フカボリ

世界に羽ばたける力が付く!?知られざる国際バカロレア教育の魅力に迫る!

2023年12月28日

県民だよりの取材で知った「国際バカロレア教育」。皆さんは知っていましたか?国際?英語がペラペラになれるのだろうか…?実は4月から開校するふじのくに国際高校で、県内の公立として初めて導入予定なのですが、正直私もどういうものかよく分からなかったので、山梨県立甲府西高等学校で国際バカロレア教育のプログラムコーディネーターをされている野崎先生に話を伺いました。

国際バカロレア(IB)とは、スイスのジュネーブにある国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムです。チャレンジに満ちた総合的な教育プログラムとして、国際的な視野で行動するためのスキルを身につけるともに、国内外の大学への進学のルートを確保することを目的として設置されました。

国際バカロレアについてより詳しく知りたい方は、こちらの公式ガイドブックをご覧ください。

「国際バカロレア(IB)の教育とは?」

目次

  1. バカロレアの授業ってどんなもの?
  2. バカロレア教育の効果はいかに?
  3. バカロレア教育を教える大変さ
  4. これからの展望は?

1. バカロレアの授業ってどんなもの?

-野崎先生がされているプログラムコーディネーターとはどういうものですか?

バカロレア教育を展開するにあたって教育プログラムを提供しているIB機構との間に立って、双方のやりとりを仲介する役割を果たしたり、実際に生徒が教育を受けるにあたって、環境を整えたり、学校の行事との両立を確認したり、学校の教務主任の立場に近い感じかもしれません。プログラムが全体的にスムーズに動いていくようにサポートをしています。

甲府西高校に赴任した時、本校はまだ候補校という状態でしたが、1年後認定校になった時からコーディネーターとしての任務にあたっています。

-どのように教育内容を決めているんですか?

基本は、授業を担当する先生が自分で内容を考えて決めますが、認定後最初の頃は何をしたらいいか分からないことが多く、試験に向けてどういう指導をしたらいいか、IB機構からこういう通知が来たけれどこれはどういうことなのかなど、先生方と一緒に考えるということを繰り返しながら取り組んでいきました。

-授業の特徴はありますか?

IBだからといって、全て英語で授業を行うわけではありません。日本の学校では、2つ以上の科目を英語で実施し、それ以外を日本語で実施することが認められています。本校では、英語で行う授業は「英語」と「美術」で、美術の時にはネイティブスピーカーの先生と日本人の先生が一緒に授業をします。授業内容も、作品を作ること中心の授業ではなく、IBに提出すべき課題の一つには、テーマに沿った作品を複数制作してそれを説明しレポートにまとめる、というものがあるなど、IBらしい内容になっています。話し合ったり、考えたりという授業が展開されています。

また、IBディプロマプログラム(DP)※の特徴として、「CAS※」が必須の学習活動になっていて、ボランティアだったり、芸術活動や体育の活動だったりいろいろな活動を生徒がするのですが、そのプロジェクトの中で本校らしさが出ていると思います。例えば、周りの小中学生から少し勉強を助けてもらえないかというニーズがあれば助けるというような活動もしたことがあります。

※ディプロマプログラムとは、IBのプログラムのうち高校生向けの2年間のプログラムのこと。

※CASとは、「Creativity(創造性),Activity(活動),Service(奉仕)の頭文字を取ったもので、国際バカロレアのディプロマ・プログラム(DP)の修了資格を取得するために、すべての学生が履修しなければいけない学習活動のこと。

-IBは探究的な学びをするという特徴があると思いますが、具体的にどんな授業がありますか?

本校の英語のある単元を例にとると、答えが一つではない抽象的な問いを生徒に投げかけて、生徒はそれに答えるためにバラエティーに富んだ読み物やニュースなどの現実的な素材を読んだり聞いたりして、いろいろな要素を取り込んで英語で考えたりディスカッションしたりしながら探究を進めて、最終的な問いに答えていくという展開をしています。

-授業で学校の外に出て行くこととかもありますか?

