フカボリ
「なぜ涼しいの?」見て、触れて、考える。建物のひみつ-「ふじのくに子ども観光大使」講座より
2026年9月14日
「今、この部屋は涼しいよね。でも、実はエアコンがついていないんだよ。」
そんな驚きの一言から始まった、今回の「ふじのくに子ども観光大使」の講座。
浜松市にある常盤工業株式会社を訪れた子どもたちは、壁や窓、地下水など、建物に隠されたさまざまな工夫を探しました。
見て、触れて、考える。
身近な「建物」を入り口に、環境やエネルギー、地域の仕事へと視野を広げた子どもたち。その学びの様子を紹介します。

目次
1.地域の魅力を見つける「ふじのくに子ども観光大使」
2.「なんで涼しいの?」オフィスに隠された工夫
3.見て、触れて、考える。子どもたちの気付き
4.体験から生まれる、地域とのつながり
5.体験から広がる、地域へのまなざし
1.地域の魅力を見つける「ふじのくに子ども観光大使」
「ふじのくに子ども観光大使」は、静岡県の魅力を実際に体験し、自ら見つけた地域の良さを発信する取り組みです。
令和8年度は県内12会場で、農業やものづくり、文化、自然、産業などをテーマにした体験型の講座が予定されています。
子ども観光大使になるには、12会場のうち3回以上の講座に参加すること、観光はがき・観光俳句・観光動画などで「ふじのくに」の良さを発信すること、そして子ども観光大使検定に合格することが条件です。
また、子ども観光大使に認定後、さらに講座や活動への参加を実施し、静岡県の魅力を発信することで、「三ツ星子ども観光大使」に認定されます。
子ども観光大使の活動で大切にされているのは、観光地を訪れるだけではなく、自分自身の目で地域の魅力を見つけること。
今回の舞台は、浜松市にある常盤工業株式会社です。
テーマは「オフィス探検でSDGsを見つけよう!」。
建設会社の社屋を舞台に、子どもたちは「エアコンがないのに、なぜ涼しいの?」という疑問から、建物に隠された工夫を探しながら環境に配慮した建築について学びました。

2.「なんで涼しいの?」オフィスに隠された工夫
講座の冒頭、
「今、この部屋は涼しいよね。でも、実はエアコンがついていないんだよ。どんな工夫がされているかな?」と子どもたちに投げかけられました。
「エアコン!」という声が上がる中、ネッククーラーやハンディファンなど、暑さを防ぐ方法について考えました。
一方で、こうした機器を使うには電気などのエネルギーが必要です。
そこで紹介されたのが、エネルギーを使わずに涼しさを感じる「冷感ポンチョ」。
実際に着てみると、「涼しい!」と、子どもたちから歓声が上がりました。
「涼しくする」という身近なテーマから、エネルギーの使い方について考える時間となりました。

なお、エアコンがついていなくても涼しいのは、建物全体に地下水を循環させる空調設備が設置されているからでした。
続いて、SDGsの17の目標が書かれたカードを手に、オフィスツアーへ。
「この建物には、他にどんな工夫があるだろう?」
子どもたちは、カードを手掛かりに、壁や窓、地下水などを見て回ります。
―壁をたたいてみて!
まず注目したのは、「壁」です。
「壁をたたいてみてください。」
声をかけられた子どもたちは興味深そうに壁に触れたり、たたいてみたりしました。
この壁には、断熱材として発泡スチロールが使われています。
発表スチロールは熱を伝えにくい性質があり、建物の中の温度を保つために役立っています。
さらに魚などを運ぶ際に使う身近な素材が、快適な室内環境をつくる工夫につながっていることを、実際に触れて確かめました。

-外の空気を生かす「窓」
次に注目したのは「窓」です。
この建物には、外の空気が室内より冷たいとき、自動で窓が開く仕組みが取り入れられています。
暖かい空気を外へ逃がし、自然の風を取り込むことで、エネルギーの使用を抑えながら室内環境を整えています。
さらに太陽光を室内に取り込む工夫もあり、自然の力を生かした建物づくりを実際に見ることができました。
-「冷たい!」地下水に触れてみる
最後に子どもたちは、くみ上げた地下水を貯蔵するタンクに向かいました。
実際に触れてみると、「冷たい!」という声が上がりました。
この地下水は飲むこともでき、災害時には地域に水を提供できるよう備えられ、地域との連携にも活用されています。
環境への配慮だけでなく、地域の暮らしや防災にもつながる建物の役割を知る機会となりました。

