静岡の未来、創造 総合情報誌ふじのくに
富士山世界文化遺産登録10周年—その美しさを未来へ伝えていくために
2023(令和5)年3月
2013年6月に、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録された富士山は、今年で登録10周年を迎える。また、静岡県富士山世界遺産センターは開館5周年となった。県はこれを契機に、富士山の価値を再認識し、その普遍的な価値を後世へ継承する取り組みをさらに進めていく。
登録はスタート。これからの取り組みこそが重要に
長い道のりを経て登録された世界文化遺産であるが、登録はゴールではなく富士山を守っていくためのスタート。
登録に際し、ユネスコ世界遺産委員会から、自然環境の保全や歴史的価値を明確にするための巡礼路の特定などの勧告があり、この10年で勧告に応じるための施策、情報発信の拠点として静岡県富士山世界遺産センターの設立などを行ってきた。
今後も、関係市町・団体と協力し、富士山が永続的に世界遺産であるために、学術・調査研究、環境保全、情報発信などに取り組んでいく。
10周年、改めて富士山の価値を認識する年に
2月23日沼津市のプラサヴェルデにおいて、「富士山の日」フェスタ2023を開催。10周年の機運醸成を図るため製作したPR動画を公開するなど、後世へ引き継ぐ富士山の価値を改めて周知。
同時に、「東アジア文化都市宣言」を行い、アジアへ、世界へ、「ふじのくに」静岡を発信する好機ともなった。
今後は、6月22日の登録10周年記念式典をはじめとし、7月には静岡県富士山世界遺産センターが、これまで蓄積した研究成果を生かした国際シンポジウムを開催するなど、さまざまなイベントを予定。
さらに、県内市町の記念事業との連携や、県内外の企業・学生などにも幅広く参加を呼び掛け、富士山への興味を集め、価値を高める活動を盛り上げていく。
この機会に、富士山の価値を再認識してみてほしい。
10周年記念ロゴマーク
登録10周年の機運醸成を図ることを目的として、富士山世界文化遺産協議会が作成。
富士山世界文化遺産登録10周年PR動画
富士山世界文化遺産登録10周年PR動画はこちらから。
問題意識を登山者と共有する活動へ
ユネスコ世界遺産委員会に、定期的な報告書の提出が義務付けられ、富士山の環境保全や資産および保護の状況を把握するための定点観察などを行っている。環境保全の課題の一つとして、ごみおよびトイレの問題があった。
登山者から「富士山保全協力金」を頂き、協力金を原資に順次バイオトイレの改修などを進めたり、ごみの持ち帰りを励行するためのごみ袋の配布を行っている。
また、登山道への安全誘導員の配置など、登山者の安全対策にも活用している。協力金の意義を理解してもらい、さらに多くの登山者から協力を得られるように努めていく。
今年の夏は、新型コロナウイルス感染症の5類への移行やインバウンドの回復、登録10周年などにより、登山者の増加が想定される。
混雑緩和のための登山者の分散化、初心者・外国人への登山マナーの啓発、快適に登山できるような環境の整備など、登ってよかったと思えるような体験を提供していきたい。
外来植物から富士山を守る取り組み
植生の定期調査の結果から、富士山麓にも外来植物の侵入が判明している。富士山の自然を維持するためには在来植物の保護も急務となる。
在来植物を脅かす外来植物の侵入を防ぐための、防除マットを登山口に設置。靴底に付着した種子などをこそぎ落としてから入山してもらうように、登山者に理解を求めていく。
行政と企業、団体などからなる環境保全活動組織「ふじさんネットワーク」では、啓蒙用のハンドブックを作成。外来植物除去活動も行い、植生の環境の保全にも努めている。
この夏は、自然美や長く続いてきた登山信仰の歴史、文化遺産としての価値を感じながら、富士山に登ってみてはどうだろう。
開館5周年 静岡県富士山世界遺産センター
富士山は、圧倒的な自然美が魅力ではあるが、芸術の源泉、信仰の対象という文化遺産の本質は、富士山と人々との心のつながりが礎となっている。自然環境の保全だけでなく、文化を慈しむ心も次世代へと継承していきたい。
構成資産の一つでもある富士山本宮浅間大社のそばに、2017年に静岡県富士山世界遺産センターを開館。富士山を「永く守る」「楽しく伝える」「広く交わる」「深く究める」ことを目的とし、富士山に関するあらゆる情報発信の拠点であり、学術研究のよりどころとなっている。
アンケートでは来館者の満足度は75%を超え、特に登山道からの風景を楽しみながら疑似登山体験ができる展示「登拝する山」が好評である。また水盤に映る、富士の姿と木組みの外壁を併せ持つ美しい逆さ富士の建築物は観光客の人気が高い。企画展もその都度展示内容が変わるので、何度も来館して楽しんでみては。
歴史から、人とのつながりから、富士山をひもとく
噴火する富士を畏れる一方で、手に負えないものを聖なる存在とあがめてきたのが富士山信仰の始まり。
富士山の歴史を知ってもらうことで発見があり、例えばご来光やお鉢巡りなど、その言葉に修験道や仏教系の信仰登山の影響が残っていることに気付くと、ご来光に手を合わせる意味も深まります。
登録から10年、センター開館から5年たちましたが、積み残しの課題も多く、調査も継続中。まだ知られていないことを掘り起こし、調査研究によって新しい知見を広げていくことが私たち学芸員の役割。新たに見つかった資料が寄贈されるようになり、センターが情報を発信するだけでなく集積の拠点となっているのは、研究者として喜ばしいこと。新しい資料や分析など研究成果が企画展示につながります。
(静岡県富士山世界遺産センター 学芸課 教授 大高康正さん)