知事就任インタビュー 総合情報誌ふじのくに
オール静岡で幸福度日本一!
2024(令和6)年9月
15年ぶりに静岡県の新たなリーダーに選ばれた鈴木康友知事。
就任から約1カ月が過ぎた今、改めて県産業の成長・活性化に向けた考え、リニア中央新幹線の建設や遠州灘海浜公園篠原地区の整備など県政に対する思いを聞きました。
まずは、就任直後の活躍ぶりや政治家を目指したきっかけについてご紹介します。
政治の原点は、松下幸之助氏の教え
—就任直後から、とてもエネルギッシュな印象を受けますが、その源泉は何ですか?健康の秘訣はありますか?
知事:「率先垂範」という言葉があるように、特に重要な場面では自分自身で動かないと駄目ですね。リニア中央新幹線の問題でも、まずはキーマンに直接会わないと進みませんので、トップの人たちに速やかに会いました。スピード感を持って動くことを心がけています。
健康の秘訣は、体重管理と毎朝30分の筋トレです。腕立て伏せや腹筋、スクワット…、自分で決めたメニューで13年ほど続けています。
—政治家を志したきっかけを聞かせてください。
知事:政治家になりたいと思ったのは小学生の頃です。当時は米ソ冷戦の状況下で、日本の漁船が拿捕(だほ)された事件をニュースで見て、「将来は政治家か外交官になって、日ソ関係を改善するんだ」と。
政治に関わるきっかけとなったのは、松下政経塾。第一期生で入塾し、松下幸之助さんから直接ご指導いただきました。松下さんの教えの一つ、「政治家は、国の将来や将来世代に対して責任を負わなければいけない」が、政治の原点です。私が出した5つの方針も、松下さんの教えが原点になっています。
静岡県庁 LGX宣言
5つの方針「経営の視点」 と 「具体的行動」
- 経営感覚を持ち将来世代に対して責任を負う
- 税金を無駄にしない
- 前例踏襲や役所の常識にとらわれず新しいことに挑戦する
- 巧遅より拙速
- 人を活かす
スタートアップから選ばれる県へ
—2024年問題や物価高騰など、社会情勢が急速に変化する中で、静岡県の産業の成長や活性化に向けてどのような方策を考えていますか。
知事:まずは、私の政治家としてのポリシーの一つをお話します。
上杉鷹山(うえすぎようざん)という江戸時代の名君は、米沢藩の財政を徹底的な行革で立て直す、一方でさまざまな産業を興し、藩の財政を潤しました。つまり、「入りを増やし、出を抑えること」です。本県全体を富ませるためには、無駄を省くと同時に産業政策が重要です。もともと本県はものづくりの集積地ですが、まだまだポテンシャルがあります。 私は浜松市で多くの企業を誘致しましたが、県の中部、東部地区にはITや半導体を含めたこれからの成長産業分野で、本県経済をけん引するような企業を誘致したいと考えています。
さらに、新しい企業を増やすためにスタートアップ企業を生み出し、誘致することにも注力します。特に、東部地区は首都圏との距離感や自然資源を活用することで、誘致の可能性は十分あります。これからは、東京だけでなく伊豆や東部にも事務所があり、必要があれば東京へ行くという生活が日常になる。オンラインが当たり前ですから、どこにいても仕事ができるのです。
最近面白いなと思ったのが、佐賀の嬉野温泉の取り組みです。老舗旅館を改修して、ベンチャー企業のサテライト・オフィスを作っちゃったんです。入居者は温泉に入り放題。最高の労働環境ですから人が来るわけです。東京から遠い佐賀県でできるのですから、本県でも実現できますよね。
