フカボリ

久能山東照宮でプラモデルを作ったよ -ものづくり人材の育成を目指して-

2023年10月12日

今回、静岡市駿河区にある久能山東照宮で、親子プラモデル教室が開催されました。歴史の要所である久能山東照宮でプラモデル製作?しかも”親子”でとはなんだか楽しそう。でもどうしてこの場所で?どうやらただ”楽しかった”では終わらないイベントである様子。その奥に秘められた深ーい意義をフカボリしてみようと、県広聴広報課職員がイベントを開催した場所である久能山東照宮に主催者の方を訪ね、話を聞いてみました。(取材日令和5年8月31日)

目次

  1. 家康公に触れる夏休み!皆でプラモデルを作ったよ
  2. 先人たちの技術が今に。静岡でプラモデル産業が盛んな訳
  3. 楽しいだけじゃない。こんな教育的価値が
  4. 静岡の未来を担う ものづくり人材の育成へ

1 家康公に触れる夏休み!皆でプラモデルを作ったよ

久能山東照宮の歴史は古くさかのぼること江戸時代から始まります。徳川家康公をご祭神としてお祭りするため、2代将軍秀忠公の命により建立されました。建築当時の技術と芸術が凝縮された霊廟御社殿(平成22年国宝に指定)は芸術的価値も高く、また11月下旬から12月上旬に見頃を迎える紅葉など、芸術・自然の美しさを求めて、年間多くの人々がこの地を訪れています。

家康公が眠っていると言われる久能山東照宮

夏休みの真っ只中の8月11日(金・祝)、家康公が見守るこの場所で、「親子プラモデル教室」が開催されました。当イベントを開いたのは、「ARTHOBYCOMM」を運営する、㈱エフ・シー・シーの山本さんです。山本さんは、普段は自動車部品メーカーのクラッチを製造する部門にいながら、プラモデルを作るこだわり=”ものづくりのこだわり”を多くの人に知って欲しいという思いから、サービスを立ち上げました。

山本さん(以下山本):「これから価値を生み出す会社になるという目標をかかげるうちに、新事業をやろうということで、メンバーが好きだったプラモデルに関わることをやってみることになりました。」

当イベントを企画した山本さん
「プラモデルを作っている人のこだわりは本当にすごいんです」

全くつながりがないように思われる、久能山東照宮とプラモデル。なぜここでプラモデル教室が開かれるのか?その理由を、プラモデルを愛して40年の、東照宮の祭儀課でお勤めの望月さんに聞いてみました。

望月さん(以下望月):「平成22年、東静岡駅前に実物大のガンダムが展示されたことがありますが、同時期にBANDAIさんが家康公をモチーフにしたガンダムを発売するということで、その夏にご本殿に奉納されたんです。同じ年に久能山東照宮が国宝に指定され注目を浴びたのですが、地場産業の良さをもっと広げるべく、静岡市内の模型業界の皆さんの協力の下、プラモデルを常設してお越しになる皆さんに見ていただこうということになりました。そこから模型と当東照宮がつながるようになりました。」

社務所にお勤めの望月さん。幼少期からプラモデル作りにはまっていたそう。

今回のイベントは、名古屋市を中心に活動している”プラモつくろーぜ会”代表の「プラモデラーリョータ先生」をお迎えし、24人(子ども14人、大人10人)の参加者がプラモデル作りと奉納展示を楽しみました。

イベントの魅力について、リョータ先生に話を聞いてみました。

リョータ先生(以下リョ):「プラモデルで人生を豊かにする。それが目標です。昨年ご縁があって、静岡市が企画したプラモデル大学の講師を務め、そこでお二人と出会いました。久能山東照宮は、江戸時代に優秀な職人が集められて、建築された建物ですから、ものづくりとの親和性は高いと思います。ここからは駿河湾が一望できる。こういう場所でやることで、今までプラモデルに触ったことがない人が、やってみようとなればいいと思います。」

自身の代表作が掲載されている、プラモ雑誌を手に熱く語るリョータ先生。
駿河湾が一望。こんな場所でなら良い作品が生まれそう。
子どもから大人まで、年齢も経験もさまざまです。

プラモデルは、知識や見識がなくてもすぐに誰でも始められるといいます。実際、飛び込みで参加した人もいるそうです。

車や飛行機、ガンプラやポケモンなどのキャラクターもの、いろんなジャンルのプラモデルから自分が作る物を選択できるため、興味や自主性が深まります。意外にお子さんより、幼少期にプラモデルに親しんだ親御さんが熱心に作られるそうです。

