フカボリ

社会とつなぐ架け橋へ~OriHime(オリヒメ)に託す思い~(前編)

2023年12月27日

11月中旬、編集部に一本の電話が入りました。

「OriHime(オリヒメ)、というロボットを使って、新たな就労支援を試験実施します!本県(行政)では初の試みです。ぜひ!取材を」。初なす、初鮭、初鰹、初茸、新茶・・・。初物にはめっぽう弱い筆者です。ロボットという響きにも興味津々です。早速、取材を敢行!OriHimeの運用開始に至る舞台裏をご紹介します。

目次

  1. デジタル化社会の今だからこそ。遠隔操作ロボットを使った新たな就業の形
  2. ロボットが案内?どうやって?
  3. 操作は簡単!運用初日に向けて
  4. 運用開始!OriHimeは就労が難しい方と社会をつなぐ架け橋に

1 デジタル化社会の今だからこそ。遠隔操作ロボットを使った新たな就業の形

今回、電話をくれたのは、県地域福祉課の大石さん。生活困窮者や生活保護受給者の自立を支援するための就労支援業務を行っています。

県地域福祉課 大石さん

「県内には、働きたくても働くことが難しい方がいらっしゃいます。対面業務が苦手であったり、最初の就労で自信がなくなり新たな就労への不安を抱えていたり、何かのきっかけでひきこもり状態になってしまったり。また、身体・精神障害、病気、介護、育児、高齢などが理由で移動に制限がある方も。働きづらさがある人が社会と接点を持ち、就労へのきっかけになるよう、今回、ロボットを使った就労支援を行います。」

目の前に現れたのは、卓上の小型ロボット。小さなロボットという見た目と愛嬌のあるアクション、その名も「OriHime」。株式会社オリィ研究所が、距離を乗り越え、社会に参加したい人のために開発されたロボットで、WEB環境があれば、パソコンやスマートフォン、タブレットを使ってどこからでも操作ができます。操作者(パイロット)は、OriHimeの顔の向きや手を動かすことや、OriHimeを介して話すこともできます。パイロットからはOriHimeが眺める景色や人を見ることができますが、相手からはパイロットの操作環境は見えません。

▲喜ぶ、手を振るといった動作ができるOriHime (写真は悩んでいる様子)
▲パイロット側の映像

県地域福祉課 大石さん

「ロボット越しに人と会うので、対面が苦手な人でもコミュニケーションを取るハードルが低くなります。また、交通手段が限られる方でも問題になりません。特に、県内では賀茂地域など就労の場が少ない地域に住んでいる方でも、別の地域の会社等に勤められる可能性があります。生活保護受給者や生活困窮者の中には、地域社会とのつながりがなく孤立してしまっている方も多く、就労を継続していくことが困難な場合が多く、大きな課題となっています。外出しなくても社会とつながることができるOriHimeというツールに期待しています。」

2 ロボットが案内?どうやって?

今回、OriHimeが置かれる場所は、県庁東館2階の喫茶ぴあ~。喫茶ぴあ~(運営受託先:(福)明光会)は、障害のある人の就労支援の一環として、喫茶サービスの提供やふじのくに福産品の販売などを行っています。ここでOriHimeが担う役割は、ふじのくに福産品の商品案内です。3月上旬まで試験運用されます。どうやって運用するのか、株式会社オリィ研究所の髙垣内さんに聞きました。

株式会社オリィ研究所 髙垣内さん

「パイロットは、WEB環境がある場所からOriHimeを操作します。WEBブラウザまたは、アプリをダウンロードすることにより、パソコンでもタブレットでもスマートフォンからでも操作できます。誰もが簡単に操作できるように、操作ボタンは簡略化しています。

▲ 複数の動作が設定されており、ボタン一つでうなずくことや拍手も可能

ーこれまでどのようなシーンでどのように活用されているのでしょうかー

「身体・精神障害、病気、高齢などが理由で移動に制限がある方がパイロットとなり、窓口案内、本の読み聞かせ、接客対応などを行っています。常時設置されている場所では、『OriHime(パイロット)と話をしにきたよ』という方もいらっしゃって、パイロットの励みにもなっています。」

OriHimeには、可動型と卓上型があり、可動型は飲食店でのウェイターの役割を担うこともあるそうです。今回、喫茶ぴあ~に置かれるものは卓上型。丸みを帯びたデザインが可愛らしい!この形に至るまで試行錯誤があり、話す機能や動いたときのスペース、利用シーンなどを追求していった結果、現在の形に至ったそうです。また、コロナ禍によりデジタル化が進展し、通信環境面の整備とともに就労面でもテレワークが浸透したことも普及の一因となっています。

株式会社オリィ研究所 髙垣内さん

「これまで働きたい側は社会とつながりたいというニーズが高くありましたが、受け入れ側(雇用側)の理解や体制整備に課題がありました。昨今のデジタル化により、多様な働き方が受け入れられる状況になりました。自宅で介護をしている方など、働きたくても外出ができず働くことが困難な方もいらっしゃいます。OriHimeは、そのような方でも社会とつながるきっかけを生み出してくれます。」

OriHimeのパイロットは、一人の方が専属で行う場合もあれば、複数名が交代で担うこともあるそうです。喫茶ぴあ~では、パイロットの負担にならないよう、毎日時間は12時から13時に絞り、複数名で対応していく方針になりました。