東京のベンチャー企業の社長たちは横のつながりをとても大切にしています。毎日のように顔を合わせて食事をして、情報交換やビジネスのネタを見つけるなど、実はアナログな会合をやっています。フェイス・トゥ・フェイスが大事なのです。スタートアップを集積すると同時にコミュニティをつくる必要もあると思います。
スタートアップ:先進的な技術やアイデアを強みに、新しいビジネスを創り出し、急成長する企業や組織のこと
—自然が豊かな本県では第一次産業の振興も重要です。担い手不足や販路確保が課題の一つですが、解決策をどのように考えていますか。
知事:第一次産業は、やり方を変えればとてももうかる産業なんです。例えば農業なら、耕作地を次々に借りて生産性の高い農業をすることが考えられます。また、付加価値の高い農産物を作れば掛け算で収入が増えていきます。農業を経営する感覚でマーケティングや労務管理、財務諸表などを学ぶと、今までと全く違うスタイルの農業が生まれます。そういうことを教えるのが農林環境専門職大学です。
農林業の経営と生産のプロフェッショナルの養成を進めるとともに、本県への進出を希望する県外の農業法人を積極的に誘致するなど、本県農業のさらなる活性化を図っていきたいですね。
新しいアイデアを生かした観光・スポーツ
—観光やスポーツの振興、注目されている遠州灘海浜公園篠原地区の整備についてはどのように取り組みますか?
知事:まず、観光は地域の特性と掛け合わせるなど、新しいコンセプトで作り上げていきます。伊豆であれば、「スポーツ×観光」、「スタートアップ×観光」、「食×観光」など、さまざまな切り口で誘客できると思います。
遠州灘海浜公園篠原地区の整備については野球場を造って終わりではなく、北海道のエスコンフィールドHOKKAIDOのように面として開発し、さまざまな付加価値を付けることが重要だと考えています。野球はもちろん、音楽イベントや企業のフェアなどができればさらに人が集まり、地域が活性化します。また、民間企業が投資したくなるような地域となれば、それだけビジネス・ポテンシャルが生まれますから、結果的に施設の稼働率も上がります。県や市だけでなく民間活力も生かし、全体の計画を作っていくことが先決ですね。
地域に応じた防災対策
—近年の自然災害は想定を超える規模となっています。防災対策についてどのように取り組みますか?
知事:防災対策では、本県は非常に広いため、地域に合わせた対策が重要となります。能登半島と同じような形状の伊豆半島は孤立集落をつくらないために、まずは、伊豆縦貫道の整備をし、道路網の強化をします。さらに、道路が寸断されることも考えて、空や海からの輸送拠点としてヘリポートや岸壁整備も必要です。
そして、今最も深刻なのは豪雨災害。何度も発生しますから、ハードの対策だけでは追いつきませんので、ソフトも併わせ、きめ細やかに対策します。水害は、ある程度の予測ができますので、住民の皆さんがハザードマップをしっかり認識し、早めに避難することや常に訓練して緊急事態に備えることなど、自助・共助・公助が重要であることから、県だけでなく市町や住民の皆さんと一丸になって取り組んでいきたいと思っています。
活力ある地域づくりと、切れ目のないサポート
—本県の出生率は7年連続で減少し、さらには高齢化率が過去最高の30.7%となっています。少子高齢化への対策についてどのように取り組みますか?
