知事対談(56号以前) 総合情報誌ふじのくに
日本一元気なスーパーマーケットとふじのくに食文化をつなぐ 理念の通底
上質で美しく、おいしい、ふじのくに農業芸術品(農芸品)。
そのブランド力の向上と販路拡大を図るため、首都圏を中心にチェーン展開する有力スーパーマーケット「ヤオコー」にて静岡県産青果物フェアを開催している。
フェアは平成28年度にスタートし、直近の年間取引額は4億円超(※)。
今後の期待が高まる中、川勝知事がフェアを視察し、ヤオコー会長の川野幸夫氏との対談を敢行。
民官の垣根を超え、理念に共鳴し合った。
※県推計値
美しく調和した、徳のある自立した地域へ
知事:静岡県は439品目の農林水産物を生産しています。2位の県が218品目ですから、ダブルスコアです。日本一の食材王国です。
第一次産業を大切にしない文化は滅びます。品質の高い食材を「しずおか食セレクション」に認定するプロジェクトを10年以上続けています。食品スーパーでは日本トップクラスのヤオコーさんが長年にわたって静岡の良質な食材を広めてくださり、感謝しています。
川野氏:こちらこそ、ありがとうございます。食品流通で何よりも重要なのは、産地と消費者の情報共有です。生産者が丹精込めてお作りになった野菜や、命がけで取ってこられた魚介類などの価値を良く理解して、生産者の思いをしっかりと消費者へお伝えしていけるか、私たちの果たすべき役割は大きいと思っています。
知事:生産者に思いを寄せられる姿勢は素晴らしい。現在、ロシアのウクライナ侵攻の影響でサプライチェーンが変貌しています。食料の安全保障の観点から、食材はできる限り地産地消、域内で賄えるのが望ましい。
川野氏:地産地消といえば、今はどこのスーパーにも地元野菜コーナーがありますが、最初に取り入れたのはヤオコーだと思います。
私どもでは新しいお店を作るとき、地元の方の土地をお借りしたり、譲っていただいたりします。その中に農家の方や農作物を作っている方が大勢おられまして、その方々にお願いをして、野菜や果物などを売り場に置いてもらえるようになりました。鮮度はもちろん、生産者の顔が分かるのが一番です。
こういうことを続けてきましたから、おかげさまで着実に発展したと自負しています。
知事:会社はお客、社員、仕入・取引先、信用機関などと一体です。その意味では地域社会の公器です。会社が大きくなると、社会の公器としての役割も増します。ヤオコーさんの社風は模範的ですね。
川野氏:まだまだ小さな会社ですが、地域にお住まいの消費者の食生活が豊かで楽しくなるお役立ちのために、着実に発展していきたいと思います。
より良い社会づくりに参画し行動する
知事:ヤオコーさんの方針は、廉価食品の大量販売ではなく、良いものを価値のあるものとしてお客に提供するというものですね。それを一貫して続けてこられたことに感服しています。
川野氏:今から50年ほど前にヤオコーに入りましたが、その頃はまだ食品のよろず屋でした。しかし、お客さまは毎日の食生活の中で消費者としての知恵を身に付けて“生活者としてのプロ”になっていましたから、中途半端な商売ではお客さまの要求水準にお応えできない、と思うようになりました。
知事:早くも1962年に本格的な食品スーパーマーケットを立ち上げ、10年後にはチェーン店化に乗り出されました。
川野氏:私どもではパート社員をパートナーさんと呼んでいて、そのほとんどが主婦(夫)です。主婦(夫)は食生活シーンの家庭における主役です。ヤオコーにとってはお客さまの立場で物事を考えられる大切な存在。その方たちの知恵や知識、経験を売場づくりに生かして、お客さまのお役に立ちたいと考えました。
知事:食生活に目を向けて、どのような食品を提供すると生活の質が向上するかを考えて経営されてきました。生活者の情報をつかみ、生活の質を高める仕組みをつくって、お客が喜び、生産者が潤い、両者を結ぶヤオコーさんも良くなるまさに三方よしですが、間に入る流通が要ですね。
川野氏:大抵のスーパーは本部が店の方針を考えて、マニュアル通りにやらせる中央集権ですが、私どもはその逆で地方分権。お客さまの食生活を豊かにしたいと考えれば、お店ごとに商売を考えて経営する必要があります。そのために、社員皆が知恵を出し合う。それが働きがいにもつながります。
知事:地方行政では多くの自治体は中央の動向に合わせようとします。分権を実行するには勇気が要ります。そもそも地域性が異なるのに、地域行政が全国画一的なのはおかしいのです。
地域づくりの礎は「人」
知事:先ほど店内を案内していただいた店長さんの丁寧な説明に大変啓発されました。
川野氏:ありがとうございます。社員をどう育てるかが大事だと思っています。いろいろ体験しながら自分で考えて、工夫して売り場やお店を作り、お客さまの反応によって改善する。一人一人がPDCAを回し自ら成長することが、企業の発展にもつながります。
知事:人は人によって育ちます。川野会長は、御尊父亡き後、立派な御母堂が切り盛りされた会社を引き継ぎ、当初からリクルートブックを活用して大卒採用をするなど、優秀な人材確保に特段の意を注がれてきました。優秀な人材がいる会社に、優秀な人が入社を希望する好循環をつくり上げられましたね。
川野氏:企業も、まちづくりも、国づくりも、全て「人」。特にリーダーたるべき人の能力や人間力によって、未来が左右されてしまうのではないかと思います。
知事:リーダーは哲学や理念を明確にしなければなりません。トップの理念と方向性を共有している組織は強くなります。
