しずおかWELL-BE+ Vol.4

多様性が新しい価値を生む力に。「日本一の多文化共生県」実現へ

静岡県は2011年に多文化共生推進基本条例を制定し、「日本一の多文化共生県」の実現に向けて歩みを進めてきた。その取り組みは今年度、第3期多文化共生推進基本計画の総括の年を迎える。

鈴木知事の就任を機に、県の施策には“インターカルチュラル”という新たな視点が加わり、多様性を価値へと変えるアプローチが本格的に動き始めた。さらに今年度から12月を「多文化共生月間」と定めるなど、県内全域で関連イベント等への参加を通して、意識が高まりつつある。

制度づくりから県民参加まで、多文化共生は新たな段階へ。静岡県が目指す姿と、その現在地を見ていきたい。

静岡県 在留外国人の推移

法務省「在留外国人統計」

静岡県の在留外国人の推移(調査年:2005年~2024年)
県内の外国人は増え続け、多様な背景を持つ人々が暮らす地域へと変化している。こうした動きが、多文化共生の重要性を高める土台となっている

このページで分かること

  • 静岡県が多文化共生を進める背景と、第3期多文化共生推進基本計画が迎える“総括の年”
  • ICCネットワーク加盟の意義と、インターカルチュラルによる政策深化
  • 今年度新設された「多文化共生月間」と、シンボルマーク制定のプロセス
  • 相談現場を支える「かめりあ」の役割と、多文化共生のリアルな声
  • 第4期計画で目指す“価値創造型”の多文化共生と今後の展望
目次
  1. 世界160の自治体・地域の知見を、静岡県へ ICCネットワーク加盟
  2. 県全体で広げる、多文化共生への“気づき”多文化共生月間の創設
  3. 声に寄り添い、制度の隙間をつなぐ静岡県多文化共生総合相談センター「かめりあ」
  4. 価値創造型へと深化するインターカルチュラルで描く静岡県のこれから

世界160都市の知見を、静岡県へ ICCネットワーク加盟

ICC(インターカルチュラル・シティ)とは、「外国人などによってもたらされる文化的多様性を、脅威ではなくむしろ好機と捉え、都市の活力や革新、創造、成長の源泉とする理念と政策を推進する」欧州発の国際ネットワーク。世界約160の自治体・地域が加盟している。

日本では、浜松市が2017年に国内で初めてICCに加盟しており、当時市長だった鈴木知事はその理念と実践を肌で感じてきた。その経験を背景に、静岡県としてもICCの考え方が目指す方向性と合致すると判断し、2025年8月に都道府県として初めて加盟した。

加盟により、先進都市とのネットワークを活用した施策展開や、専門家による政策評価を受けることで、県の強み・弱みを可視化し、政策改善につなげていくことが期待されている。今後は政策評価の時期を調整しながら、結果を施策へ反映していく方針だ。

県全体で広げる、多文化共生への“気づき”
多文化共生月間の創設

静岡県では、条例制定月に合わせ、今年度から12月を「多文化共生月間」と定め、11月〜1月にかけて集中的に機運醸成のための取り組みを市町と連携して行っている。これにより、県全体で多文化共生への理解を深める動きが広がっている。

県民参加型の公募で選ばれたシンボルマーク。富士山を中心に多文化の色を重ね、全体が“笑顔”に見えるデザインは、個性を超えて新しい静岡をつくる思いを表現している(制作者:木山久美子さん/浜松市在住)

月間の象徴として、多文化共生シンボルマークを新たに制定した。インターカルチュラルの理念に沿い、静岡県にゆかりのある人ならば誰でも応募できたため、多様な世代・背景から応募が寄せられ、県民参加のプロセスそのものが共生の実践となった。選ばれたシンボルマークはポスターやイベントで活用され、県内で多文化共生を身近に感じるきっかけづくりに役立てていく。

