フカボリ

田原教授に聞きました!今からでも間に合う!?脳血管疾患への対策

2023年9月25日

食べることが好き、おいしいものが好き、お酒も好き、無類の甘党な筆者(40代)ですが、近頃、体に異変を感じるようになりました。体重は増える、足はむくむ、血糖値は下がらない・・・。20代の頃、先輩から「40代になると、30代と同じような食生活をしていると、体がガタついてくるよ」と言われたとき、「まさかそんなことはないでしょ」と思っていたのですが、実際に40代になり、その現実を思い知らされています。食生活、30代のままです・・・。

本県は、健やかに日常生活を送れる『健康寿命』は全国上位ですが、脳血管疾患(脳卒中など)による死亡率は、全国平均を上回り、寝たきりになる主な原因の一つといわれています。県民だより10月号の取材で認識を新たにしたところですが、もはや他人事ではありません。

この先も、おいしい料理、お酒、スイーツを食べ続けたい!健康に楽しみたい!そのためには、どうすればいいのか、何から始めればよいのか・・・。わらにもすがる思いで静岡社会健康医学大学院大学 研究科長の田原康玄教授にお話を伺いました。

目次

  1. 一番大切なのは、意識!
  2. 『これならできる!』 誰でも簡単に始められる対策
  3. やっぱり、これから先も健康に楽しみたい

1 一番大切なのは、意識!

今回、お話を伺ったのは、静岡社会健康医学大学院大学 研究科長の田原康玄教授です。静岡社会健康医学大学院大学は、令和3年4月に開学した県立の大学院大学です。この大学院大学では、病気を引き起こす原因の解明や、正確な情報を人々に伝え予防行動を起こしてもらうためのコミュニケーション方法の開発など、社会において病気を予防する方法について、様々な角度から研究を進めています。令和5年度からは博士課程も新設し、大学院での研究を通じて予防に関する高い学識を身につけた人材を輩出することで、静岡県の保健・医療のレベルを高めることにも多くのエネルギーを注いでいます。

田原教授は、生活習慣病や循環器疾患、フレイル、認知症のリスク因子の解明や予防対策などの研究を行っています。早速、聞いてみました!

ー脳血管疾患への対策は、今からでも間に合いますか?ー

今からでも間に合います。

―脳血管疾患を予防するために、何に気をつければよいでしょうか?―

脳血管疾患の最大の危険因子は高血圧ですので、生活習慣を変えて高血圧にならないようにすることが、脳血管疾患を予防する上でとても大切です。生活習慣を見直すことは、既に高血圧の治療を受けられている方でも有効です。お薬の量を減らしたり、お薬を中断できる可能性もあるでしょう。これまでに血圧が高いと言われていながら放置されている方は、なるべく早く市町の保健師さんやかかりつけ医に相談してください。高血圧の他にも喫煙、肥満や糖尿病などの生活習慣病も脳血管疾患になる危険性を高めます。

ー高血圧対策として、まず、何から始めることがよいでしょうか?ー

自分でできる対策は、① 塩分を控える、② お酒を控える、③ 野菜を食べる、④ 果物を食べる、⑤ 運動をする、⑥ 食べ過ぎない(肥満にならない)、ことです。

日本人の場合、塩分(食塩)の約7割を調味料から取っています。そのため、薄味にすることが塩分を控える上でとても有効です。薄味に慣れるまでには時間がかかりますが、慣れてしまうと薄味の方が素材本来の味を楽しめ、おいしいことに気がつきます。料理に後から調味料を足すことも控えましょう。そのようなご自身の心掛けに加えて、減塩調味料を使うことも効果的です。パッケージに減塩と書かれていると敬遠しがちですが、最近の商品は減塩であることに気がつかないほどおいしくなっています。ぜひ、試してください。

また、お弁当や惣菜、菓子類などの加工された食品を買うときは、パッケージの裏面に書かれている成分表示を見るようにしてください。1日の食塩の目標量は成人男性で8 g、成人女性で7 g(健康日本21 第二次:厚生労働省)です。この値と比べると、加工食品にはたくさんの食塩が含まれていることが分かると思います。体重が重い、最近太ってきたという自覚のある方は、成分表示の「エネルギー」にも注意してください。おおむね成人男性で2,600kcal程度、女性で2,000 kcal程度が1日の目安です(日本人の食事摂取基準2020年版:厚生労働省)。価格に目が行きがちですが、安価な加工食品ほどカロリーや塩分が多い傾向がありますので、生活の様々な場面でパッケージを意識してください。

