フカボリ
自分の力を発揮できる社会へ~遠隔操作ロボットがつなぐ就労支援~(中編)
2024年2月29日
「こんにちは~!」県庁東館2階にある喫茶ぴあ~の入口でPOPを眺めていると、元気よく声をかけられました。声をかけてくれたのは、遠隔操作ロボット「OriHime」。welcomeの帽子を被って、手を振ってくれたり、お薦めの商品を案内してくれます。
「働きたい。でも、対人は苦手」、「家にいながら働くことができれば・・・」そんな思いを実現するために、昨年12月、喫茶ぴあ~に試験的に登場した遠隔操作ロボット「OriHime」。試験運用開始から2カ月が経過し、パイロット(OriHimeの操作者)に今の心境を聞きました。
前編と併せてご覧ください。
目次
1喫茶ぴあ~から眺めています
喫茶ぴあ~の遠隔操作ロボット「OriHime」は、現在、7人が交代で操作しています。
平日の11時45分から12時30分、12時30分から13時15分、13時15分から14時までの3シフト制を基本に、パイロットは喫茶ぴあ~に立ち寄る方へふじのくに福産品を紹介しています(13時15分から14時までは木曜日、金曜日のみ)。
-印象に残っている会話やエピソード、うれしかったことはありますか?-
「お薦めした商品を実際に食べていただき、帰り際に再度OriHimeの前に寄って「おいしかったですー!」と声をかけていただけたことがうれしかったです。」
「OriHimeのニュースを見られた方から、「興味があって来てみました」と声をかけていただきました。実際に取材を受けた際にお見せした動きなどを再現し、喜んでいただけました。」
「店員さんがOriHimeの横にバラの花を飾ってくれました。かわいくてうれしかったです。」
「一人で行った就労体験1日目。目の前においてある商品を見て、「かわいいですねー」と声をかけてくれたお客さんがいて、そこから会話に発展。「いかがですか?」と薦めることができました。」
「声をかけると、手を振ってくださったり、お薦めの商品を食べてくださったり、反応してくれることがうれしかったです。」
ーお薦めの商品はどのように決めていますか?ー
「基本はその日の店員さんからの情報を基に決めています。こくうまプリン、カレーライス、オムライスは定番ですね。お薦めして食べてくれた方からも、「美味しかった~!」という声をよく聞きます。」
2 就労困難者が置かれている環境
今回の取り組みのパイロットは、県内市町の就労支援窓口や社会福祉法人を通して募りました。
その就労支援窓口の一つ、富士市ユニバーサル就労支援センターは、働きづらさを抱えた方や一人での就労に不安がある方などへ段階的に支援を行いながら、就労を目指す取り組みを行っています。
グループ長の須藤さんは、
「こちらに訪れる方、お一人お一人、抱えている悩みや境遇は異なります。長く働ける働き先を、協力企業への就労体験や見学などをしながら、自分にあった仕事を見つける手助けをしています」
と教えてくれました。
今回のOriHimeの操作には、「接客の仕事に関心があるけれども人前に出る前にもう少し自信を深めたい」、「人と話をすることは好きだけれど面と向かって話すのは苦手」といったことの緩和に向けて、一歩踏み出そうとしている方々がパイロットとして携わっています。
パイロットをサポートする支援員さんの目から見ても、OriHimeの操作を担ったことで前向きな発言が出てきているそうです。
須藤さん
「一人一人状況は違いますが、緊張しながらも楽しんで就労体験をしています。声をかけるタイミングや大きさ、どうやったら呼び込めるかなど、試行錯誤して取り組んでいます。OriHimeの操作もスムーズで、以前よりも笑顔が増え、前向きになってきました。これまで不規則だった生活も、パイロットとしてシフトに入ることで生活にリズムができ、活動的になってきました。基本的に各自、自分が操作しやすい環境でOriHimeのパイロットを担っているのですが、1回のシフト終了後、毎回報告をくれて、次のシフトに向けた課題と挑戦したいことを教えてくれる人もいます。」
ーOriHimeの操作で物事に前向きになってきたのはうれしい限りですねー
須藤さん
