フカボリ

介護の未来ナビゲーターへ聞く!~超高齢化社会での介護職を考えよう~

2025年8月4日

いま、日本では「超高齢化社会」という言葉が現実味を帯び、深刻な社会課題として注目されています。2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となり、介護を必要とする人の数は今後ますます増加すると予想されています。その一方で、介護の現場では慢性的な人手不足が続いており、現場スタッフの負担は日に日に増しています。

こうした状況を前に、私たち一人ひとりが「介護職の未来」を真剣に考えることが求められています。特に、次世代を担う若者たちが介護の現場に関心を持ち、やりがいを感じながら活躍していくことは、地域社会全体の持続可能性にも関わる重要なテーマです。

今回は、若者と介護の重要な架け橋となる「介護の未来ナビゲーター」たちに焦点をあて、その取り組みや想いを深掘りしていきます。

メディアチャンネル学生特派員:髙塚

目次

1.介護の未来ナビゲーター事業の概要

2.委嘱状交付式の様子(令和7年6月27日)

3.介護の未来ナビゲーターへインタビュー

4.結び

1.介護の未来ナビゲーター事業の概要

・事業の目的

高齢化の進行に伴う介護需要の増大により、介護職員は年々増加しているものの、それ以上に高齢化の進行が速く、介護の職場は慢性的な人材不足に陥っています。

2026年には、必要とされる介護職員が約59,000人であるのに対し、供給可能な介護職員は56,700人と2,300人の需給格差が生じると推計されており、学卒者など新たに就業する人材を増加させることが重要です。

そこで、介護の仕事の魅力を情報発信できる県内介護施設等に従事する若手介護職員等を「介護の未来ナビゲーター」として委嘱し、その活動を通じて介護の仕事に対する社会的な理解を促進するとともに、県内の高等学校、大学等への派遣などを通して、新卒人材の介護分野への就業を促進することを目的として、事業を展開しています。

・過去の実績や活動例
介護分野への興味・理解を促進する活動
・就職活動・職業観やナビゲーターが勤める施設の情報や、介護分野で働くことについての学生等とナビゲーターの情報交換など
介護分野への就職を促進する活動
・大学等のキャリアセンターが行う就職ガイダンス等での活動
・就活イベント等での活動

▲かいごフェスタinはままつ(令和6年12月21日)

2.委嘱状交付式の様子(令和7年6月27日)

 今年度は、静岡県庁にて「介護の未来ナビゲーター」委嘱状交付式が行われ、28名の方が新たにナビゲーターとして委嘱されました。式ではナビゲーター代表による宣誓が行われ、若い世代を中心に介護の仕事の魅力を発信し、若者の介護分野への参入促進に貢献することが誓われました。

介護の仕事は「大変」「忙しい」といったイメージで捉えられがちですが、実際には利用者の方からの「ありがとう」という感謝の言葉や、笑顔を見られる瞬間に大きなやりがいを感じられる――そんな一面も発信していきたいと語られました。

当日は塚本副知事も出席し、ナビゲーターの皆さんに向けて、「日本の介護の未来を担う存在として、介護の魅力を多くの若者に発信してほしい」と激励の言葉を送りました。

<委嘱状交付式の様子>


3.介護の未来ナビゲーターへインタビュー

今回は今年度で活動7年目となる𠮷川さんと今年度が初めての委嘱となる米山さんのお二人にインタビューを行いました。

介護の未来ナビゲーター(左:米山さん、右:𠮷川さん)と学生特派員(右奥)

―それでは、まず自己紹介をお願いします。

𠮷川さん:社会福祉法人ほなみ会、介護老人福祉施設「花菜風」(浜松市中央区)で働いている𠮷川と申します。介護の未来ナビゲーターとしては今年度で7年目となります。本日はよろしくお願いいたします。
米山さん:株式会社アイケア、小規模多機能型居宅介護サービス「あいの街高松」(静岡市駿河区)で働いている米山と申します。今年度が初めての就任となります。よろしくお願いします。

―ふだんのお仕事では、どのようなことをされていますか?

