
では、伝統文化である瓦と食(カフェ)の関係性はなんでしょうか。
瓦は日本の伝統的な建築材料として広く知られていますが、その魅力はまだ十分に伝えきれていません。昔は柳本産業で、月に2~3棟の瓦の家を建てていましたが、現在は年間に3棟ほどで、30年前から、瓦市場は9割減少しています。
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「gramme」は、瓦を単なる建築材料としてではなく、食文化と結びつけることで、「一般の人に瓦の魅力を伝える場所にしようと考えて作ったお店です」と柳本さん。さらに、普通のカフェではなく、瓦の魅力を伝えるコンセプトカフェとしても機能しています。
瓦の市場が縮小し、職人も減少する中で、BtoB(「Business to Business」の略で、企業と企業が取引するビジネス)からBtoC(「Business to Consumer」の略で、企業と消費者が取引するビジネス)へのシフトを図り、顔の見える営業を通じてお客様との関係を築いています。
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カフェのメニューでは、瓦をイメージした最中や、瓦のストーリーに沿ったオリジナルのブレンドティーを出しています。また、カフェの隣のギャラリースペースでは、鬼瓦の石膏体験(完全予約制)や地域のアパレルショップやパン屋とのコラボイベントを開催して、地元の方との交流を深めています。
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2.しずおかリノベーションまちづくりフォーラム
リノベーションまちづくりの推進
静岡県は、県内各地域がそれぞれの特色を生かした独自のまちづくりを進めていくためのプラットフォーム「しずおかリノベーションまちづくりフォーラム」を創設します。フォーラムはまちづくり団体、商店街組織、市町・商工団体、金融機関などで構成される予定でこれから協力や連携を図っていきます。
3月14日に、組織や取り組みを広く周知するために、キックオフセミナーが開催され、柳本さんもパネリストとして登壇されます。
プラットフォームへの期待
2023年7月には、カフェ周辺の尾張町・北田町エリアのリノベーションを通じて地域の活性化を目指す「株式会社浜松家守舎キュウ」という柳本さんが代表を務めるまちづくり会社を、一緒にエリアを盛り上げようとしている他2人の方と立ち上げました。企業向けの研修やセミナーも実施し、地域のビジネス環境の向上にも寄与しています。
そんなリノベーションまちづくりの一翼を担っている柳本さんにこのプラットフォームに期待することを聞いてみました。「まちづくりは属人的になりがちですが、プラットフォームによって他の地域の仕組みや、やり方を知ることができるようになると期待しています。やはり、知恵を出し合ってやっていかないと、エリア全体が良くなっていかないと思うので、そういう意味でも自分たちがやっていることを共有し合えるようになるのは、とても画期的でいいことだと思います。」と期待を込めました。
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3.今後の目標とメッセージ
今後の目標
「要は『gramme』って柳本産業にとってはアンテナショップです。『瓦屋』ですって発信するよりも、『瓦のカフェです』とやった方が人は興味を持って聞いてくれるので、瓦を認知してもらう場所だったり、情報発信をしたりする場所です。また、皆さんがどんな事に興味を持つのか、小さい実験をして反応を見るみたいなことはやっています。お店があるとダイレクトに反応が見れるので、本業に繋げていけるのはお店を構えてよかったと思います。地元の時計屋さんを借りてスナックを開いたり、イベントとしてパン屋さんを招いたりしています。」と。さらに「gramme」の隣の空き店舗を借りて、パネル展を計画しているとのことです。
最初は、自分がどう生きよう、家業をどうしようと思ったのがカフェをオープンしようとしたきっかけで、まちづくりをやりたいと思っていなかった柳本さん。ですが、地域のニーズに応じた試みをし、地域の人々との交流を大事にしているのが伝わってきました。
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リノベーションまちづくりに興味を持つ方へのメッセージ
柳本さんに、リノベーションまちづくりに興味を持つ方へのメッセージを伺いました。
「小さい一歩から踏み出すことと失敗を恐れないことです。ハードルが高そうに感じるかもしれませんが、小さいことからやってみるのがいいと思います。最初の一歩だとしたら、例えばスクールに行ってみるとか。興味のあることはとりあえず一歩踏み出したらいいと思います。踏み出せずにいる人は、リスクが怖いと思うので、まずは小さいことから始めたらいいです。」
さらに、「まちの魅力は『人』だと思います。その『人』に会いに行きたくなる、そのまちに行く理由・まちを好きになる理由が『人』。知り合いが各地に増えると行きたいまちが増えるなっていうのはすごい楽しいことだと思います。お店を構えて一番良かったなと思うのは、出会いがすごく増えたことです。前は知りたいこと・行きたい所は自分から動くしかなかったけど、今ここにいると、このようにいろいろな人が会いに来てくれるので、それは場所を持って一番良かったことだなと思ってます。」とうれしそうに語ってくれました。
4.最後に
リノベーションまちづくりは、地域の魅力を再発見し、それを生かして地域を活性化させるための重要な取り組みです。「gramme」を通じて瓦の魅力を伝える柳本さんの活動は、伝統文化である瓦の魅力を再発見させるだけでなく、地域の人々との交流を深め地域全体の発展にも寄与しています。リノベーションまちづくりに興味を持つ方は、まずは小さな一歩から踏み出してみましょう。
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最後に、筆者がずっと気になっていた「gramme」の名前の由来を聞いてみました。
すると柳本さんは、「重さの単位の『g(グラム)』を漢字で書くと、『瓦』と書くんですよ。」とこの質問を待ってましたと言わんばかりのチャーミングな笑顔で答えてくれました。
「ちなみに、『kg(キログラム)』は、瓦偏に千で『瓩』 (1000g=1kg)と書くんですよ。さらにもっと言うと、瓦は重いことが悪いから人気が無くなり、地震に弱いと言われてきました。だけど、1円玉の重さは1g。1円=1gってことは1円は漢字で書いたら1瓦って書きますよね。だからその軽い1円と重い瓦がイコールになるのが面白いなと思って、『軽いものと重いもの』、『伝統と現代』、あと『集団と個人』というものが融合する・交わる場所になるといいなと思って『gramme』という名前にしました。」と、名前を付ける時にはとても考えたとのことです。
取材の中で、柳本さんは「まちの魅力は『人』。その『人』に会いに行きたくなる」とおっしゃっていましたが、まさに柳本さんが会いに行きたくなるような方だなと今回の取材で感じました。柳本さんの人柄に触れ、次回はいつ来ようかなと、このまちに来る楽しみが増えました。
gramme(グラム)公式サイト
https://gramme-kawara.yanagimoto.co.jp/
gramme(グラム)Instagram
https://www.instagram.com/gramme_kawara/
―――問い合わせ―――――――
県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(254)4032