山本:「場所に興味がなくても、プラモデルに興味があれば来てくれる。逆もしかり。今後ターゲットが広がればいいと思っています。」

2 先人たちの技術が今に。静岡でプラモデル産業が盛んな訳

静岡は、プラモデルメーカーが非常に機能的に集まった場所だと言われます。その歴史は家康公までさかのぼります。江戸時代に静岡浅間神社や久能山東照宮の造営に際し、日本各地から優秀な職人が集められ、工事が終わった後もそのまま駿府の地に残りました。その技を現在にも伝わる漆器やひな人形、竹細工などの木工製品づくりに生かしたと言われます。戦後直後はまだ木の模型が主流で、木製の模型を学校の教材として使っていたといいます。その後、プラスチックが製造されるようになり、それまで木の模型を作っていた人々が、プラスチックの模型を作るようになり、今のような一大産業に発達したのだとか。

リョ:「なぜ静岡の模型産業が突出して発達したのかというと、同じ町内に、金型を作る工場、樹脂を作る工場、箱を作る工場、印刷工場などが同時に存在していた。そのため効率よく製品を作り、流通に乗せられたんですね。静岡市に有名模型メーカーが集まったのは、地の利があったことと同時に、なんかこの町なら作れるんじゃないかという職人たちの思いがあったからなのでしょうね。」

静岡はプラモデル王国です。

「令和3年経済センサス-活動調査」(総務省統計局)によると、令和2年における全国の「プラモデル」の出荷額は約335億円です。そのうち静岡県の出荷額はなんと約289億で、全国の86%を占めており、日本一となっています。

3 楽しいだけじゃない。こんな教育的価値が

プラモデルの良さは誰でも作れるところだと言います。楽しく作れるのはもちろんですが、そこに教育的な価値があることはご存じでしょうか。プラモデルキットの箱を空ける、説明書を読む、読みながら組み立て始める。上手くパーツがはまらないとまた説明書を読む。考えながら作ることは、集中力を向上させるとともに、脳の前頭葉を活性化させるといいます。脳の発達にも良い影響があるという科学的な証明がされていますが、実際のところどんな場面でプラモづくりに教育的価値を感じるのかを伺ってみました。

リョ:「イベントでも、箱を空けた瞬間に、その子の学びが始まります。目の前にある材料を使って作り始め、完成したら自分で作ったものを手にすることができる。好奇心で子どもの目が輝くのが分かります。全てが勉強と結びついていると気が付かずに、作りながら多くのことを学びます。あとは少し経験のある子が、初めて作る子に教える風景も見られます。1年くらいやれば、教える側に回れます。人に教えるということは、かなりの教育的効果があると思われます。」

同じことに興味を持ち、プラモデルの完成という同じゴールを持つ子ども同士が、コミュニケーションをとりながらお互いの作品づくりに取り組んでいく。時には他の人の組み立て方や色使いを参考にしながら、もっと良いものを作ろうと工夫していく。確かに、ただ何かを観たり遊んだりするイベントでは得られない貴重な経験ができそうです。教育的価値が期待される理由について、もう少し話を聞いてみました。

子どもに丁寧に説明をするリョータ先生。子どもにとっては、学校の先生とは違う存在だが、敬語を使われることが多いという。
親子で一緒に。一つのものを集中して作る。

リョ:「少し話が飛躍しますが、以前、不登校の生徒さんが通う新設の愛知県の学校に非常勤講師として招かれたことがありました。もちろんプラモデル授業の講師としてです。最初は課外授業だったのですが、そのうち通常の選択授業として任されることになりました。一人一人やりたいものを持ち込んで、学校でプラモデルを作れるということで、それまで不登校だった生徒も、進んで登校できるようになったんです。プラモデルはおもちゃではなく、教材なんですね。恐らく自分は、義務教育でプラモデル授業をやった最初の人なんじゃないかと思います(笑)」

プラモデル授業には、学校へ行くモチベーションを上げる効果があることを、学校の先生が認めているということですね。

今の子どもたちは、普段からスマホなどで動画を見たり、ゲームをしたり、外から楽しみを与えられています。受動的な楽しさに慣れており、何時間でも没頭してしまうといいます。スマホを見て過ごすこととプラモデルを作ることとは、創造力を養うという観点からは対岸にあるものだと感じます。教育的観点からの価値が、これからもっと注目されるようになると、プラモデル授業の需要がもっと高まる可能性もありそうです。

