フカボリ

バーチャルがつなぐ、新しい出会いと学びのかたち
— Vket2025 Winterで見えた「関係人口の入り口」と「学びの場」としての可能性 —

2026年4月2日

皆さんこんにちは! 学生特派員の河守です。
「インターネット」と聞いて、皆さんはどのような日常生活を思い浮かべていますか?
動画配信やSNS、オンラインゲームなど、日常の中で当たり前のように使っている一方で、どこか現実とは切り離された世界だと感じている人も多いのではないでしょうか。私自身もこれまで、インターネットは便利ではあるものの、画面の向こう側で完結する空間だと思っていました。しかし近年、「メタバース」という言葉を耳にする機会が増え、インターネットの可能性が広がっていることを感じるようにもなっています。

そこで私は、知識として知るだけでなく、自分自身で体験し、理解したいと考え、世界最大級のメタバースイベントであるバーチャルマーケット(通称:Vket)を取材することにしました。バーチャルマーケットというのは、企業や自治体、個人クリエイターが出展し、来場者はアバターとなって会場を歩き回り、商品展示や体験型コンテンツ、交流イベントなどを楽しむことができる場となっており、現地に行かなくても参加できる点が特徴で、エンターテインメントだけでなく、観光PRや企業説明、社会課題の発信などにも活用されています。私自身の目で企業や自治体も参加するこの場が、どのように現実社会とつながっているのかを確かめたかったからです。学生という立場から、Vketがどのような場になり得るのかを考えてみたいと思います。

▲特派員が実際にVketを体験している様子

目次
1.Vketの全貌 ~メタバースが「関係人口」を生み出す理由~
2.株式会社HIKKY 企画営業・中村さんへの取材から ~Vketが描く、メタバースと社会をつなぐ未来~
3.静岡県交通基盤部未来まちづくり室・佐藤さんへの取材から ~メタバースが広げる、行政と若者の新しい距離感~
4.まとめ ~今回の体験から感じたことと、これから期待されること~

1.Vketの全貌  ~メタバースが「関係人口」を生み出す理由~

▲実際のバーチャル空間の写真

VRで広がる新しい体験「バーチャルマーケット2025 Winter」

世界最大級のメタバースイベント「バーチャルマーケット(Vket)」が、2025年冬もVRChat上で開催されました。2018年の初開催以来、年に二回開かれ、累計来場者は1000万人を突破しています。現実の展示会とは違った、独特の没入感が話題です。Vketの魅力は、展示をただ眺めるだけで終わらないこと。ゲームやアトラクション、操作できる仕掛けがあり、来場者は自分のアバターを動かして体験しながら学べます。「触れて理解する」感覚で、情報が自然と記憶に残るのが特徴です。自治体ブースでは、移住や観光をいきなり勧めるのではなく、「まず知ってもらう」「興味を持ってもらう」ことに重点が置かれています。

来場者はゲーム感覚で地域を体験し、「もっと知りたい」という気持ちが自然に芽生えます。これが、関係人口形成の第一歩になっているのです。自宅から気軽に参加でき、顔を見せる必要もないVket。アバターを通じてコミュニケーションできるため、参加の心理的ハードルが下がります。結果として、これまで地域の情報に触れる機会が少なかった人も、気軽にのぞくことができる入口になっています。土木や防災、地域の歴史など、一見難しそうなテーマも、体験型コンテンツとして楽しめます。来場者は「学んでいる」と意識せずに知識を吸収できるため、自然で自発的な学びが生まれます。会場では、偶然の出会いから会話が生まれることも多く、初対面同士でも自然にコミュニケーションが発生していました。SNSや別のイベントへと関係が広がることもあります。さらに、各ブースには現実世界の情報へアクセスできるリンクや資料も用意され、仮想と現実がつながる設計です。Vketは、単なるVRイベントにとどまらず、体験・学び・交流の場として、そして現実社会への関心を広げるきっかけとして、ますます注目を集めています。

