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百年後の静岡が豊かであるために ~ふじのくに地球環境史ミュージアムの軌跡~

2026年2月25日

皆さんは、百年後の静岡、百年後の日本について考えたことがありますか?
ふじのくに地球環境史ミュージアム(以下愛称の「ふじミュー」と表記)は、2016年3月に「地球環境史」をテーマに、初の県立自然系博物館としてオープンしました。「百年後の静岡が豊かであるために」というコンセプトのもと、そのために何ができるかを考える場として、県内外の多くの方から親しまれ、愛されています。
 開館10周年を迎えるふじミューの歴史や魅力、今後の展望について、ミュージアムを開館当時から知る岸本研究員(専門:昆虫分類学・生物地理学)と、教育普及事業を担当する山崎主査にお話を伺いました。

岸本研究員
山﨑主査

目次
1.ふじミューってどんな施設?-特色のあるコンセプトとデザイン賞受賞歴
2.博物館の4つの役割とは?-研究フィールドとしての静岡県の魅力
3.ふじミューの楽しみかた-キーワードは余白とコミュニケーション
4.百年後の未来に向けて-生涯愛されるミュージアムであるために

1.ふじミューってどんな施設?-特色のあるコンセプトとデザイン賞受賞歴

ふじミューの施設概要やコンセプトについて、あらためて教えてください。

ふじのくに地球環境史ミュージアムは「地球環境史」をテーマにした、全国的にも珍しい施設です。「地球環境史」という言葉はあまり馴染みがないものかもしれませんが、わかりやすく言うと「人と自然の関係の歴史をひもとき、未来のあり方を考える」研究分野だと言えます。
「百年後の静岡が豊かであるために」というコンセプトを身近に捉えていただくために、「学び、考える場」という学校環境を生かしている点が特色の一つですね。

学校環境を生かしている、とお話がありましたがふじミューは2013年に閉校した静岡県立静岡南高校をリノベーションしているんですよね。高校をリノベーションした博物館は珍しい事例ということですが、特にどのような点に特色がありますか?

 一番の特色は、やはり各教室や学校の机、椅子といった学校備品をそのまま活用した展示ですね。12個の常設展示にはそれぞれ展示テーマがあります。
各教室には、展示テーマをシンボル化したサインを廊下で展開し、展示空間とグラフィックの一体的なデザインで、思考を促す仕掛けとしています。

「展示室3」の展示テーマは「潜考(潜って考える、深く考える)」。3という数字の下半分を暗い色にすることで、深く潜って考えることをイメージさせるサイン
青く色づけされたガラスが印象的な展示室3。机が上下に反転するよう展示されているのは、水面に映る様子を表現している

閉校してしまうと、建物はもちろん備品の処分にも困ることがあると思います。そこも上手に活用した展示というのが魅力的ですね。

常設展だけでなく、企画展においても学校のコンセプトを生かしたデザインを取り入れています。
今も「サクラ×さくら」という企画展をやっていますが、その展示台にも学校の机を利用し、サクラの花びらをイメージして並べる、といった工夫をしていますね。普段使っていない学校備品も旧体育館で保管しているので、たまにその中から企画展に使えそうなものを発掘して使っています。
時々、高校の卒業生の方達が展示を見に来て、「ここはこんな風に使ってるんだ!」と感想をいただきます。

出身校がこういった形で残っているのはきっとうれしいですよね。
また、国内外のデザイン賞も数多く受賞されているということですが、具体的にはどのような点が評価されているのでしょうか?

例えば国内ですと「DSA日本空間デザイン大賞2016」の日本経済新聞社賞/企画・研究特別賞を受賞しています。
国外では、クロアチア・ドブロブニクで開催された「The Best in Heritage 2019(至高の継承会議)」(参加35か国)において、日本を代表する博物館として出席しているんです。
このほかにも、開館以来、国内外の著名なデザイン賞を多数受賞しています。単純なデザインの綺麗さというよりは、施設のコンゼプトやアイデアが高く評価されていると感じます。

2.博物館の4つの役割とは?-研究フィールドとしての静岡県の魅力

それでは、続いて施設の役割や魅力に迫りたいと思います。博物館の役割はさまざまあるかと思いますが、具体的にはどのような機能を担っているのでしょうか?