ーお酒を飲み過ぎても高血圧になるって本当ですか?ー

本当です。お酒の種類は関係なく、飲む量が多くなるほど血圧も上がります。酒は百薬の長といわれます。1日1合程度の飲酒であれば、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やしたり、気分を陽気にさせリラックスするなどの作用から心臓病を予防することが知られています。しかし、こと血圧に関しては1日1合であっても習慣的に飲むと高くなることが分かっています。この棒グラフは静岡県で国民健康保険に加入されている方の健診結果を分析した結果ですが、「飲まない」方に比べて、「毎日1合」以上飲んでる方では血圧が高いことがわかりますね。

2 『これならできる!』 誰でも簡単に始められる対策

ー生活習慣をいきなり変えるにはかなりの覚悟が必要な気がします。少しずつ変えていく方法として、何かよい策はありますか?ー

取り組める目標を1つ決めて実践することです。私たちは仙人ではありませんので、明日から生活習慣を完璧にすることはできません。まずは1つ目標を決めて実践し、それができたら次の目標といった具合に、徐々に変えていけば長続きします。厚生労働省の資料(標準的な健診・保健指導プログラム 令和6年度版)では、目標設定に活用できる健康行動として、以下のような項目を例示しています。この中から自分で改善できそうな項目を選んで取り組むとよいでしょう。

総エネルギーを減らす

 コーヒー・紅茶に砂糖やミルクを入れないようにする。

 甘い清涼飲料水を飲まないようにする。

 間食(菓子類・アイスクリーム)をしないようにする。

 毎食のご飯は茶碗1杯までにする。

 パン食の時は菓子パン以外のものにする。

 丼もの(カツ丼、天丼など)は食べないようにする。

 野菜(いも類以外)はたっぷり食べるようにする。

 肉は脂身(あぶらみ)の少ないものにする。

 炭水化物を組み合わせた食事(ラーメンとライス、スパゲッティとご飯など)はやめるようにする。

食塩を減らす

 漬け物・梅干しや佃煮を減らす。

 食卓でおかずに塩やしょうゆをかけないようにする。

 塩蔵魚(塩じゃけ・干物類)を減らす。

 肉加工食品(ハム・ソーセージ)や魚加工食品(かまぼこ・ちくわ)を減らす。

 みそ汁をあまり飲まないようにする。

 麺類(うどん・ラーメンなど)の汁を飲まないようにする。

 煮物(しょうゆ味)を減らす。

 味付けに酢・ゆず・レモンを使うようにする。

 スパイスで上手に味付けをする。

 毎日果物を食べる。

LDLコレステロールを減らす

 朝食は和食にする。

 魚を多く食べるようする。

 ベーコンやソーセージ、バター、チーズを食べないようにする。

 バターやラードをやめ、サラダ油を使う。

 菓子パン、洋菓子、スナック菓子をやめ、和菓子にする。

 大豆製品(豆腐、油揚げなど)を食べるようにする。

 インスタントラーメンは食べないようにする。

 牛乳やアイスクリームは低脂肪のものにする。

身体活動を高める

 歩数計を身に付けるようにする。

 1日の活動量の目標を1万歩にする。

 食後にウォーキングをする。

 通勤や買い物はできるだけ徒歩にする。

 エレベーターを使わないで階段を上る。

 週2回は何か運動やスポーツをする。

お酒の飲み過ぎに注意する

 お酒は1日1合(ビールなら中瓶1本)までにする。

 週1日以上、飲まない日を作る。

体重を減らす

 毎日体重計で体重をチェックする。

 1か月1キロの減量を目標にする(肥満である人)。

―家で血圧や体重を測ることは大切ですか?―

とても大切です。血圧には測ったときの環境も影響しますので、ご自身の血圧を知るためにはご家庭で測ることが大切です。表に書かれている方法で、毎回2回ずつ測定し、血圧手帳に記録してください。血圧手帳をお持ちでない方は、薬局や市町の役場でもらえます。

