県政セレクション 総合情報誌ふじのくに
スポーツでもっと“しずおか”を元気に! スポーツ産業の育成による、地域と経済の活性化
2024(令和6)年10月
「感動」「健康」「教育」など、スポーツにはさまざまな力がある。
中でも、近年世界的に注目を集めているのがスポーツ産業だ。
実際に国は、スポーツの持つ高い成長力を生かし、「みる」スポーツと地域スポーツの好循環によるスポーツの成長産業化を目指している。
目標は、2025年までにスポーツ市場規模を15兆円に拡大させることだ。
本県においても、そのポテンシャルを生かしたスポーツ産業の育成を進めていく。
発想の転換でスポーツを成長産業化
昔から本県は「サッカー王国」として全国に知られ、Jリーグではジュビロ磐田や清水エスパルスなど、4チームが活躍している。さらに、近年はサッカーだけでなく、さまざまなジャンルのプロスポーツチームが飛躍的に増えてきた。ラグビーやバスケットボールの他、昨今は野球や卓球のプロチームが誕生し、現在9競技18チームが本県に拠点を置いている。
また、ラグビーワールドカップ2019の会場となったエコパスタジアム(袋井市)や、東京2020オリンピック・パラリンピックの会場となった伊豆ベロドロームや富士スピードウェイなど、県内には多くのスポーツ施設が存在し、プロスポーツチームをはじめ、さまざまなカテゴリーの試合や練習に対応できる環境が整っている。
これに加え、ものづくり産業を中心とした多彩な産業による企業集積や、豊かな自然、温暖な気候と暮らしやすさは、本県の強みとなっている。
これまで県は、このような恵まれたスポーツ環境を生かして、競技力の向上や、生涯スポーツの振興を中心に施策を展開してきたが、産業としてのスポーツの可能性に着目し、本県の資源を活用した、スポーツ産業の育成に踏み出した。
その第一歩として、今年からプロスポーツチームと他産業のイノベーションによる、スポーツビジネスの創出に向けた取り組みを始めている。
他県に先駆け本格始動!スポーツオープンイノベーションで新規ビジネスを創出
欧米諸国ではスポーツビジネスが巨大な産業となっている。
しかし、日本の自治体ではスポーツを主に教育政策の一環として捉えてきたため、「スポーツで稼ぐ」という発想が浸透してこなかった。
こうした中、県は発想を転換し、スポーツを産業として育成するため、他県に先駆けて「スポーツ」×「他産業」で新規ビジネスを創出する「FIELD」事業を今年からスタートした。
「FIELD」は、県内のプロスポーツチームとスタートアップの力を掛け合わせることにより、地域と経済の活性化につなげるものだ。本年度は、県が委託した株式会社eiicon(東京都)が公募により選定されたプロスポーツチームの事業創出を伴走支援する。
同社は、プロスポーツチームが挑戦した事業テーマを共に整理・可視化し、新規ビジネスにつながるようブラッシュアップに取り組む。
その後、事業テーマに対して必要な資源・技術・ノウハウなどを持った企業を全国から広く募集。プロスポーツチームとマッチングをし、両者の共創による新規事業化に向けた助言を行っていく。
プロスポーツチームの公募に先駆け、6月と7月に行われた事前説明会・ワークショップには、オンラインを含め6チームのプロスポーツチームが参加。各担当者が事業創出に向け、経営課題や要望などを抽出、整理した。
8月、本年度の伴走支援先として、応募のあったベルテックス静岡(バスケットボール)と静岡ブルーレヴズ(ラグビー)が選定された。
両チームは、eiiconが運営する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォームを通じて全国へ共創を呼びかけており、11月にはそれぞれ、共創相手の企業が決まる。
プロスポーツチームと他産業の企業による新たな価値創造に向けて、単なる事業実施ではなく、次年度以降も持続できるよう、eiiconが仲介役となり、両者の思いやアイデアをビジネスにするための調整を重ね、事業化を目指す。来年3月には成果発表を予定している。
eiiconの粕谷琢実さんは、「県が旗振りをすることで、地元経済との接続や地元プレーヤーを巻き込んだ新しいビジネスを創出する可能性を秘めている」と話す。
「プロスポーツチーム×他産業」の取り組みとして、本年度に採択された2チームの事例が他チームの自発的な共創へと波及し、スポーツ産業の基盤確立、そして、地域資源としてのスポーツチームの価値向上へつながることが最終目標だ。