さらにどうやら、子どもの頃からプラモデル作りに親しむことで、その先の子どもたちの未来も変わってくるようです。どんな未来が開けてくるのか、次のトピックでさらにフカぼってみましょう。

4 静岡の未来を担う ものづくり人材の育成へ

リョータ先生によると、日本のプラモデルはかなり高い水準で出来たものだということです。他の国が真似出来ないものであると。子どもにプラモデルを触らせるだけでも、世界最高水準の成型技術や金型の技術に触れていることになるんだそう。すぐ近くでプラモデルを目にましたが、確かにかなり精巧につくられています。

また、キャラクターがプラモデルになることも日本人独特の発想で、外国だとプラモ=戦車や車に限定されてしまうのだそうです。また、出来上がった製品で楽しむよりも、作る過程自体を楽しむところも日本人独自の感性だとか。

リョ:「大げさかもしれませんが、「家康公が脈々とつくった職人の文化」じゃないかと思います。そういう感性が根付いているから、こうしたイベントが成り立つように思います。」

説明書を読んでプラモデルを作ることは、図面を見て物を作る製造業につながるといいます。小さい頃にプラモデルに親しんだ子どもたちが大人になって、ものづくりの職業を目指していくんですね。

山本:「修理は化学の世界ですから、素材の違いでやり方も変わってくる。思考錯誤でやる感覚は、プラモ作りでパーツ同士を組み合わせる時に、どの組み合わせが最適か考える感覚に通じるんです。溶ける温度や理屈が違うので、異素材の接着って難しいんですが、違いがあることが分かっていると、上手く作ることへの工夫につながりますし、ゆくゆくは工業的な物づくりにつながります。」

この中から作りたいものを自分で選ぶ
部屋に飾ったらインテリアにもなりそう

リョ:「可能性は製造業だけにとどまらないと思います。社会に出てからの自分の体験から話すと、絵を売る画廊に勤めているとして、額縁が壊れてしまった。誰にも直し方が分からない。でも自分なら道具さえあれば創造力でなんとか直せるかなと。プラモデル作りで培った創造力が、そんな場面でも活用できていることを実感しています。”現場力”が強い人間は何にでも対応できます。」

ここで、キーワードが出てきました。”現場力”です。言い換えると、何かあった時に臨機応変に対応できる力でしょうか。確かに前述のようにスマホばかり見ている子ども時代を過ごす中では養えない、「なんとなく何でもこなせてしまう力」がプラモ作りにより着実に育つようです。

将来職業選択をする時に、子ども時代に経験した、プラモ作りの楽しかった思い出から、一人でも多くの若者が、物づくり産業を目指すようになってくれればといいます。

リョ:「ものづくり人材が将来にわたり増えていけば、国の産業の発展の役に立つと言えるのではないでしょうか。優秀な技術者が育ち、製造業が強くなり、国力が上がることにつながってほしい。私たちが、イベントを通じて目指すところはそこにあります。」

これからのプラモデル業界の展望について、聞いてみました。

リョ:「先日静岡市で行われたホビーショーに参加して気が付いたのが、山本さんのようにプラモデル業界の外から参加している業者が増えたことです。それは、模型業界以外の業種の方が、模型の魅力に気付いてくれたということです。そこから今後、何か新しいビジネスチャンスが生まれるのではないかと期待できますし、模型業界自身が、気付くべきところだと思っています。」

山本:「もっと外の人に見てほしいと思います。飾るだけで美術品にもなりますし、集客もできますよね。」

最後に、某テレビ番組のように質問をしてみました。

--あなたにとって、”プラモデル”とは一言で言って何ですか?

山本:「”ホビーであると同時に、アート(芸術品)ともいえるもの”です。」

望月:「”人への恩返しができるもの”です。ここでの模型展示も、模型屋さんに対しての恩返しのつもりです。」

リョ:「”多くの人の人生を豊かにするもの”でしょうか。その理念があったから十数年近くやって来られました。」

いかがでしたか?久能山東照宮の厳かな雰囲気の中、取材後はお賽銭を払って参拝して帰りました。お三方のプラモデルにかける情熱と、将来への人材育成につながるプラモデルの可能性が伝わりましたでしょうか?今回の記事が、皆さんにとってプラモデル作りの魅力を体験するきっかけになってくれたら幸いです。早速、プラモデルを選びに、模型屋さんに行ってみませんか?

神楽殿に、奉納展示が常設されていました

【問い合わせ】 県広聴広報課 ☎054(221)2231

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