フカボリ
【建設業×福祉】障害のある人達が堤防除草に挑戦ー地域を支える新しいかたちー
2026年2月17日
私達の身近にある河川堤防や道路。
いつの間にか草が刈られ綺麗になっていたという経験はありませんか。
それは、誰かが陰で作業してくれているからです。
静岡市の中心部から北東に位置する麻機遊水地は、洪水調整の役割とともに豊かな自然に触れ合える憩いの場所です。
今回、静岡土木事務所は、そんな麻機遊水地の堤防除草業務を、従来の建設業者に加え、新たに障害のある人の自立や就労を支援する団体に委託しました。
建設業と障害者福祉をつなげる、全国的にも珍しい「建福連携」に挑戦した静岡土木事務所の取り組みを、現場の声とともにフカボリします。
目次
3 「僕たちが頑張れば道が開ける」- 働く喜びがnanairoに輝く!-
1 「建福連携」の原点
障害者福祉の現場では、障害のある人が住み慣れた地域で自分らしく働ける機会の拡大や収入アップなどの課題があり、社会参加の促進なども求められています。
働くことは、障害のある人の自立・社会参加のために大切なことですが、半数以上の人が何らかの理由で働いていない状況にあります。
一方、地域住民が安全に安心して暮らすために必要なインフラ整備と維持管理を担う静岡土木事務所では、適切な管理のために建設業者に業務を発注しています。
しかし、建設業で働く人の減少などにより、堤防除草業務をはじめとする公共事業の入札で、応札者が無いことが度々あり、計画的な業務実施に頭を悩ませていました。
そこで、堤防除草業務を障害のある人の就労支援に活用できないかと考えました。
これは、障害のある人にとっては働く機会と収入を得るチャンスとなり、静岡土木事務所にとっては計画的なインフラの維持管理が可能になります。
このように建設業と障害者福祉が力を合わせれば、それぞれの課題を解決し、共生社会の実現につながるWin-Winの関係を築けるのではないか。
この発想こそが「建福連携」という今回の取り組みの原点になっています。
※「建福連携」とは、建設業と福祉が連携し、建設分野でも障害のある人の就労や活躍を応援していく取り組みです。
2 静岡土木の挑戦!麻機遊水地で「建福連携」がスタート!
令和7年10月、静岡土木事務所では、特定随意契約制度を活用して静岡市にある麻機遊水地の堤防除草業務を試験的に発注し、認定特定非営利活動法人オールしずおかベストコミュニティと契約しました。
今回の取り組みの発案者で、麻機遊水地の整備・維持管理を担当している河川改良課の望月課長にお話を伺いました。

Q.取り組みのきっかけを教えてください。
麻機遊水地は、治水や公園の機能を有する多目的な遊水地で、年々整備を進めその範囲を広げています。
範囲の広がりに伴い、遊水地の適切な管理のために除草の必要がある堤防等の範囲も増えており、どうしたらよいかと頭を悩ませていました。
そんな時、たまたま静岡土木事務所を訪問して来たある障害者就労支援施設(今回の発注先とは別)の方が、「ぜひ県の仕事を手伝わせてほしい」と声を掛けてくださる機会がありました。
草刈りをメインに活動しているとのことで、実際の作業風景の写真を見せてもらったところ、本格的な機材を使って広範囲を除草していることがわかり、こんなにしっかりやってもらえるなら、麻機遊水地の堤防等の除草も任せられるのではないかと思いました。
Q.取り組みを提案したとき、周りはどのような反応でしたか。
公共事業に障害者就労支援施設が参加すること自体、県庁内で初めての試みということもあり、手探りの状態でした。
公共事業は、普段から安全管理を徹底しており、障害のある人がどのような場所や作業内容なら安全に実施できるのか、契約手続きはどうしたらよいか、など分からないことも多くありました。
しかし、いざ所内会議で取り組みの趣旨を説明すると、予想以上に「いい取り組みだね」と賛同する声が多くありました。
安全面の配慮や契約手続きなどのハードルは周りの職員が「こういう方法もある」「これは任せて」と快く協力してくれたおかげで、ひとつずつ乗り越えることができました。
Q.発注にあたって、気をつけた点はありますか。
一番気をつけたのはやはり安全面です。
遊水地の堤防の池側は、普段から深く水が蓄えられているため、斜面から水面に転落する危険がありました。
そのため、主に堤防の水のある方と反対側の除草作業をお願いしました。
また、交通量の多い車道付近も作業範囲から外しました。
麻機遊水地は広大な敷地を有していますので、建設業者と障害者就労支援施設で除草範囲を適切に分担することができました。