知事:一つは人口が減っても活力ある地域としてコミュニティを維持していくこと。 もう一つは婚姻率を上げていくことです。結婚してから安心して生活や子育てができるように、妊娠、出産、子育てまで切れ目のない支援をしていくことも大事です。
—人口減少が進む中、外国人材の活躍が必要不可欠です。外国人県民が安心して暮らし、活躍できる社会を構築するための取り組みについてお聞かせください。
知事:多文化共生は、浜松市で率先して取り組んできました。子どもの教育の問題や生活習慣の違いからくるトラブルなどを少しずつ解決し、今は安定した共生社会が形成されています。
浜松市だけでなく、本県は多文化共生の先行地域。さらに進化するために、外国人だけでなく多様性を持つ人たちからも選ばれる地域にしたいですね。
今ヨーロッパでは、さまざまな背景を持つ人たちが新たな価値を生み出し、都市の発展に貢献する「インターカルチュラル・シティ」という新しい価値観が広まりつつあります。その考え方を、いち早く本県全体で広めていきたいと思います。
自然環境の保全をベースに、スピード感を持って28の課題解決へ
—リニア中央新幹線の建設について、大井川の水や南アルプスの自然環境への負荷が心配されています。今後どのような姿勢で課題解決に臨みますか。
知事:大井川の水資源を確保することと南アルプスの自然環境を保全することと、リニアの推進を両立させていくという姿勢です。
今後は、川勝前知事の頃に洗い出し整理した28の課題をクリアしていきます。技術的な解決策を見いだすことによって、大井川流域の市町などの理解も得られるでしょうし、それを前提に推進していきます。
JR東海や国、沿線自治体などと連携を取りながら、スピード感を持って取り組んでいきたいと思っています。
—リニア開通による県民へのメリットはありますか?
知事:実は、本県を含む東海道新幹線沿線の地域にメリットがあると思っています。
リニアが開通すれば、東海道新幹線「のぞみ」の役割がリニアに代わります。そうなれば、「ひかり」や「こだま」の本数が増え、“「のぞみ」待ち”もなくなり、東京や名古屋、大阪へ10分、20分も早く到着できるようになるはずです。
行政サービスは県民の幸福のためにある
—スローガンとして掲げている「幸福度日本一」。どのように県民一人一人が「暮らしやすさ」と「幸福感」を実感できる県づくりを実現しますか。
知事:人間の幸福感は漠然としています。それを見える化するために、「ウェルビーイング指標」を活用したいと思っています。欧米ではこれを使い幸福度を上げていく取り組みが行われており、日本でも進めています。
個人や社会など、さまざまな分野で幸福度を分析するための指標があり、それを使って分析していくと、その地域の強みや弱みが見えてきます。その弱みをどう補強するか、強みをどう伸ばすか、指標に基づき取り組むことで住民の満足度が上がり、幸福感につながるのです。
例えば一つの市でも、都市部と山間部とでは地域性が全く違い、強みや弱みが異なるので、エリア別に細かく分析する必要がありますね。
—幸福度が数値で分かると、上がるたびに豊かな気持ちになりますね。
知事:そうなんです。住民同士が議論し、支え合う社会をつくっていかないと、人口減少で社会が成り立たなくなってしまいますから。
—知事は、浜松市長の頃も、「幸福度日本一」を掲げていました。
知事:住民が幸福感を感じてくれなかったら、行政サービスを提供する意味がないですよね。いろいろな政策は、究極的にはやはり住民一人一人の満足度を上げていくためにやっているわけですから。
幸福感で、特にキーとなるのがコミュニティの満足です。地域の構成員としてアイデンティティを持ち、地域社会で住民の皆さんが一緒になっていろいろな取り組みをしていると満足度が非常に高いのです。県民一人一人が参加するということが大事なんです。オール静岡で、幸福度日本一を目指していきたいと思っています。
知事からメッセージ
「県民幸福度日本一」の県をつくっていきたいと思っています
本県は伊豆、東部、中部、西部それぞれに地域性があって一つになった県ですから、地域の特性を生かしながら県全体の発展を図っていくことで、「県民幸福度日本一」の県をつくっていきたいと思っています。そのために、これからあらゆることを進めていきます。一方的に県が進めるのではなく、住民の皆さんと一緒になって取り組み、市民協働・県民協働で幸福度の高い県をつくっていきましょう。
知事プロフィール
静岡県知事
鈴木 康友
Yasutomo Suzuki
浜松市出身。慶應義塾大学法学部卒。
(財)松下政経塾(1期生)、衆議院議員、浜松市長などを経て、静岡県知事に就任。座右の銘は「至誠通天」