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静岡県の建設DX最前線 3次元点群・仮想空間・AIで挑む社会課題

2025(令和7)年6月30日

建設DXその“点”が社会を変える
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人手不足の加速、頻発する災害、そして、インフラの老朽化。建設現場を取り巻く課題が深刻化する中、県はデジタル技術の力で人のスキルを高め、課題解決に向けて道筋を描こうとしている。
この挑戦を率いているのが、建設政策課「未来まちづくり室」。建設DXの“県のエンジン”となり、未来を切り開いている。

このページで分かること

  • 静岡県が進める「建設DX」全体像と目指す社会像
  • 3次元点群データと「VIRTUAL SHIZUOKA」の利活用~遠隔災害支援、AI道路管理、ICT活用工事の最新の取り組み~
  • 担当者が語る“デジタル技術の力で人のスキルを高めるDX”への思い

過去の関連記事

「県土まるごと3Dスキャニング仮想空間に3次元点群データの「まち」を構築」-ふじのくに第54号(令和5年秋号)

「デジタル技術で加速する静岡のまちづくり」-県民だより令和5年9月号

“点”がつなぐ未来とは?静岡県の建設DX

静岡県が建設DX(デジタルトランスフォーメーション)で目指す姿は、「誰もが安全・安心で利便性が高く、快適に暮らせるスマートな社会」。その核となっているのが、県内ほぼ全域をスキャンして蓄積された3次元点群データの利活用だ。3次元点群データとは、緯度・経度・高さの3次元の位置情報を持った点の集まりで、さらに色などの情報も1点1点に含まれている。

この点群データ、建設に限らずさまざまな分野に使われる可能性があることから、本県は他県に先駆けてオープンデータとして公開。膨大な点の集まりで本県を3Dで再現した「VIRTUAL SHIZUOKA」 を整備し、誰もが使えるよう活用を呼びかける。災害復旧、バーチャル観光、文化財の3D記録、自動運転の実証など幅広く展開し、今年度中に県内全域の点群取得を完了する見込みだ。

3次元点群データで再現された県庁付近
災害復旧の迅速化を示す図。左側は従来の調査で、発災後に現地調査を行い時間がかかる様子。右側は3次元点群データを利用した場合で、データ計測調査と被災前データとの重ね合わせにより、スピーディーに被害を把握できることを示している。

建設DXは現場の効率化と質の向上を同時にかなえる新たな力だ。

DXは“人”のためにある 注目の取り組みをひもとく

ここからは、いま本県が進めている具体策の一部を見ていこう。

遠隔災害支援システムの構築 —現地に行けなくても、支援はできる

令和6年能登半島地震をきっかけに、能登半島と地形が近似している伊豆半島を有する本県は、現地入りが難しい状況でも支援ができる体制づくりが求められている。県は能登半島地震の発災後、3次元点群データを活用し、遠隔地から支援を行う仕組みを構想。石川県にはその意義を伝え、発災前のデータ公開を後押しした。
現在県では、技術者による遠隔地からの設計支援を可能とするシステムの整備に取りかかっており、能登半島地震で現地に入り復旧支援活動に尽力した県内の測量設計業者からも、円滑な支援に向けてこのシステムに大きな期待が寄せられている。

「施策のイメージ」と題された図。左から右へ「被災・現地」「オープンデータ(3D地図共有クラウド)」「遠隔地」という3つのステップで構成されている。まず「被災・現地」でドローンが3次元点群データを測量し、そのデータを中央のCesiumとBentleyのロゴがある「オープンデータ」クラウドへアップロードする。そして「遠隔地」の設計・計画チームや解析・分析支援チームが、そのデータをダウンロードして活用する。図の下部には、現地と遠隔地が「データの共有・遠隔支援」によって相互に連携していることが矢印で示されている。
「施策のイメージ」と題された図。左から右へ「被災・現地」「オープンデータ(3D地図共有クラウド)」「遠隔地」という3つのステップで構成されている。まず「被災・現地」でドローンが3次元点群データを測量し、そのデータを中央のCesiumとBentleyのロゴがある「オープンデータ」クラウドへアップロードする。そして「遠隔地」の設計・計画チームや解析・分析支援チームが、そのデータをダウンロードして活用する。図の下部には、現地と遠隔地が「データの共有・遠隔支援」によって相互に連携していることが矢印で示されている。

今年度は県内での試行を進め、来年度からは点群データを積極的に活用している都道府県や、県と個別に災害支援協定を締結している熊本県、鹿児島県などと連携し、県外支援の試行を進める。将来的には、国の関係機関との情報連携も視野に入れている。

災害支援のDX化と情報連携に関する計画を示した図。3つのセクションで構成されている。1. 「2025年度 県内支援試行」:県内地図のイラストと共に、災害支援業務のDX化と遠隔災害支援システムの構築について説明。2. 「2026年度以降 県外支援試行」:日本地図のイラストとともに、3次元点群データを活用している県や、個別に災害支援協定を締結している県などと県外支援の試行を行い、支援の仕組みを検討することを説明。3. 「各種情報連携」:会議のイラストと共に、国交省や他省庁と被災地のデータ(点群データ・航空写真等)や支援ニーズをクラウドで連携させることについて説明している。
災害支援のDX化と情報連携に関する計画を示した図。3つのセクションで構成されている。1. 「2025年度 県内支援試行」:県内地図のイラストと共に、災害支援業務のDX化と遠隔災害支援システムの構築について説明。2. 「2026年度以降 県外支援試行」:日本地図のイラストとともに、3次元点群データを活用している県や、個別に災害支援協定を締結している県などと県外支援の試行を行い、支援の仕組みを検討することを説明。3. 「各種情報連携」:会議のイラストと共に、国交省や他省庁と被災地のデータ(点群データ・航空写真等)や支援ニーズをクラウドで連携させることについて説明している。