278点の応募が寄せられたシンボルマーク公募。児童から高校生、外国人住民などを含めた幅広い世代が参加。外国人5人を含む10人の審査員が第二次審査を担当し、理念理解を共有したうえで3点の最終候補を選定。その後、WEB投票により、採用作品が決定した
ポスター制作には静岡文化芸術大学の学生が参加。外国人メンバーも加わり、制作過程そのものが“インターカルチュラル”の実践に

また、月間イベントとして、12月17日に「静岡インターカルチュラルシンポジウム」を開催。多文化共生シンボルマークの表彰式の他、明治大学国際日本学部教授・山脇啓造氏による基調講演、ICC加盟国によるインターカルチュラル事例紹介と、パネルディスカッションが行われた。

鈴木知事も参加した当シンポジウムでは、海外からICC専門家を招き、多様性を生かしたまちづくりの意義やメリットなどについて活発な議論が交わされた

小さな“気づき”と“参加”の積み重ねが、静岡県の多文化共生を次のステージへと押し上げていく。

学生(外国人留学生を含む)によるポスター制作やシンポジウム開催を通じて、一人ひとりが多文化を自分ごととして見つめ、行動へとつなげる機会が広がったことは、今回の大きな成果といえる。

声に寄り添い、制度の隙間をつなぐ静岡県多文化共生総合相談センター「かめりあ」

(写真左から)「静岡県国際交流協会」業務執行理事兼事務局長の加山勤子さんと、「かめりあ」相談員の南マルシアさん。日々の相談支援の中で見えてきた“現場の声”を語ってくれた

静岡県には、外国人県民の生活や制度に関する相談を受け付ける総合窓口「かめりあ」(静岡市駿河区)がある。年間の相談は約2,300件。言語・文化の背景が異なる人たちの相談は複雑化しており、在留資格の変更や永住申請、未払い賃金、技能実習に関するトラブル、子育て、離婚や相続など、その内容は多岐にわたる。なかでも多いのが入管手続と労働に関する相談だ。

南さん

ベトナムの実習生の会社が倒産し、賃金が支払われないまま残されたケースでは、私たちが労働局と相談者の間に入り、制度の理解不足を補いながら丁寧に状況を整理しました。その結果、最終的に賃金の支給につながった例もあります。後日「受け取れました」と連絡をいただくこともあり、解決できたことがうれしいです

加山さん

相談員が担うのは、単なる通訳ではありません。相談者の背景を理解し、適切な専門機関へつなぐ“仲介者”の役割なんです。外国につながる若者の支援にも力を入れていて、日本で育った移民第二世代の若者が、今度は同じ背景を持つ後輩の相談に寄り添うケースもあります。支えられた経験が、次の誰かを支える力になる——そんな循環が少しずつ広がっています

制度の壁や情報のずれ——その間に誰かが入り、丁寧に“つなぎ直す”ことが必要な場面は少なくない。身近な暮らしの課題から働き方、家族のことまで、県内で暮らす外国人の道しるべとして、「かめりあ」は今日も外国人県民から寄せられる相談に耳を傾けている。

対応言語はポルトガル語、スペイン語、フィリピノ語、英語、ベトナム語、中国語、インドネシア語。電話やタブレットを使った三者間での通訳支援にも対応

関連リンク

静岡県多文化共生総合相談センター かめりあ

価値創造型へと深化するインターカルチュラルで描く静岡県のこれから

静岡県では、2026年度から始まる第4期計画に向け、インターカルチュラルの理念を計画全体に組み込む準備が進んでいる。ICCで得られる第三者評価も施策改善の指針として活用し、県内外への発信を体系的に強化していく方針だ。

新たな計画では、ウェルビーイングの視点を重ね、乳幼児期から高齢期までのライフステージに沿った支援体系を構築する。日本語教育の充実や、多様な人材が地域で活躍し定着できる仕組みづくり、警察や関係機関と連携した安心・安全の確保など、多文化共生を社会全体で支えるための取り組みが整理される見通しだ。

多様性を力に変え、誰もが暮らしやすい地域をつくること——。その実現に向けて、静岡県の挑戦は次のステージへと進もうとしている。

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