博物館には4つの機能(調査研究、収集保管、展示・情報発信、教育普及)があると言われます。
その中でも特に、「収集保管」は、自然史資料(標本、文献など)を未来に残す「博物館固有の機能」として非常に重要視されています。特に標本が収集保管されないと、ある生物や昆虫がいた記録は文字としてしか残りません。しかし標本があることで、例えば写真からはわからない質感が理解できたり、標本からDNAやタンパク質を抽出して分析することで絶滅した動物の謎を解明したり、生き物の姿の詳細や大きさを3Dで再現したりといった可能性も秘めています。

研究という部分では、ふじミューにはどのような研究員の方がいるのでしょうか?

現在は、博士号を持つ7名の研究員たちがさまざまな専門分野(魚類、両生類、昆虫、植物、地質、古生物、水環境)で静岡を拠点に研究を進めています。
研究員は幅広い視野を持ち、地域からの質問にも対応するなど、アンテナを張ることが求められる職種でもあると考えています。

研究員の皆さんから見た静岡県は、どのような特色がありますか?

今の研究員は全員が県外出身ですが、その目で見ても、東西に非常に広く豊かな自然や生態環境に恵まれた静岡県は研究のフィールドとしてとても魅力的ですね。そしてなんといってもおいしい食材やお酒が多いのも静岡県の魅力の一つです。

専門の研究員の皆さんが、さまざまな側面から静岡の自然環境を深掘りしている点も、ふじミューの大きな魅力ですね。地域とのつながりという面では、どのような関わりがあるのでしょうか?

静岡にはさまざまな分野で在野研究や保護活動をされてきた個人の方や、NPO法人、活動団体の皆さんがいます。ふじミューは立ち上げの段階から現在まで、こうした方々に、運営や企画などさまざまな場面でご協力いただいています。

専門家だけではなく、自然や生き物を大切に思う多くの方がふじミューに関わってくださっているんですね。最近ですと、小学生のお子さんがこれまで静岡にいなかった昆虫種を発見した、というニュースを見ました。どうしたらこういった変化に気がつくんでしょうか。

登山が趣味で何年も同じ山に登っている人が、あるときふと「最近までいなかった生き物を見かけるようになった」または「最近いなくなった生き物がいる」と気がつくこともありますね。普段からセンサーを働かせて、周りをよく観察することが大切だと思います。

3.ふじミューの楽しみかた-キーワードは余白とコミュニケーション

ここからは実際に、館内を歩きながら常設展の見どころや楽しみ方、好評だった企画展のお話を伺いました。
1階の「展示室1」、「展示室2」、2階の「キッズルーム」と「図鑑カフェ」は無料で利用できるエリアです。

館内案内図

まずは常設展の展示室の楽しみ方を教えてください!

ふじミューの展示の特長として、「余白が多い」点が挙げられます。解説文を極力少なくしており、展示ラベルの大きさもあえて控えめにしているんです。

たしかに、文章が多いと読むのに夢中になったり、写真を撮ることに必死で展示そのものをよく見ることができなくなったりしてしまいがちです・・・。展示そのものを楽しむ余白があるのはうれしいですね。

説明が少ない分、疑問に思うことは必ず出てくると思います。わからないことや疑問に思うことはどんどんスタッフに尋ねてください。話し合いながら考えることで、新たな驚きや発見につながるかもしれません。そして、自身の思考を拓いて、自分なりの考えを探し出してみて下さい。

はい!ではさっそくですがこちらの「展示室4」はどのような展示テーマでしょうか?いろいろな生き物同士がつながっていますね。

展示室4の展示テーマは「ふじのくにの大地」

実はこの部屋の展示は、この椅子に「ヒト」が座ることで完成します。ヒトが生きるために作りはじめた「イネ」を食べる昆虫がいて、それを食べるカエルや鳥などの生物がいて、その生物を食べるものがいます。あらゆる生物は「食う-食われる」の食物網でつながっていますが、人間も例外ではないことが、視覚的に理解できる部屋ですね。

なるほど・・・!説明を聞いてからだとより楽しめますね!他の展示室もすべて紹介したいところですが、ぜひここは実際に来ていただいて、体験しながら楽しんでいただきたいです。

2階の「講座室」では、ミュージアムサポーターの方々が植物の標本を作る作業中ですね。ミュージアムサポーターとはどのような活動なんでしょうか?