今回の企業の独自のブースでは、花王グループカスタマーマーケティング株式会社のブースを体験させていただきました。体験内容としては、巨大娘の手を使って手洗いを啓発する体験を用意し、リアルでも楽しめる要素を取り入れており、写真撮影もすることができ、記憶にも記録にも残る体験となりました。その他にも参加者が楽しめる体験が盛り込まれたブースが数多くありました。

2.株式会社HIKKY 企画営業・中村さんへの取材から
~Vketが描く、メタバースと社会をつなぐ未来~

○株式会社HIKKY

株式会社HIKKY(ひっきー)は、世界最大級のメタバースイベントであるVketを企画・運営してきた企業です。HIKKYの特徴は、メタバースを一部のコアなユーザー層やクリエイターのものだけに閉じず、企業や自治体、一般の来場者まで含めた「社会全体にひらく場」として提供している点です。

また、働き方として、メタバース空間上で社内会議を行っており、遠隔でもチームの連携を取りやすいだけでなく、対面でのコミュニケーションが苦手な方にとっても働きやすい環境になっていると言います。“HIKKY”の会社の名前の由来となったのは、「ひきこもり」を意味するネットスラングとのことで、過去に外に出づらい時期を経験した人がチームの中心を担って活躍されており、また、子育てや介護など在宅で働きたい人も含め、多様な事情を抱える人が働きやすい環境になっているそうです。

近年、静岡市ではひきこもりに関する相談件数が最近の数年間で増加傾向にあり、2019年度から2022年度の4年間で相談件数が約21.1%増加し、2,170件に達しました(※)。内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、15〜64歳のひきこもり状態にある人は全国で約146万人と推計されています。こうした状況を踏まえると、株式会社HIKKYのような働き方は、今後ますます注目されていくと考えられます。
(※)静岡市ひきこもり地域支援センターの実績推移(静岡市HPより)

▲中村さんのアバター

中村さんは、その中でも企画営業として、企業や自治体とVketをつなぐ役割を担っています。取材の中で中村さんは、「Vketは場所を貸すだけのイベントではない」と語ってくださいました。この言葉は、HIKKYの姿勢を端的に表していると感じました。一般的に「営業」と聞くと、商品やサービスを売り込む仕事を想像しがちですが、中村さんのお話を聞く中で、そのイメージは大きく覆されました。中村さんの仕事は、「出展者が何を伝えたいのか」「どんな課題を抱えているのか」を丁寧に聞き取ることから始まります。そして、その想いや課題を、メタバースという空間でどのように体験として表現できるかを、出展者と一緒に考えていくそうです。

近年、Vketには多くの自治体が参加しているとのことですが、その理由について中村さんは、「これまで自治体の情報が届きにくかった層と出会えるから」だと説明してくださいました。リアルの説明会やイベントでは、どうしても参加者が限られてしまい、特に若者や、地域外に住む人々とは接点を持ちにくいのが現状です。一方Vketでは、参加者がゲーム感覚でブースを回る中で、自然と地域の取り組みや魅力に触れることができる。参加者は「説明を聞いている」という意識を持たないまま、地域を知ってもらうことができます。

関係人口という考え方

取材の中で何度も出てきたキーワードが「関係人口」です。まずは知ること、興味を持つこと。その小さなきっかけを積み重ねることが、将来的な関係人口につながっていくという考え方です。学生の立場から見ても、この「焦らない姿勢」はとても印象的でした。短期的な成果を求めがちな現代において、長い時間軸で人との関係を育てようとするVketの在り方は、新しい社会との関わり方を示しているように感じました。Vketでは、防災やインフラ、地域課題など、一見すると難しく感じられるテーマも多く扱われています。しかしそうした理解が難しいテーマでも、参加者自身が体験を通して試行錯誤を重ねることで、自然と理解が深まる構造になっているといます。これは、学校での学びとも通じる部分があると感じました。頭で覚えるのではなく、体験を通して納得する。その学び方が、メタバース空間では自然に実現されています。

