フカボリ

脱炭素のまちづくりー普段着のZEBを目指してー

2024年4月25日

快適な室内環境を実現しながら消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物、Net Zero Energy Building(ネット・ゼブ・エネルギー・ビルディング)、略してZEB(ゼブ)。皆さんも一度は見聞きしたことがあると思います。この言葉を初めて聞いたとき、読み方もわからなかった筆者でしたが、様々なところで話題になるので今ではスムーズに、「ゼブ」と読めます。環境によさそうな取り組みということは知っているけれども、中身のことを聞かれると・・・でしたが、県民だより5月号で特集して、多少はうまく説明できる自信が付いた今日この頃です。脱炭素社会の実現、と聞くと、ZEBには最先端の技術が必要なイメージがありますが、『浜松に汎用製品を使ってZEBを実現している企業がある。しかもその設計実績は県内No.1』との情報が!建物は、1度建てれば長期に渡って利用できます。それがZEBであれば、効果も持続するということ。気になります!早速、取材しました。
県民だより5月号(5月1日発行)と併せてご覧ください。

目次

  1. ZEB設計実績県内No.1ートップランナーの思いー
  2. 安井さんに聞きました!ZEB化のハードルは高い?それとも低い?
  3. ZEB化のメリットってどんなところ?

1.ZEB設計実績県内No.1ートップランナーの思いー

ZEB、という言葉が出てきたのは今から10年前。2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画で、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指す、という目標が掲げられました。脱炭素社会の実現に向け、全国各地でZEB化の取り組みが進められています。今回、尋ねたのは、浜松市中央区にある須山建設株式会社の設計ブロックの安井さん。県内でZEB化の実績を積み重ねるそのポイントを伺いました。

▲設計ブロック 安井さん

安井さんがZEBの検討をし始めたのは2017年だったそうです。当時、ZEBといえば大手ゼネコンが先端技術を使って施工するのが一般的でした。筆者もそのイメージがあったので、「ZEB=最新の技術。一般的な建築物にはハードルが高いもの」、と思い込んでいました。しかし、須山建設さんのホームページを見ると10件を超える実績が!この設計実績は、県内No.1、全国9位とのこと(2024年4月1日現在)。『普段着のZEB』というキャッチフレーズも気になります。

ー『普段着のZEB』という言葉を見たとき、自分でもZEB化を目指せるかもしれない、という印象を受けました。この言葉に込めた思いをお聞かせくださいー

安井さん
「先端技術を使えばZEBの達成に近づきます。でも、新しい技術の習得や効果検証の時間も労力もかかるので、設計側も負担が大きくなります。どうすればZEBの設計を当社でも担えるか・・・。『必ず来る時代の流れにいち早く準備をする。かつ、自社のノウハウで。』というのが当社の社風です。この先、ZEBは当たり前のものになるので、『当たり前の技術で、当たり前にやれるようにしたい』という思いがありました。
ZEB化の検討を始めた2017年当時、既に汎用製品の中にも断熱性能がよい素材や省エネ性能が高い空調機器もありました。だから、誰もが手に入るものを組み合わせることでZEB化を目指すことができるのでは、と考えました。当社の設計部門には、意匠設計(外観などのデザイン)と設備設計(電気・空調・換気・給排水設備などの設計)があります。また、構造計算の相談先(グループ会社)もあるので、部門間の相談を密にできる利点があります。手に入りやすいものには大幅に値が上がりするものはありません。だからこそ、その組み合わせにより、ZEBを身近にしたい。そう考えている中で、『普段着のZEB』というキャッチフレーズを思いつきました。」

2.安井さんに聞きました!ZEB化のハードルは高い?それとも低い?

汎用製品の組み合わせでZEB化を達成できれば、経済的にも優しそうです。でも、実際には難しい面もあるような気が・・・。素直に安井さんに聞いてみました。

ーZEB化がしやすい施設や難しい施設はあるのでしょうか?ー

安井さん
「一般的な事業所や事務所はZEB化しやすく、低層の建物ほどレベルの高いZEBの実現の可能性は高まります。ZEBを考えるときに重要なのは、エネルギー使用量です。省エネ(使用するエネルギーを減らす)と創エネ(使用するエネルギーを作り出す)で、いかにエネルギー使用量を減らせるかを考えます。
省エネは、断熱材を厚くしたり、空調性能をよいものを取り入れたりすることで、従来よりもエネルギー使用量を50%以下の削減を目指します。
創エネは、太陽光発電の導入が一般的です。延べ床面積に対する創エネ割合が焦点となるのですが、高層になればなるほど、延べ床面積に対する太陽光パネル設置面積(創エネ割合)が低くなるので、ZEB化のハードルは高くなります。都会でZEB化を目指す場合、狭いスペースで高層の建物を対象としなければならないことが多いので、太陽光パネル設置面積も低くなります。また、階層が高いとその分、エネルギー使用量も増えるので、最先端の技術による省エネを目指さざるを得なくなります。そのため、結果的に、ZEB=コスト高、となってしまいます。
一方、低層であれば高層よりも延べ床面積は小さくなりますし、階層も低いので、ZEB化へのハードルは低いです。それでも、ZEB化が難しいのは、お湯をたくさん使う施設です。例えば、銭湯とか。お湯をたくさん使うとその分、エネルギー使用量も高くなってしまいます。 ZEB認証は取得できないけれども、ZEBに近づけることはできますので、そのような施設からの相談には、省エネ・創エネを踏まえた提案をしています。」