𠮷川さん:介護職として、入所されている高齢者の方々の日常生活を支援するのが主な仕事ですね。
米山さん:私は夜勤がメインなので、介護のほかにも宿泊されている方の見回りや、事務作業も行っています。

―介護職を目指したきっかけはありますか?

𠮷川さん:小さい頃から祖父母と一緒に暮らしていて、祖母がデイサービスに通うようになったことが介護の仕事を知るきっかけになりました。そして、中学生のときに職場体験で介護施設を訪れた際、利用者の方にかわいがられて、楽しいと感じたことが一番のきっかけです。
米山さん:私は、高校生のときに介護の仕事を知って、「おじいちゃんやおばあちゃんと話す仕事って楽しそう」と思ったのがきっかけです。施設見学に行ったときに、利用者さんがすごくかわいがってくれて、それで「やってみたい」と思いました。

―米山さんは入職時には介護の知識や経験がなく、現在は介護福祉士試験に向けて勉強中だと伺いました。苦労していることはありますか?

米山さん:もともと勉強が苦手で、現場で覚えた知識だけでやってきました。試験勉強で出てくる知識と、現場で体得したものは似ているようで違うことが多くて、その擦り合わせが大変です。仕事との両立もありますが、なんとか頑張っています。

―介護職をしていて良かったこと、心に残っているエピソード、大変なことはありますか?

𠮷川さん:ご利用者の方が、今までの生活を施設でも継続できるように支えることが大切だと思っています。ただ、集団生活やできないことが増える中で、それをどう支えるかが本当に難しいですね。でも、私たちの関わり次第で利用者さんの笑顔が増えたり、行動が変わったりします。「今日来てくれてうれしい」「もう帰っちゃうの?寂しい」と言っていただけると、本当にうれしいです。
米山さん:毎日大変なことはありますが、利用者さんがだんだんできないことが増えていく中で、困っている姿を見ると、精神的にきますね。泣き出してしまう方や、不安で悩む方もいて、そういった方に寄り添う介護をするのは難しいですね。

―この仕事の魅力を「もっと多くの人に知ってほしい」と感じた瞬間はありますか?

米山さん:認知症のおばあちゃんが、朝来て「こんばんは!」って言ったり、おちゃめな一面が見られたりすると、ほんとにかわいいなって思います。お年寄りが好きな人には、すごく合っている仕事だと思います。
𠮷川さん:介護の仕事を始める前は、「なんで介護やってるの?」って言われることが多くて。でも私は、楽しくて好きだからやってるんです。だからこそ、介護を知らない人に魅力を伝えたいと思う瞬間がありますね。

―介護の未来ナビゲーターになったきっかけは?

𠮷川さん:前任の方が産休に入るタイミングで、その代役として任命されたのがきっかけです。気づけば今年で7年目になります。
米山さん:私は会社から声をかけてもらったことがきっかけです。その時に初めてナビゲーターという役割を知り、「介護の魅力発信に貢献できるならぜひやってみたい」と思い、参加を決めました。

―米山さん、ナビゲーターに選ばれたとき、どのようなお気持ちでしたか?

米山さん:正直、「自分でいいのかな?」という気持ちがありました。でも、魅力を伝えたいという想いはあったので、一歩を踏み出しました。

―𠮷川さん、これまでナビゲーターとしてどのような活動をされてきましたか?

𠮷川さん:主に高校生への出前授業を行ってきました。普通科の高校では介護の仕事内容や、やりがいについてお話しし、福祉科の高校では生徒の不安や疑問に答える質疑応答の時間を設けてきました。
また、聖隷クリストファー大学の社会福祉学部で、社会福祉士を目指す学生に向けて、高齢者介護の実際についてお話しする機会もありました。

―ナビゲーターとして活動してきて、良かったと感じることはありますか?