「はい。今回、OriHimeをきっかけに社会と接点を持つことができ、これまで触れ合うことがなかった方々と会話できることが、パイロットにとてもいい影響を与えています。会話や対人が苦手でも、OriHimeを通してだったら少しずつ自信を持てるようになってきた人もいます。この経験も踏まえ、新たな職を見つけようと次への挑戦を始めた人もいます。何よりも、声をかけてくれる方々の優しさをパイロット一人一人感じ取っていました。」
ー今回、OriHimeのパイロットは、若い世代の方々が担っているのですが、普段の支援でも若い方々からの相談は多い印象ですか?ー
須藤さん
「若い方が増えたという印象はあります。コロナ禍により社会全体的に仕事が減ってしまった際に、自分にふさわしい仕事かどうか悩んだり、社会人としてのマナーを備えているかどうか不安に思ったり、ふとしたきっかけで就労が難しくなってしまった方もいます。」
ー働きづらさを抱えた方を少しでも救うためには、私たちはどのようなことをしていけばよいでしょうか?ー
須藤さん
「一番大切なことは、気にかけたり、声をかけてあげたりしてほしいです。本人の働きづらさは目に見えないので、分かりづらいです。そのため、仕事でミスをしてしまった場合も、理解されにくい部分があります。そのミスは、もしかしたら病的なことかもしれないし、体調的なことかもしれないし、プライベートの精神的なことかもしれません。今、一緒に働いている周りの人の中にも、働きづらさを抱えている人はいるかもしれません。一緒にいるからこそ、本人の強みを生かし、弱みを補って、共に就労できる環境づくりをしてほしいと思います。理解しつつも、特別視するのではなく、自然体で見守ってほしいです。」
本人が働きづらさを抱えているのかどうかは周りには見えにくいですが、相手の強みを見つけてそれを伸ばし、弱い部分はみんなでフォローするという心のゆとりと思いやりが大切。声をかけるということだけでも、「私はあなたに関心がありますよ」という意思表示になります。一人一人の心がけが、働きづらさを抱えた人の救いの一歩かもしれません。
3 喫茶ぴあ~での試験運用は、3月8日まで。こんな声かけがうれしい!
最後にパイロットの方々に今の心境を聞いてみました。
ー操作に当たって心がけていることや工夫していることはありますか?ー
「手振り身振りを使って、まずは興味を向けてもらうようにしています。近くに寄ってもらった際にも、男の低い声だと相手も驚くと思うので、声だけでなく、動きを織り交ぜながら話すようにしています。」
「なるべく動作を付けたり、話している方の方を向きながら目を合わせてお話するように心がけています。また、いきなり話しかけるとびっくりされる方も多いので、初めは手を振るなど動作を行ってから、「こんにちは」と声をかけることが多いです。」
ー残りの操作期間への意気込みや挑戦したいことはありますか?ー
「声かけを積極的に行いたいです。ひとりでもいいからリピーターの方と会話を楽しんでみたいです。」
「残りの期間でもOriHimeに興味を持ってくださる方を増やし、ぴあ~さんのリピーターを増やしていけるようにしたいと思っています。そのためにぴあ~さんに来てくださる方だけではなく、前を通り過ぎて行かれる方にも興味を持っていただけるよう、声かけやOriHimeを動かすことでアピールしていきたいです。」
「お客様のリピーターさんを獲得し、何気ない会話など、より仲良くなれたらいいなと思います。お店に食べに来る+OriHimeに会いに来る、という流れになったらいいなと思っています。」
須藤さん
「こんにちは、だけでもよいので、OriHimeに声をかけてくれるとパイロットも喜びます」
この日もパイロットの声かけでふじのくに福産品を購入した方がいらっしゃいました。
購入した方
「ロボットが腕を振っていたので立ち止まって見ていたら、声をかけられました。びっくりしましたけれど、素敵な取り組みですね。操作している方に勧められて、焼き菓子を買いました!」
OriHimeによる商品案内を通して、ふじのくに福産品の購入や喫茶ぴあ~の利用にもつながり、新たな就労支援の可能性を感じました。喫茶ぴあ~でOriHimeに会えるのは、3月8日(金)まで。ぜひ、皆さんも声をかけてみてくださいね。
前編はこちら
―――↓問い合わせ―――――――
県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(254)4032