県政セレクション 総合情報誌ふじのくに

次世代エアモビリティの先進導入地域を目指して

2025(令和7)年1月

2025年4月に開幕するExpo2025 大阪・関西万博の目玉の一つが、いわゆる「空飛ぶクルマ」だ。
この次世代エアモビリティ(eVTOL)は、「空の移動の大衆化」をもたらし、これからの社会を大きく変えるものとして期待を集めている。
このような中、静岡県は
「次世代エアモビリティ(eVTOL)導入促進ロードマップ」を公表。
先進導入地域を目指す取り組みを加速させている。

次世代エアモビリティの機体開発や要素技術の研究開発、製造・量産体制の計画を進めている

「空の移動の大衆化」をもたらす、次世代エアモビリティ

次世代エアモビリティ(eVTOL)は、垂直離着陸できる電動の航空機である。将来的には運航の自動化も期待されており、ヘリコプターと比較して、機体コスト・整備コストが抑えられ、離着陸時・巡航時の騒音が軽減され、運用時の環境負荷も低いという特徴を持っている。

これらの特徴から、新たな価値の創出やさまざまな社会課題を解決する手段の一つとして、次世代エアモビリティへの期待は大きい。

また、機体製造やメンテナンス、部品供給などの次世代エアモビリティ産業の成長にとどまらず、それを基点とする既存産業の発展につながる可能性もある。

そのため、世界各国でサービス導入に向けた制度整備が進むとともに、さまざまなメーカーがしのぎを削って機体開発を進めている。

先進導入地域を目指す、静岡県の強み

次世代エアモビリティの社会実装にあたって、本県の強みの一つが「3次元点群データ」である。
3次元点群データは、緯度・経度・標高の3次元の位置情報を持った点の集まりである。本県は、全国に先駆けて県土の3次元点群データの取得を開始し、誰もが自由に使えるオープンデータとして公開してきた。

この3次元点群データを活用して、地形・建物・電線などをデジタル空間に縮尺1:1で再現することで、さまざまなシミュレーションが可能となり効率的かつ迅速な意思決定や合意形成につながる。

2023年8月には、航空サービス業界トップクラスの朝日航洋(株)と「次世代エアモビリティ分野における3次元点群データの利活用に関する連携協定」を締結。同社と連携し、離着陸場の適地選定や航路の検討に3次元点群データを活用している。

デジタルツインによる3次元点群データ活用事例
都市部ビル屋上での「Vポートの適地選定」
シミュレーションイメージ

また、全国有数の「ものづくり県」であることも、本県の強みである。機体メーカーの(株)SkyDriveは、スズキ(株)と連携し、2024年3月にスズキグループの工場(磐田市)で、機体製造をスタートした。(株)SkyDriveの取締役 CTO 岸信夫氏は、「静岡県は、ものづくり産業の歴史と技術力に裏打ちされた高い製造能力を有しています。自動車、楽器、電子機器など、世界トップクラスの製品を生み出してきた実績が、次世代エアモビリティの製造でも生かされると考えています」と語る。

2022年3月に(株)SkyDriveとスズキ(株)は連携協定を締結

次世代エアモビリティの安全な商用運航を目指して(朝日航洋株式会社 航空事業本部 エアモビリティ事業部 茨木康広さん)

朝日航洋(株)※は、3次元点群データなど地理空間情報を取り扱う空間情報事業とヘリコプターの運航を中心とした航空運送事業および航空機使用事業を営む企業です。静岡県とは連携協定を結び、3次元点群データを活用した次世代エアモビリティの航路検討、離着陸場の適地選定を進めています。

静岡県は、次世代エアモビリティの先進県になる要素がいくつもあります。安全な運航を行う上で重要な要素となる3次元点群データの存在、東京・名古屋・大阪の大都市間移動の途中拠点としての立地、自動車産業を中心とした最先端技術の集積などです。また、空域面からも大都市圏よりも先進導入しやすい環境です。

導入にあたっては、機体の開発状況やコストダウン、法律面の規制緩和などの課題が山積みですが、今後、一つ一つ解決されるのではないでしょうか。

導入初期において、次世代エアモビリティはヘリコプターとの併用や役割分担が考えられます。当社は、ヘリコプターの運航知見・ノウハウを最大限に活用し、次世代エアモビリティの安全な商用運航を静岡県の空を含めて目指していきたいと考えます。

Courtesy of JobyAviation.
©Joby Aero, Inc.

2024年11月2日、トヨタ自動車(株)とJoby Aviation社が裾野市で次世代エアモビリティの試験飛行を実施。(Jobyの国内初飛行ならびに静岡県内でのeVTOL初飛行)
朝日航洋(株)は、航空法や電波法の申請手続き面において試験飛行を支援

※朝日航洋(株)は、2025年7月1日、「エアロトヨタ株式会社(英文表記:AERO TOYOTA CORPORATION)」に社名変更します。

次世代エアモビリティ導入促進ロードマップを公表

現時点の最新動向に基づいて作成
※2026年度以降の公表が予定されている

2024年12月、県は「静岡県次世代エアモビリティ(eVTOL)導入促進ロードマップ」を取りまとめた。「ユースケース別社会実装の促進」と「関連産業の振興」を軸に取り組みを進めていく方針である。

「ユースケース別社会実装の促進」における最初の目標は、2027年度の商用運航の開始だ。まずは限られたエリアでの観光遊覧飛行を実現させ、その後の2地点間移動のサービス実現につなげていく考えである。

三菱地所(株)が、国土交通省の補助事業を活用して、御殿場プレミアム・アウトレット内に離着陸場の整備を開始するなど、既に商用運航に向けた動きがある。機体開発や制度整備の最新動向などにも鑑みると、2027年度の商用運航開始はチャレンジングな目標だが、決して不可能な目標ではない。

ロードマップのもう一つの軸が「関連産業の振興」だ。本県には、自動車産業を中心としたものづくりの基盤があり、高度な技術を持った企業が多く存在することから、機体メーカーへの部品供給等を通じた次世代エアモビリティ産業への進出が期待される。

2024年11月、県内企業の次世代エアモビリティ分野への参入を支援するため、「空飛ぶクルマビジネスマッチング ニーズ説明会」が開催された。説明会では、(株)SkyDriveから部品製造に関して県内企業に求める技術等が示され、県内製造業を中心に200人以上が参加した。(株)SkyDriveの岸氏は、「企業の技術力と熱意を感じることができ、改めて地域のポテンシャルを実感した」と言う。今後は、(株)SkyDriveと県内企業のマッチングに向けた個別商談会も開催予定だ。

また、「ユースケース別社会実装の促進」と「関連産業の振興」の取り組みと並行して、本県は次世代エアモビリティの認知度向上やステークホルダーとの連携による運航環境の整備などにも取り組んでいく。

部品受注を目指し、200人以上が参加した「空飛ぶクルマビジネスマッチング ニーズ説明会」

戦後のモータリゼーションの発達が人々の暮らしを大きく変えたように、次世代エアモビリティは、地域間のアクセス性や地域の魅力、地域交通の持続可能性や利便性、救急時・災害時の対応力の向上などに寄与するとともに、新たなビジネスの可能性を広げるなど、社会のさまざまな領域でイノベーションを起こす潜在的なパワーを秘めている。

そのため、先進導入地域を目指して、「オール静岡」で社会実装に向けた取り組みを推進していく。

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