学びの場としてのVket設計

中村さんが語っていた中で特に印象に残ったのが、「現実をそのまま再現する必要はない」という言葉でした。メタバースでは、スケールを誇張したり、視点を変えたりすることで、現実よりも分かりやすい形に情報を再構築できる。その自由度こそが、メタバースの強みだといいます。この考え方によって、専門的な内容でも、来場者が直感的に理解できる空間が生まれているのだと感じました。Vketには若い世代の来場者が多いのですが、その理由について中村さんは、「ゲーム文化との親和性」を挙げました。探索する、操作する、報酬を得る。こうした体験は、若者にとって日常的なものであり、Vketはその感覚を活かしながら、地域や社会の課題に触れる機会を提供しています。「社会の話をされている」というより、「面白い体験をしていたら、気づいたら社会と出会っていた」。そんな構造が、Vketの魅力なのだと感じました。アバターを介した参加は、心理的なハードルを大きく下げます。顔を出さなくてもいい、失敗しても恥ずかしくない。その安心感があるからこそ、人は積極的に行動できます。中村さんが大切にしている「心理的安全性」という言葉は、Vket全体の設計思想を表しているように思えました。
今回の取材を通して、Vketは単なる流行のイベントではなく、長期的な視点で社会との関係を育てる取り組みだと感じました。関係人口、学び、心理的ハードルの低減。これらを体験として自然に組み込んでいる点に、Vketの強さがあります。学生の立場である私にとって、Vketは「未来の社会との関わり方」を考えるきっかけとなりました。メタバースは目的ではなく手段です。

3.静岡県交通基盤部未来まちづくり室・佐藤さんへの取材から
~メタバースが広げる、行政と若者の新しい距離感~

▲静岡県ブースの外観、ブースの中では体験型のゲームを行うことができます!

静岡県がVketに出展したブースは、沼津港にある大型展望水門「びゅうお」をモチーフにしています。出展場所は、“パラリアル新宿”の中の一角です。360度の大パノラマを楽しめる沼津港のランドマーク沼津港大型展望水門「びゅうお」は沼津港に高くそびえる巨大な建造物で、東海地震の津波対策の一環として2004年(平成16年)に完成した水門です。津波をシャットアウトする扉体(ひたい)は、幅40m、 高さ9.3m、重量は406tと日本最大級で、制御設備は地震計と連動し地震発生後約5分で自動的に閉鎖される仕組みです。ブースでは、門扉の開閉を操作するゲームを通じて、水門の役割を体感できるようになっていました。

静岡県がVketに参入したわけ

佐藤さんは、Vket出展の理由について「これまで県の取り組みが届きにくかった層にアプローチするため」と語ってくださいました。特に、若者や県外在住者に対して、土木インフラの整備・維持管理やまちづくりの仕事を知ってもらう機会が少なかったといいます。Vketは、そうした課題を解決する新しい手段として注目されました。私自身、行政の仕事について深く考えたことはありませんでした。佐藤さんも、「学生の皆さんが行政を身近に感じる機会は多くない」と話します。だからこそ、Vketでは説明的になりすぎず、「まず興味を持ってもらうこと」を重視したといいます。この姿勢は、学生目線で見ても非常に重要だと感じました。

また、「説明会などの場は大切ですが、参加できる人や届く人がどうしても限られます。だからこそ、Vketのような場では“まず遊びとして触れてもらう”入口をつくり、そこから土木インフラの役割を前向きに知ってもらうきっかけにしたい」と語ってくださいました。

メタバースで伝える「土木インフラ」の仕事

その“説明しすぎない”方針は、ブース内の導線設計にも表れていました。
土木インフラというと、道路や橋といった整備を思い浮かべる人が多いかもしれません。佐藤さんは、そうした仕事の役割を「どうすれば身構えずに触れてもらえるか」を意識したと語ります。

静岡県ブースでは、まずゲームで興味を引き、その次のステップとして、もっと知りたい人が自然に深掘りできる導線を用意していました。来場者が友人と遊びに来ている空間に、長い説明資料を押し付けるのではなく、ブース内にビジュアル中心で読みやすいデジタルポスターを置き、そこから詳しいWebサイトへ遷移できるようにしたのです。
「遊びの場にお邪魔している」という意識を持ちながら、知りたい人には情報が届くようにする——そのバランスが、メタバースらしい広報の工夫だと感じました。