ミュージアムサポーターとは、展示解説や標本資料整理などを補助するボランティアの方々で、約100名の方々が登録し、日々活動しています。講座室では、標本資料の保存・修繕といった作業の様子を見た来館者の方からの質問を受けて、コミュニケーションをとりながら活動しています。ミュージアムサポーターの皆さんは自発的に企画や活動内容を考えてくださることも多く、来館者とふじミューを結ぶ架け橋として欠かせない存在です。

植物の標本を作るミュージアムサポーターたち。さまざまな年代の方が活躍している

続いて、博物館の大切な機能のうち「調査・研究」の場であるバックヤードへ入らせていただきました。

バックヤードは、外から菌やゴミをできるだけ持ち込まないため土足禁止なんです。
魚類、昆虫、鉱物、植物など、普段は展示室に出ていない標本や、整理作業を待っている保管状態の標本がまだまだたくさんあります。自然や生物は常に変化を続けて資料や標本は増え続けるので、収容スペースは常に整理を続けなければなりません。

魚類の収蔵室
岸本研究員の専門「ハネカクシ」の標本

2階では、現在企画展「サクラ×さくらー山・里・海を彩る「和」の魅惑ー」が開催中なんですね。桜の季節が楽しみになる華やかな展示です!

日本が世界に誇る「春の風物詩サクラ」と「駿河湾の宝石サクラエビ」をかけた、静岡らしく見どころも多い展示です。植物のサクラだけではなく、サクラエビや、さらにはそれらと人との関わりの歴史を深掘りできるのは「地球環境史」ミュージアムならではです。
今回の企画展では、色とりどりのサクラなどをデザインした、企画展関連グッズも各種販売しています!

考えてみると、このエビを見て「サクラエビ」と初めて呼んだ人はすごいセンスですよね・・・。

たしかに、名付けた人が気になりますよね。調べておきます!
企画展「サクラ×さくら」は5月24日(日)まで開催しているので、桜の季節にぜひお越しください!

企画展「サクラ×さくら」の詳細はこちら

続いて、2階の図鑑カフェにお邪魔しました。自然史や地球環境史にまつわる図鑑をじっくり読めるカフェなんですね!こちらはどんな方のご利用が多いですか?

カフェだけでの利用もできるので、学生の方が図鑑をじっくり読んでいることもありますね。おしゃれなカフェドリンクやフードを楽しみにいらっしゃるご家族もいます。天気のいい日には南アルプスから駿河湾までが一望できるので、息抜きにもぴったりですね。

 岸本研究員のおすすめは豆から挽く「本日のコーヒー」だそうです!
ピンクペッパーのスパイスが効いたフォンダンショコラとバニラアイスも絶品でした

一通り見て回ってみましたが、ふじミューではさまざまな企画展を開催しているので何度来ても楽しむことができますね。これまでに開催した企画展で特に好評だったのはどういった企画でしょうか?

どの企画展もすばらしかったのはもちろんですが、特に印象的だったのは2018年に開催した「くらやみの覇者-駿河湾のサメにみる多様性と未来-」ですね。展示室を真っ暗にして来館者は懐中電灯一つで展示を見るのですが、本物の深海でサメに出会うような体験ができると好評でした。こちらの企画展はデザイン賞も受賞しています。
また、企画展「食虫植物-シンカのからくり-」も全国から多くの食虫植物ファンが来館してくださり、非常に好評でした。展示室が広すぎない分、「狭く深く」掘り下げる企画展と相性が良いのだと思います。

企画展「くらやみの覇者」はポスターのビジュアルからも迫力が伝わります・・・!企画展「食虫植物-シンカのからくり-」も、ファンの方はきっとうれしいですよね。
個人的には企画展「しずおかの酒と肴」がとても気になります。図録を読むだけでも楽しいのですが、こちらはぜひ行きたかったです・・・!