-「省エネ」と「創エネ」
今回、見学した建物には、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の考え方が取り入れられています。
”ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼びます。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできませんが、省エネによって使うエネルギーをへらし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができます。”(引用:環境省HP「ZEB PORTAL」)
「省エネ」は使うエネルギーを減らすこと。「創エネ」は、太陽光発電などによってエネルギーをつくることです。
壁や窓、地下水など、一つ一つの工夫を見つけていくことで、子どもたちは「涼しくて、環境に優しい建物」がどのようにつくられているのかを体感しました。
3.見て、触れて、考える。子どもたちの気付き
オフィスツアーを終え、子どもたちは、この日の体験を振り返りました。
参加した梅澤(うめざわ)さんが、特に印象に残ったのは地下水です。
「触ってみて冷たかった」と話し、実際に触れたときの感覚を振り返りました。
また初めて知ったことは、外の空気の方が冷たいときに自動で窓が開く仕組みです。
そして、今日学んだことを友達や家族に伝えるなら、「エアコンを使わないで涼しくする工夫があること」を話したいと言います。
最後に「今日はどんな勉強になった?」と聞くと、「エネルギーを使わないと、地球にやさしい!」と答えてくれました。
建物を見学することから始まった学びは、エネルギーと環境の関係について、自分の言葉で考えることへと、つながっていました。
4.体験から生まれる、地域とのつながり
-保護者が感じた子どもの成長
今回の講座に参加した梅澤さんのお父さんは、子どもの様子に成長を感じたと話します。
「『環境に優しい』という言葉が自分の口から出てきたことに、少し成長を感じました。今日、こうしたエコな建物やZEBについて学べたことは、地球環境について考える良いきっかけになったと思います。今日学んだことを友達などにも伝えられるように、これからもっと積極的に発信していってほしいですね。」
実際に見て、触れて、考えたことが、子ども自身の言葉になっていく。
身近で見守る保護者も、体験を通した学びの手応えを感じていました。
-「環境に優しい」だけで終わらせず、もう一歩考える
今回の見学を担当した常盤工業株式会社の高橋脩夫(たかはしのぶお)さんは、建物に隠された工夫を「環境に優しい」と捉えるだけでなく、そこからさらに考えを深めてほしいと話します。
「SDGsの視点を持つことは大切ですが、良いところだけを見るのではなく、『これは本当に良いのか』『もっと良くするにはどうしたらいいのか』と考えることも大切だと思っています。建物を見て、ただ『環境に優しい建物だ』と受け取るのではなく、いろいろな視点から見てほしいですね。
また、建設会社の役割は、環境に配慮した建物をつくることだけではありません。環境を大切にしながら、人が快適に、豊かに暮らせる環境をつくることも大切です。環境への配慮と暮らしやすさの両立を、実際に建物を見ながら感じて、持ち帰ってもらえたらうれしいです。
子どもたちは、説明を聞くだけよりも、実際に触れたり、体感したりしたことの方が記憶に残ります。せっかく来てもらったからには、何か一つでも心に残るものを持って帰ってほしいと思っています。」
「環境に良い」という答えを知るだけでなく、「なぜだろう」「もっと良くするには」と問いを持つ。
今回のオフィスツアーは、実際の建物を教材にするからこそ生まれる、体験を伴った学びです。

-地域の魅力を見つけ、つながりを育てる
講座を企画・運営するNPO法人子ども未来の古屋晃子(ふるやてるこ)さんは、この活動の魅力について、次のように話します。
「子ども観光大使の講座では、普段は親子だけではなかなか入ることのできない場所や、バックヤードなどを見学できる機会を大切にしています。子どもたちはもちろん、保護者の方にも楽しんでいただいています。
観光というと観光地を思い浮かべる方も多いですが、静岡県には農業やものづくり、地域で働く人など、さまざまな魅力があります。普段は見ることのできない場所を訪れ、自分自身で地域の良さを見つけて帰ってもらいたいと思っています。」
今回のオフィスツアーも、建物を入り口に、環境への工夫や地域で働く人の思いに触れる機会となりました。
「ふじのくに子ども観光大使」の活動は16年間続いており、繰り返し参加する子どもたちもいます。
「最初は保護者に連れられて参加していた子どもが、何度も来てくれるようになることがあります。高校生や大学生になってから、地域のイベントで『おもてなし隊』として活動を手伝ってくれる子や、観光に関わる進路を目指すようになった子もいます。講座での体験が、その後の地域とのつながりにつながっていくことは、とてもうれしいですね。」
(「おもてなし隊」:ふじのくに子ども観光大使に認定された子どもたちが、おもてなしの心をもって、静岡県ファンを増やす活動を行っている。)
一度の体験をきっかけに、地域への関心が育ち、その後の学びや活動へとつながっていく。
それもまた、「ふじのくに子ども観光大使」が16年間にわたって育んできた魅力の一つです。

5.体験から広がる、地域へのまなざし
今回、子どもたちが探したのは、特別な観光名所ではありませんでした。
壁、窓、地下水。
普段なら何気なく通り過ぎてしまうものの中に、環境への配慮や、人の暮らしを支える工夫がありました。
そして、その背景には、地域で働く人たちの技術や思いがあります。
「なんで涼しいのだろう?」
講座の最初に生まれたそんな小さな疑問から、実際に見て、触れて、考えてみる。
その過程で、いつもの風景が少し違って見えてくるのかもしれません。
「ふじのくに子ども観光大使」が大切にしているのは、地域の魅力を誰かに教えてもらうことだけではなく、自分自身で見つけ、発信することです。
静岡県には、農業、ものづくり、自然、文化、産業、そして、そこで暮らし、働く人々など、さまざまな魅力があります。今回のオフィスツアーは、その一つを見つけるきっかけとなりました。
地域を知ることは、地域の「当たり前」に目を向け直すことから始まる。
見て、触れて、考える。
一人一人の小さな気付きが、静岡の新たな魅力を見つけ、誰かに伝えていく力になっていきます。
参考文献
・ふじのくに子ども観光大使 ホームページ
・常盤工業株式会社 ホームページ
常盤工業株式会社 静岡県浜松市 住宅設計・建築・土木 総合建設会社
・環境省「ZEB PORTAL」
