県政セレクション 総合情報誌ふじのくに
〜世界が注目するBlue Economyの本拠地へ〜「多様」が生み出す新たな価値 MaOIプロジェクト
2022(令和4)年10月
世界有数の豊かな海洋資源に恵まれた静岡県は、「場の力」を発揮できる最適地として、マリンバイオテクノロジーを核としたオープンイノベーションを推進してきた。MaOI(マリンオープンイノベーション)プロジェクトが本格始動して2年、静岡の海に、人に、革新を起こしている。
県産魚を守る先進的研究
近年、国際的キーワードになりつつある「SDGs」や「Blue Economy」。本県でも、その考え方に基づいたマリンオープンイノベーション(MaOI)プロジェクトを立ち上げ、海洋関連産業の振興と海洋環境の保全をテーマとする世界的な拠点づくりを目指してきた。その中核推進拠点がMaOI-PARC(清水区・清水マリンビル内)だ。
MaOI-PARCはオープンイノベーションを合言葉に、県の豊かな海洋資源を活用した産業振興・創出を図る拠点施設として、令和2年11月にスタート。共同ラボやオープンデータプラットフォーム「BISHOP」などがあり、交流スペースでは、研究会や親子のイベントなども開かれる。
MaOI-PARCの主軸である共同ラボは、県水産・海洋技術研究所や県内外の大学などと連携し、県を代表する魚類、海藻類を中心とした調査・研究に取り組んできた。今年8月には、世界で初例となるサクラエビ、シラス、キンメダイ、タカアシガニの持つゲノム(全遺伝情報)解読の成果を発表した。中でも、注目を集めているのがサクラエビだ。
サクラエビの不漁問題は県の最重要課題の一つと言える。ゲノム情報を利用することで、いまだ未解明な部分が多いサクラエビの生態が理解できるようになることを期待している。また、生態の詳細が明らかになれば、現在難しいとされているサクラエビの養殖の技術開発も可能となるかもしれない。県内外の大学から、成果を活用したいという声があり、共同研究を進めていく方向だ。
海洋データの心臓部「BISHOP」
データプラットフォーム「BISHOP」は、MaOI機構を中心に県の研究機関や大学などと連携し、駿河湾などの海洋環境・生態系データや海洋微生物ライブラリーなどを集積している。ポイントは、BISHOPがオープンデータプラットフォームであり誰でもデータが利用できることだ。
データの利用例としては、例えば漁業関係者が「BISHOP」のコンテンツでもある水温データや黒潮流路図を漁師の経験とを照らし合わせることで、漁場を推測している事例もある。今後のBISHOPの運営は、BISHOPのデータを高度に活用しながら、どのようにして静岡県の海洋関連産業の発展に寄与していくのかが大きな課題となる。
「BISHOP」独自のコンテンツである海洋微生物ライブラリーとその菌株分譲は、企業や大学からも注目を集めている。サイトを開くとずらりと並ぶ、駿河湾や浜名湖の海藻や海水、海洋深層水などから分離した微生物の菌株情報。酵母や乳酸菌が充実し、登録準備中のものを含めれば乳酸菌は4,000株を超える。海洋から分離源を取得することもあり、海洋由来の酵母や乳酸菌はあまり研究されてこなかったが、植物由来など陸上から分離された菌株にはない健康効果などがあるかもしれない。静岡発の海洋由来の酵母、乳酸菌が社会に、未来に貢献できることを目指している。
ネットワークを駆使し伴走支援
「新製品を開発したい」、「技術課題を解決したい」など、企業はさまざまな課題を抱えている。それをMaOI機構のコーディネーターがくみ上げて、他企業とのマッチング、研究機関や大学を紹介するなどネットワークをフルに活かし、企業を伴走支援してきた。令和2年度は3件、3年度は5件が事業化された。
新事業の概要も実にユニークだ。「三保サーモン陸上養殖IoT導入支援」では、単なる養殖ではなく、IoTを導入することで育成環境を効率良く管理し、品質管理・向上を科学的観点で取り組める基盤づくりを支援。「三保サーモン」という新たな地域ブランドの創出に貢献できた。
ほかにも、浜名湖由来の乳酸菌を活用した大豆ヨーグルトの商品化、冷凍マグロの切断・解体機械の安全装置開発など、新しい価値を生み出している。
事業化を促進するための助成金制度「MaOI-FS」(事業化可能性検討)も、今年度は予想を上回る応募があった。オープンイノベーションを合言葉に、海が、人が動き出している。
〜MaOIプロジェクトを支える原動力〜美しく豊かな静岡の海を未来につなぐ会
世界に誇る、美しく豊かな静岡の海。その海に関係する団体や個人、「つなぐ会」を支援する企業などのネットワークをつくり、活動のサポートや「海の森づくり体験教室・藻場回復活動」、海の大切さを伝える冊子を発行するなど、静岡の海を未来へつなぐさまざまな活動に取り組んでいる。
海が遊び場の一つだった世代と違い、今は海に行かない人も多い。気軽に参加できるセミナーやイベントなど、さまざまな切り口で活動を展開し、海のファンを増やしていく。
「海の森づくり体験教室・ 藻場回復活動」の運営
磯焼けによる藻場の消滅が危惧される中、海藻の大切さを伝えたり、海藻を植え付ける体験イベントを定期開催。
~海の森づくり体験教室~
「海の森づくり体験教室」を令和3年11月20日にオンラインで開催した。つなぐ会のプロジェクトの一つ「藻場回復活動」について、サガラメや静岡の海の話を画像や動画を交えて紹介するとともに、併せて「チリメンモンスターの観察会」や「深海魚教室」を開き、海の生き物に理解を深めるイベントとなった。
ごみ拾いSNS「ピリカ」静岡版Webサイトの運営
海洋ごみの7、8割を占めるといわれる陸ごみの軽減に貢献。ごみを拾い、写真をアップすると県のごみカウンターに反映される。
「ふじのくにしずおかクリーンアップ!~美しく豊かな静岡の海を未来へ〜」サイトはこちら