こちらも好評な企画展でした。「百年後に残したい豊かさとは?」という問いに対し、食や酒など身近な題材を通じて考えるきっかけを提供することも大切ですね。
食や酒に関する企画展を行うと、ふじミューに初めて来た!というお客さまが多く来館してくださいます。行政が真剣に行うと意外と面白い、こういった挑戦的な企画展は今後も続けたいですね。

読み応えがある図録。図鑑カフェやオンラインで購入できます
の企画展も思い入れがあります

4.百年後の未来に向けてー生涯愛されるミュージアムであるために

ふじミュー開館から10年を振り返った感想や、開館当初を知るからこそ言えることを教えてください。

感想としては、「常に走り続けて、気づいたら10年が経っていた」というくらいあっという間でしたね。
それでもまだできてないことの方が多いと感じていますし、取り組みたい調査研究や企画展がたくさんあります。
また、「自然」や「社会」について振り返ってみると、この10年間にもいろいろなことがありましたよね。地震をはじめとする自然災害やコロナ禍、天候の変化やクマ被害など、自然環境の変化に合わせて、人間社会も常に変容しています。ふじミューはこうした変化の中にありながら、今を見つめて、未来を考え続けています。

たしかに、10年前には想像もしていなかった環境や社会の変化がありますね。

自然は常に変わり続けているため、収集・保管はどれだけやっても「終わり」が来ることはありません。コツコツと、何年も、何十年先も変わらずやっていくことこそ大切ですね。ここはふじミューの「変わらない」部分です。また、ふじミューを支えてくださるサポーターやNPO、地域の方々、来館者の皆さまとのつながりも、「変わらない」部分だと思います。変わり続ける自然の中で、「変わらないこと」「続けること」を大切にしたいですね。

ありがとうございます!では最後に、百年後の未来に向けてふじミューが今後どうありたいか、お一人ずつメッセージをお願いします。

山﨑主査
県民の皆さんはもちろん、県外の方からも愛されるようなミュージアムでありたいですね。
キッズルームや図鑑カフェなどもあることでお子さんから大人まで利用できますし、一生涯かけて何度も足を運んでもらえるようなミュージアムでありたいと思っています。

岸本研究員
スタッフとの対話型の展示である「地球家族会議」が最たるものですが、毎回違う気づきが得られる場所であり続けたいですね。
展示は大きくは変わりませんが、社会や自然は常に変わり続けています。百年後の静岡が豊かであるために何ができるか、皆さんと一緒に考えるミュージアムを目指したいです。

あらゆるものがハイスピードで変化する中で、「変わらないこと」を続ける挑戦をしているふじミュー。
忙しい日々の中でふと立ち止まって考えたくなった方はぜひ一度訪れてみてください。

©ナカサ&パートナーズ_
1回20分程度の「地球家族会議」では、さまざまな地球環境リスクの一つをテーマとして取り上げる

施設概要 ふじのくに地球環境史ミュージアム

所在地:〒422-8017 静岡県静岡市駿河区大谷5762
電話:054-260-7111
開館時間 10:00~17:30(最終入館17:00)
休館日 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は次の平日)、年末年始
限定開館日(4/1から) 毎週火曜日(火曜日が休館日または祝日の場合は次の平日。除外日あり)
観覧料 一般300円(4/1から500円)、団体200円(4/1から400円)(1人につき)
大学生以下・70歳以上・障害者手帳等所有者及び付添者1人は無料

最新のイベント情報は、HPやSNSでご確認ください。

HP https://www.fujimu100.jp/

・各種SNS

X https://x.com/fujinokuni_nem

Instagram https://www.instagram.com/fujimu100/

YouTube https://www.youtube.com/channel/UC0_D0egbs64ArPlc1BYjnXw/featured

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