▲実際にゲームを行っている様子

取材を通じて感じたのは、学びとは必ずしも机に向かうことだけではないということです。Vketのような空間では、遊びながら、体験しながら学ぶことができます。佐藤さんは、「新しい領域に興味を持ってもらう入り口として、Vketは非常に相性が良い」と語りました。その言葉は、学生である私自身の実感とも重なりました。実際にゲームを体験してみると意外と難しかったですが、楽しみながら水門の役割を感じることができました。さらに、行政の取り組みは慎重さが求められる場面も多い一方で、佐藤さんは、「メタバースは挑戦しやすい場」だと語ります。小さく試し、改善を重ねていく。そのプロセス自体が、行政の取り組みや広報のあり方をアップデートしていく知見になっているといいます。

学生特派員として感じたこと

取材を通じて、行政は決して遠い存在ではなく、私たちの生活と密接につながっていることを実感しました。Vketという場を通じて、そのことを体感できたのは大きな収穫でした。この取材を通じて、メタバースは単なる娯楽ではなく、社会と若者をつなぐ重要な役割を果たしていると感じました。また、Vketは、行政を知る入り口であり、学びの場であり、関係人口につながる可能性を広げるプラットフォームです。学生である今だからこそ、その価値を強く実感することができました。

▲土木インフラを簡単に教えてくれてます!

4.まとめ
~今回の体験から感じたことと、これから期待されること~

今回、Vketを取材し、複数の関係者の話を聞いたうえで強く感じたのは、「メタバースは特別な人のものではない」ということでした。取材前の私にとって、メタバースはどこか先進的で、限られた人が楽しむ世界というイメージがありました。しかし実際に体験してみると、そこには年齢や立場、住んでいる場所を越えて、多様な人が集まり、それぞれの関心を持って行き交う空間が広がっていました。

学生である私にとって、地域や行政、社会課題は正直なところ「遠い存在」でした。関心はあっても、どこから知ればいいのかわからず、一歩踏み出せずにいました。しかしVketでは、そうしたテーマが遊びや体験の中に自然と組み込まれており、身構えることなく触れることができました。「難しそう」と感じる前に、「少し面白そう」と思えたことが、これまでとの大きな違いでした。取材を通して何度も耳にした「関係人口」という言葉も、頭ではなく感覚として理解できました。Vketは、移住や観光といった具体的な行動を求めるのではなく、まず地域との心理的な距離を縮めてくれる場となっていました。実際、私自身も静岡県の取り組みについて、これまで以上に調べてみたいと思うようになりました。Vketは、体験しながら学ぶという、学生にとって入りやすい学びの形を提示しており、自宅から参加でき、顔を出す必要もなく、自分のペースで回れる環境は、説明会やイベントに参加しづらさを感じていた私にとって大きな安心感がありました。佐藤さんへの取材を通じて、行政職員の方々がどのような思いで仕事に向き合っているのかを知れたのも、Vketという場があったからこそであり、メタバースは目的ではなく、人と社会をつなぐ手段であり、その可能性を学生の立場から実感できました。

今回の取材は、私自身にとって「知る側」から「伝える側」へ立場が変わる経験でもありました。体験し、話を聞き、自分の言葉でまとめる中で、メタバースや行政、地域について考える視点が大きく広がりました。学生、社会人、行政、企業、それぞれが立場を越えて関わり合うことで、新しい価値が生まれるはずです。その中で、関係人口の輪が広がり、学びの機会が増えていく未来を想像すると、大きな可能性を感じます。今回の体験を通じて、メタバースは現実から切り離された世界ではなく、現実を豊かにするための一つの手段であると実感しました。Vketは、そのことを体験として教えてくれる場でした。この出会いが、私自身のこれからの学びや進路、社会との関わり方を考えるきっかけになったことは間違いないでしょう。

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