フカボリ
「お悩みを聞かせてください!」 認知症を支える相談窓口 「認知症コールセンター」
2024年8月28日
近い将来、高齢者の5~6人に1人は認知症になると予想されています。認知症は、認知機能が低下し、日常生活に不都合が生じる状態ですが、発症しても急に何もかも分からなくなって、常に誰かの助けが必要になるわけではありません。また、進行や経過には個人差があり、早期の発見や相談によって症状の進行を遅らせることができる可能性もあります。
県は、認知症のご本人やご家族のお悩みの相談窓口として、「認知症コールセンター」を設置しています。「認知症コールセンター」は、どのような方が相談に応じているのか、どんな悩みを相談してよいのか・・・。今回、「認知症コールセンター」に携わる職員さんの思いを取材しました。
目次
1.電話だからこそ、うちあけられる相談窓口
今回、お話を伺ったのは、認知症コールセンターの業務を受託している公益社団法人認知症の人と家族の会 静岡県支部(すぎなの会)の代表の石田さん、副代表の鈴木さんです。
ー認知症コールセンターは、どんなところでしょうか?
認知症のご本人であったり、ご家族であったり、「不安な気持ちを聞いてほしい」というときに、気軽に相談できる電話相談窓口です。困った時の心の拠り所ですね。
ご家族のことが心配・・・そう思ったときに、電話をかけてくれる方が多いです。対面だと初対面の人には、なかなか本音をうちあけにくいですよね。電話だからこそ、お互いの顔が見えないからこそ、初めてでも悩みをうちあけることができると思います。
相談のきっかけはさまざまで、「インターネットで検索したら、上位にヒットして」という方が多いです。本県在住の方だけではなく、遠方に住んでいるご家族から本県で暮らしている親のことを相談されることもあります。フリーダイヤルなので、どこにお住まいの方であっても、悩んで、困って、電話をかけてきてくださった方、お一人お一人の気持ちに寄り添って、対応しています。
ーどのような相談があるのでしょうか?
50代の方から、ご両親の症状についての相談が多いです。夏場ですと、「エアコンをつけても消したがって、話を聞いてくれない。どうしたらいい?」という相談もあります。この気候ですから、エアコンをつけないと命に関わってしまいます。そういう相談には、エアコンの風向を変えることや別室でエアコンをつけて扇風機で空気を循環させて室内を冷やす、といったアドバイスをしています。また、特に注意が必要なのが水分補給。水分を取ることを嫌がる人も多いので、水分補給の仕方をお伝えしています。
ー遠方に住んでいる方だと、すぐにご親族の近くにいけない方もいらっしゃると思います。そのようなご相談には、どのようなアドバイスをするのでしょうか?
「地域包括支援センターや民生委員に相談してみてはどうか」、といったことをお伝えします。お一人お一人、状況が違いますので、助言を求められた場合は、その方に寄り添ったアドバイスができるように心掛けています。
中には、「別のところで相談したけれど、話を聞いてもらえなかった」という相談もあります。各市町、地域に相談窓口はありますが、相談体制はそれぞれです。このコールセンターは、悩み相談に特化しています。電話応対する相談員も自らが介護経験者であり、看護師や社会福祉士・ケアマネジャーといった専門の資格を持っている方が多いです。介護福祉分野の法律に長けた相談員もいます。さまざまな場面、状況に応じて、その方の悩みが少しでも軽減・解消できるように努めています。
2.気になったその時に電話を。それは今かもしれません
ー「もう少し早く相談してくれたら・・・」と思うこともありますか?
あります。ご両親と一緒に住んでいる方、特に、独身の男性に多いのですが、デイサービスの利用や訪問介護などをもう少し早く利用していたら、認知症の進行を緩やかにできたかもしれないのに、自分一人で面倒を見ていたために、疲弊してしまう方がいます。
また、認知症の影響で、ご親族等がこれまでできていたことができなくなったことを受け入れられず、完璧を求めてしまう方も多いです。認知症は、年を取れば、誰もが自分事となるものです。気になったときに相談していただければ、認知症とうまくつきあいながら生活できる可能性もあります。「こんなこと聞いてしまってよいのだろうか・・・」と思わずに、どんなことでも気になったことは何でもよいので、電話してほしいです。
ー具体的なアドバイスとして、どのようなことをお伝えすることが多いのでしょうか?