ーパイロットは決まっていますか?ー

県地域福祉課 大石さん

「12月の運用に向けて、これから募集し、準備していきます。」

OriHimeを介して会話ができる、そんな様子を思い浮かべながら、この日の打合せは終了となり、大石さんからの連絡を待つことになりました。

3 操作は簡単!運用初日に向けて

12月某日、再び大石さんから連絡がありました。

県地域福祉課 大石さん

「パイロットが決まりました。12月下旬からの運用開始に向けて操作練習をするので取材に来てください。」

『OriHimeの操作は簡単』と聞いていましたが、実際にどうなのか、誰もが操作できるのか。この目で確かめるために、操作練習に同行しました。

今回(12月21日現在)、パイロットとなるのは20~30代の6人です。オリィ研究所の高垣内さんから一連の操作方法の指導があった後、早速、実践です。初めは緊張した面持ちでしたが、30分程で操作をマスターしていました。

▲ 喫茶ぴあ~とつないで実践練習
▲お昼頃の様子を確認中

操作をした感想をお二人(Aさん、Bさん)に伺いました。

ー今日、始めて操作してどうでしたか?ー

(Aさん)

「結構難しかったです。」

ー喫茶ぴあ~には、来たことはある?ー

(Aさん)

「実習で行ったことがあります。」

ー操作がスムーズでしたねー

(Bさん)

「もう少しぎこちなく動くかなぁと思っていたけれど、手の動きがなめらかで驚きました。」

ー当日に向けて、楽しみにしていること、やってみたいなぁと思っていることはありますか?ー

(Aさん)

「お話をしてみたいです。」

(Bさん)

「通信環境にもよるかもしれませんが、多少の時間差があっても慣れれば気にならないと思います。いろいろな人との会話を楽しみたいですね。」

パイロット(Aさん)の付き添いの方に今回の取り組みについて伺いました。

ー(Aさんの)普段の様子はいかがでしょうか。ー

「対面でのコミュニケーションに不慣れなところがあります。今回も「はい・いいえ」で完結するような会話は問題なく対応できることがわかりました。今日も操作に慣れてきてからは、ある程度想定した質問であれば、受け答えもできていました。これから就業を予定しているのですが、接客に慣れる上でもとてもよい機会となりそうです。」

ー今日、OriHimeを初めて見て、実際に動かし、応対しました。どんな印象を持ちましたか?ー

「就業体験の場として良いと思いました。「接客は難しい」と決めつけている人の中には、「やったことがないから難しい」と思ったり、「周りから接客は大変」と聞かされたり、実際に体験する機会があれば、それがきっかけで変わると思います。誰でも知らない人と話をすることは緊張しますが、OriHimeは、対面を苦手としている人でも、会話ができる良さがあります。今日、付き添ったパイロットもOriHimeを介して、こんなにも会話をするとは思っていませんでした。これからの成長が楽しみです。」

今回、OriHimeを設置(就業の場となる)喫茶ぴあ~の国神さんと望月さんに伺いました。

▲喫茶ぴあ~で働く望月さんとOriHime
▲OriHimeの視線に合わせて情景が変わります

ーOriHimeの第一印象を教えてくださいー

「『ロボットが来る』と聞いていましたが、もう少し大きめのものを想像していました。思ったよりも小さくて目が可愛らしいですね。」

ー今回、OriHime(パイロット)は、ふじのくに福産品の紹介を行う、と聞きました。運用初日に向けて、期待していることや楽しみにしていることはありますか?ー

「OriHimeに視線が集まって、会話が生まれ、その声やOriHimeの動作をきっかけに店内に活気が生まれたらうれしいな、と思っています。」

パイロット、受け入れ施設ともに、準備万端。それでも、期待と不安を抱きながら、初日を目指しました。

4 運用開始!OriHimeは就労が難しい方と社会をつなぐ架け橋に

12月26日(火)、いよいよOriHime運用開始です。会話ができるロボットにご来場のみなさんは興味津々。パイロットとの会話を通して、ふじのくに福産品をお買い求めいただいた方もいらっしゃいました。12時から13時までの1時間は、あっという間でした。最後に初日を終えた感想を聞きました。

オリィ研究所 髙垣内さん

「OriHimeは話の展開に合わせて、頭と手を動かすことができるので、話す側は実際に話している気分になれます。コンパクトなサイズですので、小さい子に話しかけているような気分になるので、自然と口調もゆっくりとなります。そのため、就労を目指す方の第一歩として、落ち着いて会話をすることができます。今後、3年間で1200台の稼働を目指しています。1200台の稼働により10000人の雇用が生まれることを想定しています。働きづらい人が働きやすい環境の下地は整いました。この輪を広げていければと思っています。」

県地域福祉課 大石さん

「県内は、働きづらさがある人が働ける環境がまだまだ少ないです。OriHimeを使って就労できる場所が増えていけば、これまで働けなかった方が短時間でも働く場ができます。本県が、もっと働きやすく、働きづらさがある人に寄り添えられるよう、引き続き、取り組んでいきたいです」

<取材を終えて>

デジタル化の進展により、ロボットを遠隔操作することで社会とつながりを持てるようになりました。今日という日は、パイロットの方々にとっては大きな一歩。この一歩を温かく見守っていきたいですね。

中編では、稼働後の状況を御紹介します(2月頃発信予定)。

【ここに行けば、OriHimeに会える!】

喫茶ぴあ~(県庁東館2階:静岡市葵区追手町)

・ 期間:~令和6年3月上旬まで

・ 日時:平日12時から13時

※ パイロットは、日によって変わります。

県民だより1月号の紙面の内容も併せてご覧ください。

県民だより1月号

―――↓問い合わせ―――――――――

県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(254)4032

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