ーZEB化する場合としない場合、そのコスト差はどの程度なのでしょうか?ZEB化のメリットはあるのでしょうか?ー

安井さん
「近年、エネルギー価格が高騰していますので、ZEB化のメリットは大きいと考えています。ZEB化できるのであれば、やった方がいいです。初期投資は、ZEB化しない場合と比べると負担は大きくなりますが、15年程度で初期投資を回収できます。また、ZEB認証取得により、環境への貢献をアピールできます。これまで十数件手がけてきましたが、皆さん、好評です。」

ーテレビや空調機器など、一般家庭向けの家電は毎年、新しいものが発売されます。そう考えると、今すぐにZEB化に取り組まず、もう少し待って、性能がさらに良い製品が発売されてからZEB化を検討した方がいいでのしょうか?ー

安井さん
「省エネ製品は、当たり前になっています。今の製品でも十分ZEB化できるので待つことはないと思います。」

ー須山建設さんでは、自社ビルを改修によりZEB化した、と聞きました。どうやって改修したのでしょうか?ー

安井さん
「当社は3階建てのビルなのですが、改修は新築と違う難しさがあります。①フロアを使いながら工事を進める、②建築当時の様子(導入している製品・機器の省エネ性能や構造)を把握する必要があります。実は、2017年にまず最初にZEB化の検討をしたのは当社のビル。このビルをZEB化するにはどうすればいいのか、どのくらいコストや工期がかかるのか、をシミュレーションをしたんです。しかし当時は、オフィスを使いながら改修する難しさなどから断念しました。2021年に空調設備を更新するタイミングが来たので、どうせ改修するならZEB化に挑戦しようと踏み切りました。しかし、どうしても10月から施工しなければ年度内の完成に間に合わず、10月というとまだまだ暑い時期。工事の間少し、空調が使えなかったのは、職場環境としては厳しいものがありました。」

▲改装中(3階フロア)
▲改修後

ー新築の社屋のようですねー

安井さん
「よく言われます(笑)。床や壁面の化粧材などは張り替えました。天井は空調の配管更新等を考えるとほとんど剥がすことになってしまうのですが、工事担当者と検討を重ねて必要最小限の改修範囲で済みました。結果として、天井以外は新築に近い雰囲気になりました。」

3.ZEB化のメリットって、どんなところ?

ここまでのお話を聞く限り、想像以上にZEB化のハードルは低くなっている、と感じました。安井さんに、ZEB化した社屋で勤務する身としてのメリットを聞いてみました。

ーZEB化してよかったことはありますか?ー

安井さん
「職場環境が良くなりました。内観はもちろんですが、空調の効きが特に良いです。ZEB化する上では、外気を室内に取り込む際に、いかにエネルギーを発生させずに適した温度にするかがポイントとなります。全熱交換器を設置することで少ないエネルギーで温度の調整ができます。また、高効率の空調機の導入により、室内の温度ムラも少なくすることができます。そのため、どの場所にいても快適に仕事ができます。当然、エネルギー使用量も削減されているので、経済的にも良かったです。
 さらに、社員の環境への意識が高まりました。建設業に従事する者は、社会貢献をやりがいに感じています。ZEB化したことで、『自分たちが行っていることが脱炭素社会に貢献している』と実感できています。仕事のやりがいにつながっていることは大きな利点です。」

ーZEB化が社会にも社員の方々にも貢献しているのは良い循環ですね。今後、どのような方・事業者にZEB化に取り組んでもらいたいですか?ー

安井さん
「新築を検討する際には、まずはZEB化を考えてもらいたいですね。当社の手がけた建築物で最も延べ床面積が少なかった施設は99㎡です。小規模であってもZEB化できます。
 ここ1、2年でZEBという言葉が急速に浸透してきました。これから先、ZEB化は今以上に普通の技術になっていくと思います。改修の場合、建設当時の状況把握であったり、使用しながらの工程管理であったり、新築と比べるとハードルは上がるのですが、手がける建築物で可能なものは100%ZEB化を目指したいと思っています。」

<取材を終えて>

ZEBというと、最新の技術でなければ達成が難しいようなイメージがあったのですが、既に一般的になっている技術を組み合わせることで可能な状況になっています。一度、ZEB化に取り組めば、長期的なメリットもあり、仕事環境も向上するならば、検討する価値は大いにアリ、と思います。
※ 現在、ZEB設計費補助金の受け付け開始中!詳細は、下記ホームページをご覧ください。

建築物ZEB化設計促進事業費補助金(こちらをクリック)

―――↓問い合わせ―――――――
県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(254)4032

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