例えば、先ほどあげた美術の提出課題は、鑑賞した作品を含めてレポートを書くということもあり、美術館に見学に出向いて作品の比較や分析を学んだりもします。また、化学では自分でデザインした実験を実施し、それを実験レポートにするという提出課題がありますが、ある生徒の実験では、学校の外に、あるものを置いておいて、その化学的な変化を観察した、という例もありました。それぞれの科目の教育課程の中で、必要があれば、外に出て行っての活動をすることもあります。

ー英語力を付けるためにどういった対策をしていますか?

IBのディプロマプログラムの授業は高校2年から始まります。本校では、IBのためのコースはないので、高校1年の時は、生徒はIBを選択するかどうか決めていません。そのため、IBや英語で討論をすることに興味がある1年生を集めて、課外の講座でディスカッション中心の授業を開講します。あとは、1年生の段階から、授業の中で討論をする機会を作ってそれを繰り返していく中で、IBの履修に関係なく全生徒の英語力を高めていけるようにしています。

2.バカロレア教育の効果はいかに?

ーIBを導入して、生徒が成長したなと感じることはありましたか?

本校では、英語力を鍛えるだけでなくて、論理的な思考力を付けることを目指しているので、その点はかなり力がついている感触はあります。

あと、生徒が成長しているな、と感じていることは、例えば、校内で自分たちの成果発表をしたり、校外向けの情報発信をする際に、高校生だと、必要な許可をとったりする際には教員に手助けしてもらうことが多いと思いますが、本校のIB履修の生徒達はそのような校内での調整を自分たちでするので、調整する力を一つずつ学んで、いろいろなことを上手にまわせるようになります。またそのようなときには、企画もかなりの部分を生徒に任せますが、自分たちで、いかに段取りよく、イベントを執り行えるか、自分の言いたいことを伝えられるかなどを考えながら計画するようになっているのは、頼もしいなと感じています。

ーIB導入後に卒業生の進路に変化はありましたか?

IBの教育の優位性を認めてくれる日本の大学も数多くありますので、本校では、IBを学んだ生徒であっても、海外大学進学は一つの選択肢であるというスタンスでいます。IBを導入してから、まだ卒業生を一度しか出していませんので何とも言えませんが、これまでのところでは、最終的には日本の大学中心の進路を志望するようになった卒業生が多かったということが言えます。ただ、学校全体として、海外進学に興味を持つ生徒が増えたなという印象はあって、海外に視野を広げる雰囲気づくりはできてきているかと思います。

ーIBの授業を受けた生徒からの反響はありますか?

昨年卒業した生徒に、卒業時に振り返りをしてもらっています。IBは「IBの学習者像」というものの中で、IBが価値を置く人間性を示していて、IBの学習者はそれを目標として努力することになっていますが、その振り返りでは、その学習者像それぞれに対して、「あなたはどれくらい当てはまりますか?」という質問をしました。

・探究する人

・知識のある人

・考える人

・コミュニケーションができる人

・信念をもつ人

・心を開く人

・思いやりのある人

・挑戦する人

・バランスのとれた人

・振り返りができる人

いくつか要約してご紹介すると、ある生徒は、「探究する人」について、「自分が疑問に思うことを見つけ、積極的に探究するように心がけた。探究心を持つことにより、ディスカッションの内容が別の内容とつながりを持ったり、さらに発展的なものになったりすることが分かった。」と答えています。

また、別の生徒は、「考える人」について、「自分の意見を様々な視点を踏まえて形成したり、創造的でオリジナルな意見を形成したりできるようになった。だんだん理性的な判断ができるようになったと思う。」と答えています。この生徒は、論理的な説明ができるように自分がなってきたという意識を持ったようです。

3.バカロレア教育を教える大変さ

ーIBを教える先生は特別な先生なんですか?