「お気に入りの血圧」が出るまで何回も測る人がいますが、その必要はありません。高い日も低い日もありますが、2回ずつ測定すれば十分です。それよりも血圧を測ることを長く続けることを心掛けてください。面倒だと言われる方もいますが、毎朝毎晩の歯磨きよりも時間はかかりません。

ご家庭で血圧を測っていると、健診や病院で測った値の方が高いという経験をお持ちの方も多いでしょう。このような現象を白衣効果といい、健診や病院での血圧が140/90 mmHgを超えていると白衣高血圧といわれます。「家では低いから大丈夫」という方も多いですが、白衣高血圧は決して正常血圧ではありません。白衣高血圧の方は、将来、高血圧になる可能性が高いので、今のうちから生活習慣に十分注意してください。

家で体重を測ることも大切です。いつでもよいので毎日決まった時間に測るようにしてください。体重が増えることに対しては、生活習慣病になる、スタイルが変わってお気に入りの服が着られなくなるなど、多くの方は悪いイメージを持っているようです。そのため、毎日測っていると「少し増えてきたから食べ過ぎないようにしよう」という行動が無意識に働き、徐々に体重が減るようです。実際に私が滋賀県長浜市にお住まいの方に協力していただいた調査でも、毎日体重を測るだけで月に平均400gずつ減りました。体重が減ると血圧も比例して下がりますので、高血圧予防にも有効ですね。

ー味が濃いものが食べたい!夜、飲んだ後のラーメンも食べたい!と思ったとき、どうすればいいでしょうか?ー

誰でも「完璧」は難しいので、シメのラーメンも“たまには”良しとしましょう。麺類を食べるときはスープを残してください。それだけでもかなり違います。

ー田原先生ご自身は、どのような食生活を送っていますか?ー

野菜をたくさん食べています。子どもの頃から野菜を食べることが好きだったので、野菜を食べることへの抵抗はありません。また、薄味を心掛け、塩分を控えるようにしています。野菜はサラダで食べることが多いのですが、あらかじめドレッシングなどで味付けをせず、食べるときに少しだけ調味料を付けています。納豆はたんぱく質をたくさん取れる良い食品ですが、付属しているタレは量が多すぎますね。全部かけると味が濃すぎて食べられないので、ほんの少しだけかけています。お刺身も食べるときに少しだけしょうゆを付けます。まれにしょうゆにべったり浸す方がいらっしゃいますが、そのような食べ方だとどの魚を食べてもしょうゆの味かしないのではないかな、と思います。同じ要領で焼き肉もタレを付けず、わさびと少しのしょうゆで食べた方がはるかにおいしいと思いますよ。日本はおいしい食材に恵まれていますので、食材そのものを味わった方が食事も楽しくなるのでお薦めします。

子どもの頃に濃い味に舌が慣れてしまうと、薄味に抵抗ができてしまいます。子どもの頃から塩を取り過ぎないこと、薄味に慣れることが大切ですが、そのためにはご両親の心掛けが欠かせません。お子さんがいらっしゃるご家庭では、なおさら食事に注意してください。

ー『運動は大事』といわれますが、どのような運動がよいのでしょうかー

高血圧対策には有酸素運動が効果的です。有酸素運動、というと歩くことをイメージする方もいらっしゃるかと思いますが、ゆっくりとした散歩は運動にはなりません。少し息が上がる程度の早歩きが効果的です。お仕事をされている方は運動をする時間を取れないことも多いでしょう。そのような場合はエスカレーターを避けて階段を使う、移動は早歩きにする、近距離ならバスや電車を避けて歩くなど、ちょっとしたタイミングでできる運動を取り入れてはいかがでしょうか。実際に私もそのように心掛けをしています。

ー高血圧の方の中には、毎日血圧を測って食事を意識していても治らない方もいらっしゃると思います。そのような場合、どうすればいいでしょうか?ー

今、血圧が正常な方が将来の高血圧を予防する場合とは異なり、既に血圧が高い方は自己流ではなく、市町の保健師さんやかかりつけ医に相談しながら対策を進めてください。生活習慣を見直すことはどのような方においても大切ですが、薬による治療を優先しなければならない場合もあります。そのような事態を見落とさないために、専門家と相談しながら生活習慣を見直してください。