主治医の先生との連携、をお伝えすることが多いです。認知症の方は、受診自体を嫌がることが多いです。そのため、日頃の様子を記録しておくことが大切です。また、受診と聞くと嫌がられても、「定期健診」という形ならば嫌がられないこともあります。健診の際に、事前に日頃の様子を記したメモを主治医の先生に渡しておけば、主治医の先生は、メモ内容とその方の応対の様子を比べ、認知症の進行具合を判断することができます。
また、ご本人を前にして主治医の先生に状況を説明することも難しいと思います。「そんなことはない」とご本人が否定することもあるので。この点でも、あらかじめ主治医の先生と話しておく、日頃の様子を記したメモを渡す、といったことが、適切な診断を受けることにつながります。
認知症と診断され、要介護認定を受けると、介護保険サービスを利用できる場面が多々あります。知らない方も多いのですが、介護保険を利用すれば、介護用のベットや車椅子も購入しなくてもレンタルすることができます。しかし、要介護認定には、医師の意見が必要になりますので、受診をすることは大切です。
受診を拒否してしまうと、要介護認定の手続きができないので、費用面での負担も大きくなってしまいます。以前、「要介護認定はまだですが、介護用ベットはもう買ってあるんです」という相談を受けたとき、もう少し前に相談してくれたら・・・と思いました。
3.介護経験者の相談員がサポートします
ー電話される方は、初めての方が多いのでしょうか?それとも、心の拠り所にしている方(定期的に電話される方)が多いのでしょうか?
初めての方が多いです。「電話番号を知っていたけれど、電話しようかどうかずっと迷っていた」という方もいらっしゃいます。「親を施設に入所させようか迷っている」という相談であったり、「認知症の介護に疲れてしまった・・・」という相談であったり。悩みを誰かにうちあけるだけでも、精神的にも楽になりますので、遠慮なく電話をしていただきたいです。日曜日も応対しているので。
ー相談内容がその電話で解決できない場合はあるのでしょうか?
基本的には、電話をしていただいたその場で解決できるよう、2人の体制で対応しています。相談員は介護経験者であるので、電話された方の状況に応じたアドバイスをしています。
また、相談員は、定期的に(公社)認知症の人と家族の会 本部の研修に参加し、全国の事例の共有や電話応対のケーススタディ(応対が難しい事例を基に、どう応対するか)の演習を行っています。安心して利用いただきたいです。
ー悩みをうちあけることができて、アドバイスももらえると、電話された方も心が安らぎますね。
多くの方が認知症に初めて直面するのは、ご両親が認知症になったときだと思います。「今までできていたのに、どうしてできないの・・・」と一人で悩んでいると、体調面だけではなく、精神面も疲弊してしまいます。認知症のご本人だけではなく、介護している方も日常生活をおくることが難しくなってしまいます。そうならないように、そうなる前に、早く相談してほしいです。どんなささいなことでもかまいません。「こんなこと、相談していいのだろうか・・・」と思うかもしれませんが、相談してください。安心してください。大丈夫です。
認知症は、初期の対応次第でその後の状況が変わってきます。早期対応により、進行を緩やかにできる可能性もあります。また、認知症と診断され、要介護認定を受けることで利用できるサービスもあるので、医療機関への受診をためらわないでほしいです。
どのような状況であっても、一人で抱えこまないで。自分を責めないで。もう少しがんばろう、と思わないで、電話してほしいです。あなたのお悩みを聞かせてください。
ー取材を終えてー
取材の間も、コールセンターの電話が鳴っていました。親が認知症になると、「自分でなんとかしなければ」と思ってしまう方も多いそうです。認知症が進んでいくと、ささいなことで口げんかになることも。中には、認知症の方が殴りかかってきたのでよけたところ、偶然にも手が当たってしまい、「虐待を受けた」と認知症の方に認識されてしまった事例もあるそうです。その段階になってから相談するのではなく、もっと早い段階から相談していれば、認知症を抱えながらも穏やかな日常生活を過ごせる可能性があったかもしれません。
「認知症コールセンター」は、困った時の心の拠り所です。一緒になって考えてくれる相談員がいますので、安心して、まずは電話いただきたいと思います。
【認知症コールセンター】
フリーダイヤル 0120-123-921
相談日時 週4日(月・木・土・日) 10時~15時
※毎月第3日曜日・祝日・年末年始を除きます
―――↓問い合わせ―――――――
県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(254)4032