「産業」をキーワードに転換し始めた本県のスポーツ施策。県が持つ資源を最大限に生かし、スポーツと県内産業との融合によるビジネス創出、新たなスポーツツーリズムの展開など、スポーツ産業の育成による、地域と経済の活性化に向けた取り組みを推進していく。
ラグビーで地域を豊かに わがまちのスポーツクラブとともに
2019年、日本を舞台にラグビーワールドカップが開催された。中でも、日本が歴史的勝利を挙げた「SHIZUOKA SHOCK」は、県民のラグビー熱を一気に上昇させた。県は、その機運をレガシーとして継承し、地方創生・まちづくりに生かすために「ラグビー文化の醸成」施策に取り組んできた。
2021年12月、県と静岡ブルーレヴズ(以下レヴズ)は地域活性化や県民サービスの向上に向けた包括連携協定を結んだ。これを契機に、県内自治体とレヴズとのパートナーシップ協定締結も進んでいる。2024年10月現在、協定を結んでいる自治体は、13市町に及ぶ。また、今シーズン、レヴズのホストゲームに訪れた人は約6万1,000人と、前シーズン比140%超だ。来場者が増えれば、スタジアムに出展する自治体パートナーのブースのPRにもつながる。
本県のラグビーは、レヴズ(元ヤマハ発動機ジュビロ)がある西部地域を中心に発展してきた。今後、県内でラグビーがメジャースポーツとして認知されていくためには、中部・東部地域へのラグビー文化の定着が大きな課題だ。中部・東部地域のラグビー関係者からは、「ラグビースクールに通っていた小学生の受け皿を確保してほしい」という声が上がっており、県ラグビーフットボール協会は、中高生を受け入れるためのラグビークラブ設立に向けて検討を進めている。
レヴズ独自の普及活動も頻繁に行われている。ジュニア世代へのラグビー普及を目的に実施されている「REVSキャラバン」は、2023年の1年間で計240回開催され、合計13,616人にラグビーを体験する機会を提供している。
女子ラグビーにも光が見え始めている。今年8月17日にエコパスタジアムで行われた「日本女子ラグビー対アメリカ女子ラグビー代表戦」では、接戦の末、8ー12で日本が惜敗したが、「かつて100点差以上の大差で負けていたことを考えると、確実にポテンシャルが高くなっている」と県ラグビーフットボール協会は分析する。さらに、「ぜひとも県内の女子チーム『アザレア・セブン』から代表選手を輩出できることを願っている」と期待を寄せた。
ラグビーワールドカップ2019の開催から5年、一歩ずつラグビー文化が地域に根付き始めている。
国内最高峰ラグビーリーグ「ジャパンラグビーリーグワン」の新シーズンは12月21日開幕。県民招待企画やレヴズ独自のにぎわい創出イベントを実施予定。新たなラグビーファンを獲得し、県内のラグビーを盛り上げるため、新シーズンもレヴズが躍動する。
日本初開催!東京2025デフリンピック 静岡県で自転車競技が開催!
デフ(Deaf)は、英語で「きこえない人」という意味で、デフリンピックは「きこえない・きこえにくい」選手のための国際的な総合スポーツ競技大会。4年に一度、夏季・冬季大会が開催されている。第1回は1924年とパラリンピックよりも歴史が古く、デフアスリートにとって最大規模の大会となる。
東京2025デフリンピックは、デフリンピック100周年の記念すべき大会で、日本では初開催。卓球や陸上、ハンドボールなど21競技が開催される見込みだ。ボウリングやオリエンテーリングといったデフリンピック特有の競技もある。
静岡県ゆかりのデフアスリートにも注目してほしい。
代表を目指すデフアスリートの一人、男子柔道の佐藤正樹さん(三島市在住)は今年、世界ろう者柔道選手権大会で優勝した実力派。
女子やり投げの高橋渚さん(沼津市在住)はデフリンピックに3大会出場、今大会もメダルを目指す2児のスーパーママアスリートだ。
静岡県では、日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)で二つの自転車競技(ロード・マウンテンバイク)の開催が予定されている。世界中のデフアスリートが集うデフリンピックを県内で観戦できるまたとない機会。「がんばれ」「おめでとう」などの手話を覚えて応援しよう。
東京2025デフリンピック大会概要
【開催期間】
2025年11月15日(土)~26日(水) 12日間
【会場】
東京都、静岡県(自転車)、福島県(サッカー)