𠮷川さん:人前で話すことに自信がついたことですね。学年全体や法人の前で話す機会を重ねる中で、緊張せずに話せるようになりました。また、普段の業務では出会わないような、さまざまな立場の方からの質問にも臨機応変に対応する力がついたと感じています。

―今年度の活動における抱負を教えてください。

𠮷川さん:「なんで介護の仕事をしているの?」と周りの人から言われることがあります。それは、介護の仕事にマイナスイメージがあるからだと思います。だからこそ、そのイメージを払拭できるよう、自分の身近なところから地道に取り組んでいきたいと思います。
米山さん:介護は大変なこともありますが、それ以上に魅力のある仕事です。若い人たちに「楽しい」「長く続けたい」と思ってもらえるような情報を発信していきたいです。

これからの介護職について

―これからさらに進む超高齢化社会において、現場ではどのような危機感を抱いていますか?

米山さん:とても危機感を感じています。私の施設では、フルタイムで働いている方の中で最年長が80代という状況です。現場では、まさに“老老介護”が起きている状態です。
𠮷川さん:若い世代の方が本当に少なく、新卒の職員以外は同世代や年上の方ばかりです。中途採用もありますが、年齢層は高く、若手の存在が希少な状況です。

―介護職のイメージをより良くするために、社会にはどのような変化が必要だと思いますか?

𠮷川さん:現時点で、介護職に対するマイナスイメージを完全に払拭するのは難しいかもしれません。しかし、これから介護について知っていく世代には、ポジティブなイメージを持ってもらえる可能性があります。たとえば、小学生など、まだ介護に関する知識がない子どもたちに向けた授業や魅力発信の取り組みが大切だと思います。今は祖父母と一緒に暮らす家庭が少なくなっているので、介護の仕事がどんなものか知ってもらう機会が少ないと思うので、その機会をつくっていきたいです。
米山さん:介護は「大変」「つらい」と思われがちですが、実際にはどんな仕事にも大変な面はあると思います。だからこそ、その中でも、介護の魅力ややりがいをもっと伝えていくことで、イメージが変わっていくのではないかと感じています。

―最後に、介護職に興味を持っている学生へメッセージをお願いします。

𠮷川さん:介護に興味を持っている方は、とても貴重な存在です。最近では施設情報もオープンになっているので、自分がどのような働き方をしたいのか、考えてみてほしいですね。施設見学も気軽にできますし、実際の雰囲気を感じたり、現場の声を聞いたりすることができると思います。
米山さん:ぜひ気軽に飛び込んでみてほしいです。近くの施設に見学に行くだけでもいいですし、1日体験でも1週間でも、歓迎しています。実際に、私の職場でも高校生がアルバイトとして介護に携わっています。介護に興味を持ってもらえるだけで、本当にありがたいです。電話でも直接でも構いませんので、気軽に足を運んでください!

4.結び

今回の取材を通して、それまで私自身が持っていた「介護=大変」というイメージが大きく変わりました。また、ナビゲーターという立場で、若い世代の皆さんが介護の魅力を積極的に発信し、活動していることに非常に関心を持ちました。
𠮷川さん、米山さんのお話からは、介護という仕事の本質的なやりがいや、人との関わりの深さが伝わり、介護の魅力を存分に知ることができる時間になりました。
現在、日本は急速に高齢化が進んでおり、介護職の必要性はますます高まっています。しかし、現場では人手不足が深刻です。
だからこそ、この記事を読んだ一人でも多くの人が、少しでも介護職に興味を持つきっかけとなればうれしく思います。

―――詳細情報――――――――――――――――――――――――――
介護の未来ナビゲーター(静岡県ホームページ)
https://www.pref.shizuoka.jp/kenkofukushi/koreifukushi/kaigohoken/1040743/1046227/index.html

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