IBを教える教員は、IBが実施する3日間の研修を受ける決まりがあり、全ての担当者がその研修に参加しています。ただ、IBの科目には日本のような検定教科書があるわけではなく、教科書に沿って教えればよいというものではありません。本校の先生方も、IBが示している最終的な到達目標を元にした洋書の教科書が何冊か出版されているので、それを使って、探究的な学びを組み立てています。また、大学レベルの内容を扱うこともあります。そのようなことから、やはり、研修を受けただけでは授業はできません。先生方はかなりの準備が必要ということです。また、他のIBを実施している高校の先生と情報交換したり、試行錯誤したりしながら授業を作っています。

ー先生たちは学校の異動があると思いますが、入れ替わりで大変じゃないですか?

本校がIBを導入してからも異動が何度かありまして、2年次生の科目担当の教員が異動になってしまい、3年次生を持ちあがりで担当してもらえず困ったという経験はあります。ですが、各科目で研修に参加した教員が何人かいるので、資格を持っている教員の中からどうにかやりくりをして授業を担当してもらうようにしました。

公立高校は教員の異動は避けられないですが、やはり異動がなければなと思うことはありますね…笑

ーIBを導入して大変だったことは?

プログラムコーディネーターとしては、普通高校として出来上がっているカリキュラムが既にある中で、発想が違うIBのカリキュラムを実施していくために、いろいろなしくみを作り替えていかなければならないことが大変でした。全体がうまくいくように新しい要素を取り込んでいくということは、やはり大変です。

4.これからの展望

ーこれからどんな教育をしていきたいですか?

授業だと、科目間のコラボレーションをしていきたいと考えています。生徒が、それぞれの科目で学習したことの間につながりを見つけたり、科目や学問の間で物のとらえ方の違いがあることに気づいたりすることで、自分の中に大きな知識体系を組み立ていく、ということが本校IBの理想の1つです。これを実際に行うのは、それぞれの科目では専門的な内容を扱っているだけに、なかなか難しいですが、目指し続けていきたいと思っています。

ー最後にIBが気になっている方へのメッセージをお願いします!

IBの科目と一般の科目との違いには、求められている学力や学び方の違いがあります。日本の一般的な科目では、どちらかと言えば、幅広い知識を満遍なく付けていくような学びが中心だと思いますが、本校のIBの科目をみていると、比較的狭い範囲のものを深く深く追究していく学びが中心になっています。さらに、「知識」といわれているものについて「私たちはどのようにしてそれを知るのか」という疑問を投げかけて、それぞれの学問領域でどのようにして知識がつくられていくのかを探究する学習活動があります。そうした面で求められている学力が違いますね。本校で実際に学んでいる生徒はそのようなIBの学びが非常に面白いと感じているようです。

ふじのくに国際高校さんでは、導入にあたっては大変なこともあるかと思いますが、一つの目標に向かって頑張っていくというのは私たちも得難い体験であると感じていますので、魅力ある学校作りのために、一緒に頑張っていきましょう。

ー野崎先生、ありがとうございました!

取材を終えて

英語があまり得意でない私は、英語以外の社会や数学、美術で英語を使った授業をするなんてまったくついていける気がしません…。ただ、大学や専門学校などの受験をするために試験用の暗記をするのではなく、なぜそうなるのかを常に考えながら学んでいくのはとても意味があると思いました。また、高校生の内から、企画したり、段取りしたりするというのは社会に出てからすぐに役に立ちそうです。

これからは、幼稚園や小学校の時からいろいろな物事について「なぜ?」と考え続けることを大切にした教育が行われていくのかもしれません。

県民だより1月号では、国際バカロレア教育を県内の公立高校で初めて導入予定の「県立ふじのくに国際高校」を特集していますので、そちらもご覧ください。

県民だより令和6年1月号

―――↓問い合わせ――――――

県広聴広報課 ☎054(221)2231 FAX054(254)4032

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