川野氏:おかげさまでヤオコーは、34期連続で増収増益です。そのため、日本一元気な企業といわれています。それは日本一元気に働いてくれる従業員がいるからであり、その原動力を支えているのが哲学や理念です。
知事:会長は90年代に米国の小売り視察をされて、各個店が主体性を出す時代に入ったことに気付かれました。
川野氏:はい。実際に個店経営を導入し、「この商品を提案したい」「この価格で売りたい」といった店の方針を、本部がサポートしています。
知事:地域の文化はそれぞれ違います。好み、こだわり、生活スタイルに合わせてお客が商品を選べる「ライフスタイルアソートメント型のスーパーマーケット」の方針を打ち出して、それを98年に狭山店で具現化されました。常に時代を先取りされていますね。
文化を支える食文化
知事:文部科学大臣が2023年の静岡県を「東アジア文化都市」に選びました。今年の静岡県は日本のいわば「文化首都」です。私は文化を広く捉えており、食文化・生活文化を基礎に据えています。
川野氏:食の豊かさ、楽しさは生活のベースであり、幸せの基になります。自分たちの商いがお客さまの幸せにつながると思いながら仕事をしています。
知事:それは食育に通じます。ヤオコーさんの食材が学校給食で活用され、子どもを良い消費者に育てるために、良質の地元食材をおいしく食べる大切さを伝える仕組みができれば理想的です。
川野氏:食材の持ち味がおいしさにつながりますから、地元のおいしいものを提供することは大切ですね。
知事:静岡県には日本一高い富士山、日本一深い駿河湾など、いわば山と海の風景の画廊で、美しい日本列島の縮図です。
私は静岡県を理想郷にしようと、「来るものは拒まず、助力を惜しまず、見返りを求めず」をモットーに県内をフィールドワークしています。会長さんは各店舗へ足を運ばれていますが、私も現場主義です。
川野氏:知事が政策を決めていく上で、とても大切なことだと思います。地域の方たちの張り合いも大きくなることでしょう。
知事:会長が日経MJに連載された記事で感銘を受けたのが、「お金は稼ぎ方より使い方が大切で、使い方に人の生き方が出てくる」という一文です。会長は、亡きご長男への思いを込めて「川野小児医学奨学財団」を設立し、母校に「県立浦和高等学校同窓会奨学財団」を設立されました。世のため人のため、あっぱれなお金の使い方です。
川野氏:はい。浦高はリーダーとなる人材を育成する学校ですから、日本の根幹を担う知事のような方を育てなくてはという思いです。
しかし、この財団が支援するのは30人ほどに過ぎません。地域ごとの名門高校の同窓会が10校、100校と設立してくださると、300人、3000人と優秀な学生を育てることができます。その中から特別に優れた人材が出てくれば、日本のリーダーになるのではないかと。
知事:将来世代に引き継いでいくことが大切ですね。
川野氏:私たち年配者にできることは、どのようにして若い人を応援するかだと思います。
知事:静岡県は人生を少年期、青年期、壮年期、老年期と区分し、老年期の人を長老として敬う文化を育てています。長老の謦咳に接すれば若い人は育ちます。会長は良き長老として、若い人との交わりを深めてください。本日は誠にありがとうございました。
川野氏:こちらこそ、ありがとうございました。
対談者プロフィール
静岡県知事
川勝 平太
1948年生まれ。京都市出身。早稲田大学、同大学院を経て英オックスフォード大学で博士号取得。早稲田大教授、国際日本文化研究センター教授、静岡文化芸術大学学長などを経て2009年より現職、現在4期目。
株式会社ヤオコー代表取締役会長
川野 幸夫 氏
1942年生まれ。埼玉県出身。浦和高校を経て、東京大学卒。69年八百幸商店(現ヤオコー)入社。85年に社長、2007年に会長に就任。09年から日本スーパーマーケット協会会長を務め、23年より名誉会長。12年、川越市に「ヤオコー川越美術館」を開館。
ヤオコーと連携した農業のDX化の取り組み
産地からお客さまに、より新鮮な野菜を届ける
本県産レタスは、12月から2月まで、東京中央卸売市場でトップのシェアを占めていますが、レタスは鮮度の低下が早いため、消費者にいかに早く届けるかが鍵です。
静岡県はJA静岡経済連や各JAと連携して、2020年度からレタスを産地から直接消費地に輸送する取り組みを開始し、輸送時間を約1日分短縮するなど、より鮮度の高い商品の供給に努めています。
2023年度からは、全国初となる正確な出荷情報を得られるレタスの収穫生育予測アプリケーション(※1)を活用し、いち早く市場等に提供できる仕組みを構築していきます。
コロナ禍で頂[イタダキ]フェアを初開催
県は、多彩で高品質な農林水産物の中から、全国や海外に誇りうる価値や特長等を備えた商品を県独自の認定基準に基づいて厳選の上「しずおか食セレクション」として認定してきました。2010年度に創設し、これまでに認定された商品数は、約200商品になります。
2021年度には、消費者に対する認知度向上を目指して、愛称「頂(いただき)」とロゴマークを策定したところです。2022年1月~3月には、県産青果物の主要市場である首都圏での認知度向上のため、ヤオコーの旗艦店7店舗において、「頂デビューキャンペーン」を開催させていただきました。
各店舗の青果主任が独自の工夫で魅力的な売り場に仕上げていただいたこともあり、コロナ禍にもかかわらず、イチゴやレタスなどの売り上げは、対前年度比125%を達成しました。
「頂」には、日本一高い富士山頂のイメージで品質の高さを表現するとともに、大地の恵みをありがたく「いただく」という意味があります。