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森林環境教育イベント「森とともだちになろう」から考える静岡県の林業と地域の未来

2025年10月21日

目次
1.はじめに
2.シカの被害の現実
3.森林教育の役割
4.静岡県の林業が抱える課題
5.イベントが示す未来
6.おわりに

1.はじめに

静岡県は、県土の6割(約50万ha)が森林という豊かな森林資源を有しています。木材等生産機能や水源かん養機能、地球温暖化の緩和機能など、森林がもたらす力は計り知れません。しかし一方で、林業の担い手不足、野生動物による被害、木材の低価格化と収益性の低下といった多くの課題にも直面しています。

そのような状況の中で、県民に森林の価値を知ってもらうことは重要な課題となっています。森林を守り、生かすためには、まず人々が関心を持ち、自分ごととして捉えることが欠かせないからです。

2025年8月、浜松市浜名区で開催された森林環境教育イベント「森とともだちになろう」は、そうした課題意識のもとに企画されました。小学生とその保護者を対象とした催しでしたが、その意義は静岡県林業の未来を考える大切なきっかけでもあります。

(執筆:学生特派員 伊藤)

イベント概要

開催日:8月6日(水)・7日(木)

開催場所:県森林・林業研究センター大会議室(浜松市浜名区) 

最寄り駅:遠州鉄道・西鹿島駅(徒歩10分強)

開催趣旨:体験活動を通じて森林の役割や木材の良さを理解し、関心を深めてもらうこと

プログラム内容は、射的ゲーム(森林加害動物を捕獲)、工作体験(どんぐり・シカの角・木材)、動物剥製展示、樹木園クイズラリーなど多彩でした。

射的ゲーム(木製ゴム鉄砲。的は森林加害動物)
シカ角や剥製の展示

特に今年度の特徴的な取り組みは、「シカの角の有効活用をテーマとした体験」です。研究員が捕獲したシカの角を使ったストラップ作りは、来場者に人気を博しました。
この体験は単なるクラフトにとどまらず、森林と人間の関係を考えるきっかけを提供するものでもあります。

特派員が作ったシカ角ストラップ

2.シカの被害の現実

静岡県内では、野生動物による農林業被害が深刻化しています。とりわけシカの増加は林業にとって大きな脅威です。
シカは植えたばかりの苗木や成林した木々の樹皮を食べ、下草を食べ尽くすことで森の再生力を奪ってしまいます。その結果、森林が荒廃し、豪雨のたびに土砂災害のリスクが高まります。さらに、水資源の安定供給にも影響が及ぶのです。

会場内でのシカ紹介
獣害対策と管理について楽しく学べます

こうした被害は農林業者だけの問題にとどまりません。
森林が弱れば、茶畑や住宅地を襲う土砂崩れ、洪水など下流域の暮らしにも被害が広がります。生活用水の安定確保すら危うくなる可能性もあるのです。 つまり、シカ問題は地域社会全体の課題といえます。
今回のイベントで取り上げられたシカ角ストラップづくりは、この課題を来場者に身近に感じてもらうための工夫でした。
ただ シカが増えて困っている、と伝えるのではなく、実物の角に触れ、加工することでシカの存在を具体的に意識できるのです。

3.森林教育の役割

このイベントは子ども向けの体験が中心でしたが、狙いは単なるレクリエーションではありません。背景にあるのは次世代への意識啓発です。
現代では、子どもが森と触れ合う機会は減っています。だからこそ、子どもの頃に森林の大切さや役割を体験的に学ぶことは、将来の林業従事者の育成や、森林保全意識の形成につながります。
また、保護者にとっても、子どもと一緒に体験を楽しむ中で、自分自身が森林や木材に関心を持つきっかけとなります。
普段は林業に関わらない県民でも、日常生活の中で木材を利用したり、森林の価値を理解したりすることが、結果的に県全体の森林経営を支えることになるのです。

射的のテーブルに貼ってあったポスター
的になっていた動物が紹介されています

4.静岡県の林業が抱える課題

静岡は森林資源が豊富な県ですが、その利用や維持には深刻な課題があります。


・次世代への技術継承と経済面の課題
全国的に従事者の高齢化が進み、次の世代への技術継承が求められています。また、木材価格の低迷や作業コストの高さなど、経済面でも改善の余地があります。
こうした課題を乗り越えるために、豊かな森林資源を活かした観光や学びの場づくり、そして環境保全と経済の両立を目指す新しい林業の形が求められます。

林業分野への就職を促すチラシ

・野生動物被害と気候変動
 シカによる食害で若木が減少し、森林の再生力が低下しています。さらに地球温暖化による異常気象や豪雨災害も課題です。
これらの課題は、静岡県だけでなく全国の林業が直面する共通の問題でもあります。

5.イベントが示す未来

森とともだちになろうというイベントは、参加者に森林を身近に感じてもらう場でした。シカ角工作などの小さな体験は、子どもにとっては夏休みの思い出に過ぎないかもしれませんが、それは森林の現実に触れる“入口”でもあります。
シカをかわいい動物として見るだけでなく、森林に大きく影響を与える存在としても捉えること。
木をただの素材と見るのではなく、再生可能で地球を守る資源として理解すること。
意識が変わり関心が広がることで、担い手不足や管理が行き届かない放置林の問題に取り組む動きが少しずつ生まれていきます。

6.おわりに

森林は地域社会を支える基盤であり、静岡県にとってかけがえのない資源です。その維持と活用には、県民一人ひとりの理解と協力が欠かせません。
イベントは子どもから大人までが森林に触れ、学び、考えるきっかけを提供しました。こうした体験を通じて森林の現状や課題を知ることが、将来の林業を支える担い手の育成につながると期待されます。

来場者へのプレゼント

シカ角ストラップを作る参加者の姿は、静岡の林業が抱える課題と、その未来への希望を象徴していました。森林と人との関係を結び、持続可能な地域をつくるための一歩を示したものといえるでしょう。

-施設概要(静岡県農林技術研究所 森林・林業研究センター)

静岡県農林技術研究所 森林・林業研究センターは、持続可能な森林管理や林業の推進のため、社会実装を重視した研究や取組みを展開しています。
〒434-0016 浜松市浜名区根堅2542-8
電話番号:053-583-3121
ファクス番号:053-583-1275
メール:forest-kenkyu@pref.shizuoka.lg.jp

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