東日本大震災以降、延べ187人の県職員が被災地支援に赴いてきた。激甚化、頻発化する災害に対応する新たな手段として、“静岡発・全国初となる災害支援DX”が動き出している。

イノベーション技術の活用 —AI道路管理、本格始動

道路の損傷を、人が目視で確認していた従来のパトロール作業を、動画データを活用し、AIなどの先進技術で省力化する取り組みが始まっている。

2024年度は下田市内で4つの技術の比較検証を行い、巡回車に搭載したスマートフォンの動画をAIが解析して、道路にできた穴ぼこなどを自動で検出する技術が実用可能と評価された。

イノベーション技術の活用に関する図。令和6年度の技術実証では、巡回車と商用車に搭載されたカメラ映像をAIが分析し、損傷個所を抽出する技術を比較検証(4技術:2社+2社)。令和7年度の試験導入(全土木)では、AIによる解析を活用し、巡回パトロールを省力化することが説明されている。
イノベーション技術の活用に関する図。令和6年度の技術実証では、巡回車と商用車に搭載されたカメラ映像をAIが分析し、損傷個所を抽出する技術を比較検証(4技術:2社+2社)。令和7年度の試験導入(全土木)では、AIによる解析を活用し、巡回パトロールを省力化することが説明されている。

本年度からは、県内全域でこの技術を試験導入。まずは従来の目視によるパトロールに追加して、スマートフォンを搭載したパトロール車での巡回を試行し、将来的には運転手1人で巡回、損傷データを補修業者に自動通知するシステムの構築や、商用車のドライブレコーダーから取得したデータ活用による従来のパトロールの置き換えも視野に入れている。

ICT活用工事 ―“スマート施工”が広げる可能性

ICT活用工事とは、測量や設計、施工などの各プロセスでICT技術を活用する工事をいう。製造工場でオートメーションが進んでいるように、3次元点群データを活用することで、建設現場でも“スマート施工”が実現可能となりつつある。
ドローン(無人航空機)レーザースキャンやマシンコントロール技術などの導入が必要だが、2016年度に12社だった導入企業は、現在270社にまで増加。県はICTの内製化を推進し、マニュアル整備や勉強会を開くなど、全事業者の導入を支援している。

平成28年(H28)から令和6年(R6)速報値までの年別の工数件数(青)および累積企業数(赤色)の棒グラフ。グラフは累積企業数が年々増加している一方で、工数件数は令和2年(R2)をピークに減少傾向を示している。グラフ上には『順調に社数が推移』、『工数件数は減少傾向』というコメントがある。

ICT活用工事 取組企業に聞く

株式会社内田建設専務取締役 内田翔さん
内田さん

内田さん:ICTを導入したのは2016年ごろ。初めは機材が高価で手が出せず、半ば諦めていました。そんなとき、補助金が活用できる話を聞いて一念発起。複数の補助金で機材を購入しました。

ドローンによる測量作業の様子
内田さん

内田さん:最初の現場は県のICT活用工事。ドローン測量や3次元点群データなどを活用し、河川や防潮堤工事を中心にさまざまな現場を重ねてきました。ドローンで測量すると地形の細かな変化まで計測でき、現場全体を3次元点群データとして会社に「持ち帰る」ことができる上、必要な部分をデスク上で断面図として切り出すことも可能です。用途に応じて柔軟に活用でき、作業効率は格段に上がりました。以前のやり方には、もう戻れないですね。

設計データをもとに動くICT建機。熟練の判断もスマートに進化
内田さん

内田さん:今後は全工程での3次元点群データ活用をさらに進め、省人化やロボット化にも挑戦していきます。導入を迷っている企業には、「まずは使えそうな作業の機器やアプリから」がおすすめ。使うほどにコストパフォーマンスが上がり、次のステップにもつながります。

担当者の思い “使われてこそ”の技術

県の建設DXを推進する未来まちづくり室の担当者は語る。
「3次元点群データは、ただ作業を簡略化するのではなく、人の力が必要な場面で生きる技術なんです」
現地へ行かずとも設計できるからこそ、現場を見る重要性が増したと話す。人材確保の面でも、デジタル技術は欠かせないと言う。

「VIRTUAL SHIZUOKA」は、早くから3元点群データの可能性に気づいた職員がオープンデータ化を働きかけ、実現したプロジェクト。「どう活用するかが課題。皆さんのニーズを吸い上げて、誰もが使いやすく、未来につながる新たなインフラに育てていきたい」

本県の建設DXは、技術の力で人のスキルを高め、安心して暮らせる未来づくりへの挑戦だ。

関連サイト

VIRTUAL SHIZUOKA公式サイト

デジタル技術で加速する静岡のまちづくり

株式会社内田建設公式サイト

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