Q.みなさんの仕事ぶりはいかがですか。
除草、集草、処分まで、全員で協力しながら丁寧にやっていただき、本当に助かっています。
「そこは滑りやすいから気をつけて」「このあたりはもう少し草を集めたほうがきれいになりますよ」などと声を掛け合いながら、一生懸命に作業を進めてくださるので、麻機遊水地全体に活気が溢れています。
Q.地域のみなさんの反応はいかがですか。
「堤防がきれいになってうれしい」「たすかります」「ありがとう」という感謝の言葉をたくさんいただいています。
また、障害のある人が生き生きと働く姿を見て、「すごいですね」「がんばってください」と声を掛けてくださる方もいます。
堤防除草は、麻機遊水地の美化と治水機能の維持のために重要な業務ですが、今回はそれに加え、人と人との温かなつながりをもたらす取り組みになったと感じています。
Q.取り組みの手応えと「建福連携」の今後についてお聞かせください。
安全管理を徹底すれば、こうした連携は十分に成り立つと実感しています。
堤防除草のような比較的簡単な作業の一部を障害者就労支援施設のみなさんと分担できれば、維持管理体制の安定化が図れます。
同時に、建設分野においても障害のある人の活躍を応援することはできる。
一見すると障害者福祉とは縁遠いと思われがちな建設業の社会的イメージを変え、価値を向上させる契機にもなると思います。
今回の取り組みを多くの方に知っていただき、今後、他所属や民間企業でも「建福連携」の理解が広がっていくよう、事例紹介や情報発信を続けていきたいと考えています。


3 「僕たちが頑張れば道が開ける」- 働く喜びがnanairoに輝く!-
今回、オールしずおかベストコミュニティの呼び掛けに応じて堤防除草の作業に挑んでくれたのは、就労継続支援B型事業所「nanairo」のみなさんです。
施設長の池田さんにお話を伺いました。

Q.まずはnanairoの紹介をお願いします。
私たちは、静岡市清水区にある就労継続支援B型事業所です。
障害のある人が無理なく自分のペースで働きながら社会参加を目指しています。
nanairoでは、それぞれの特性や希望に応じて、主に農作業や草刈りの仕事をしています。
Q.今回の取り組みに対する想いを聞かせてください。
もともと草刈りは得意分野ですが、今回はじめて県の公共事業を任せてもらえることになり、いつも以上に強い責任感を持って臨んでいます。
今朝のミーティングでも、「県民のみなさんに、私たちが立派に働いている姿を見てもらおう!」「僕たちが頑張れば、障害のある多くの人にとって、働く機会が増える大きなチャンスになるかもしれない」と話をしたところです。


Q.障害のある人にとって、働く機会の拡大は切実な課題ですね。nanairoさんでは、受注先を開拓するためにどのような工夫をされていますか。
はい。nanairoではさまざまな企業に声を掛け、プロの職人や有資格者をサポートする仕事を受注しています。
多くの企業では、慢性的な担い手不足が続いている中、プロの職人や有資格者が、準備や片付けをはじめとした単純作業もやらざるを得ない状況を知り、「その部分を私たちに任せてくれませんか」とお願いしました。
具体的には、庭師が剪定して切り落とした枝葉を片付ける仕事や、高圧電線の架線工事に使用する大量のボルトにオイルを塗る仕事などを引き受けています。
企業からは、「職人や技術者が専門的な仕事に集中できるようになり、会社全体の生産性が向上した」と高い評価をいただいています。
これまで、建設業の仕事は、技術的な問題と安全面の心配があり、障害のある人には無理だろうと勝手に決めつけていましたが、今回堤防除草をやらせていただき、建設業の中にも私たちにできる仕事が十分にあることを実感しました。
Q.建設業との連携が進めば、工賃UPや収入の安定にもつながりますね。
そうですね。
私たちもこれまでなかなか工賃を上げることができず苦労してきましたが、担い手不足に悩む企業との連携を進めていく中で、少しずつ工賃が上がってきています。
現在、静岡県が掲げる目標工賃は月額3万円ですが、おかげさまでnanairoはそれを大きく上回っています。
以前の工賃ではお菓子やジュースを買うのが精いっぱいだったnanairoの皆が、最近は仕事で使う工具などを自分で買ってくるようになりました。
もちろん、必要な工具は事業所でも用意しているのですが、自分で気に入った道具をそろえて仕事を頑張ろうとする気持ちが、何よりも嬉しいです。
池田さんにとってnanairoのみなさんは単なる施設の利用者ではなく、一緒に仕事をする大切な仲間だと言います。
それぞれが異なる特性を持ち、必要な支援を受けながら、お互いに助け合って自分の役割を果たしています。
実際、除草作業をしているみなさんの表情は、驚くほど真剣です。
草刈り機を使う人、手作業で草を集める人、ごみの分別をする人など、それぞれの強みを生かして作業を分担し、抜群のチームワークで除草を進めています。
「外で働くのは気持ちがいい!」「地域の役に立つ仕事ができてうれしい!」と語るnanairoのみなさん。その笑顔はnanairoに輝いて見えました。


4 取材を終えて-共に地域を支える未来-
今回の取材で見えてきたのは、「建福連携」という地域を支える新しいかたちです。
手探りで始まったこの小さな試み。しかしそこには、確かな希望が詰まっていました。
障害のある人が住み慣れた場所で自分らしく、笑顔で働きながら地域社会の中で役割を担えるよう、建設分野も応援し、持続可能なインフラの維持管理体制の構築につなげていく。
それぞれの課題を「弱点」ではなく「接点」に変えた、地域を支える新しい連携モデル。「建福連携」の先には、温かな共生社会の未来が広がっています。
もちろん、乗り越えるべき課題はまだあります。それでも、今回の挑戦がひとりでも多くの方の心に届き、建設業と障害者福祉が踏み出す新たな一歩になることを願って止みません。
県では、今後も地域の実情に応じ、新たな連携モデルを創出するための取り組みを進めていきます。