高血圧の薬を一生飲み続けるのが嫌だから、という理由で治療を受けられない方もいらっしゃいますが、薬を飲まずに脳血管疾患になるよりも、薬を飲んで脳血管疾患を予防する方がはるかに賢い選択といえます。高血圧の薬は安価なものが多く経済的負担もわずかですが、ひとたび脳血管障害になると多額の治療費が必要になり、働けなくなることで収入も途絶えるなど、生活に及ぼす影響は計り知れません。

3 やっぱり、これからも先も健康に楽しみたい

ー最後に今一度、脳血管疾患にならないための心構えを教えてくださいー

自分でできることは、①健康や予防に関する正しい知識を身につけること、②良い生活習慣を実践すること、③必要であればためらわずに医療機関を受診すること、の3つしかありません。ある日突然病気が回復する魔法はありませんので、地味ですが毎日の心掛けが何より大切です。

沖縄県は1990年代までは長寿県として世界的にも有名でした。しかし、2000年代に入って平均寿命が伸び悩み、最新の統計では女性では全国16位、男性では43位にまで後退してしまいました。その要因に食生活の欧米化が挙げられています。かつて伝統的な沖縄料理が中心であった食生活が、戦後、いち早く欧米の食文化が流入したことで一変し、結果として肥満が増加したことが平均寿命の順位を押し下げたと考えられています。

このような現象は、沖縄県に限ったことでしょうか。決してそうではありません。沖縄県では他県より少し早く欧米食が流入してきましたが、今や日本全国で同じ状況です。日本人を含むアジア人は欧米人と比べると小柄ですが、それだけではなく動脈が細く詰まりやすい、膵臓(すいぞう)からインスリンを分泌する力が弱く糖尿病になりやすい、腎臓を構成するネフロンという組織の数が少なく高血圧になりやすいなどの特徴があり、より一層、生活習慣に気をつける必要があります。特に若い方では「生活習慣病なんて自分には関係ない」と思われている場合が多いと思いますが、ひとたび生活習慣病にかかると完全に元に戻すことは不可能ですので、今から十分に気をつけてください。

―高齢者でも生活習慣に気をつけることは大切でしょうか−

正しい生活習慣を心掛け、生活習慣病を予防することは高齢者でも大切です。ただし、高齢者では体重が少なくなりすぎることにも注意が必要です。年を重ねることで食が細くなる、活動量が減ることで食欲が衰える、歯の数が減りかみにくくなることで食べられるものが限られるなど、様々な原因が考えられます。また、お肉やお魚などのたんぱく質が減り、ごはんやパン、麺類などの炭水化物が増える傾向もあります。もともと小柄な方はともかく、最近体重が減ってきたなと思われる方は、市町の栄養士さんに相談されるとよいでしょう。

―健康で長生きするために、静岡県の良いところはどんなところでしょうか−

静岡は温暖な気候です。積雪のある地域では冬は運動しにくいですが、静岡は冬になっても雪は積もりません。また、最近の酷暑でも他県に比べると湿度が低めで過ごしやすい印象です。食材もおいしくて豊富ですね。経済状況が良いことも健康づくりには大切な要素ですが、静岡は産業が多く経済的に安定していることも好材料です。ずっと静岡に住んでいらっしゃる方は気がつかないかもしれませんが、他県から来ると静岡の良さがよく分かります。環境の良い静岡で、みんなで健康に気をつけて、安心して楽しく暮らせる社会にしていきましょう。

<取材を終えて>

最近までカロリーや塩分を気にせず、食べたいときに食べたいものを好きなだけ食べてきましたが、今のままの生活習慣はまずい!と猛省しました。田原先生は30代の頃は体重が90kg近くあり、40代の頃、風邪を引いて食事を取れなかった日が続いたことがきっかけで、食べ過ぎることがなくなったそうです。「要は慣れと自分の気持ちです」との言葉がとても印象深く残っています。

今回の取材を通して、生活習慣を見直そうと心新たにしました。まずは、血圧・体重を測ること、階段を使うことにチャレンジします!

県民だより10月号の紙面の内容も併せてご覧ください。(10月1日公開予定)

https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/pr/johoshi/kenmin/1052649/1056880/index.html

自分がとっているお塩の状況を知りたい方はこちらをご覧ください。

ふじのくにの食育 ちべるたんと一緒にお塩のとりかたチェック

http://shizuoka-shokuiku.jp/genen55/

―――↓問い合わせ――――――――

県広聴広報課 電話054(221)2231

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