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いじめ・不登校・暴力行為・・・教育現場の課題と向き合う(前編)-安心して過ごせる学び舎を目指して-

2023年4月14日

広聴広報課には、「静岡県がこうなったらいいな」とか、「こんなことに困っている」といった県民の皆さんから、様々な『こえ』が寄せられます。その一つとして、いじめや不登校への相談も。コロナ禍により教育現場では、タブレットの配布や電子黒板など、デジタル化が促進されましたが、一方でこころの問題も。昨秋発表された県内小中学校のいじめ発生件数は過去最多。これは静岡県だけではなく全国的にも同様の傾向のようです。

「子どもに楽しく学校に通ってもらいたい、健やかに成長してほしい」といった保護者や地域の方々の思いに応えるために、教育現場は、今、どうしているのか・・・。広聴広報課職員が取材しました。

目次

  1. 小学校の現状
  2. いじめを見過ごさない!
  3. 子どもたちにとって、学校に行きたいと思える場所にするために-未然防止に向けて-
  4. 今、どうにかしたい・・・多様な学びの機会

1 小学校の現状

2,000超、過去最多・・・。令和3年度の静岡県内の小学校で発生した暴力行為の件数です。この背景には、コロナ禍における対人関係の希薄、人と話すことの不安、家庭内のことなど、様々な要因が考えられ、その理由は一人一人違います。

今、県内の小中学校では、『子どもの生きる喜び、学ぶ楽しみを実感できる場にしたい』、『豊かな学校生活を送り安心して教育を受けられる環境にしたい』との考えから、事後のフォローの充実はもちろんのこと、未然防止にも力を入れています。

2 いじめを見過ごさない!

いじめの発生要因は様々で、いじめが発端で、登校しない、したくてもできない状況に至ることも。「校内で起こったいじめをしっかりと認知し、きめ細かなフォローをしていけば、不登校まで至らなかったかもしれない」そんな思いから、これまで県内の小中学校では、いじめを見落とさない、見過ごさない、しっかりと認知し支えていくことを重視しています。

令和3年度の県内小中学校におけるいじめの認知件数は、2万件余りで過去最多。いじめの早期発見・早期対応に向け、小中学校でいじめをしっかりと認知する意識が醸成されつつあります。

教育委員会義務教育課 担当職員

「いじめの認知件数が多くなったのは、深刻な事態に陥らないようにいじめをしっかりと認知し、早期発見・早期対応に真摯に取り組んだ結果でもあります。認知されたいじめに対しては、各学校で設置しているいじめ対策委員会で、被害に遭った児童生徒への適切な支援策を検討し、個別にフォローをしています。教員だけではなく、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーも加わり、いじめの行為が止んでいるか、当事者の心身の苦痛がなくなっているかを保護者にも確認して初めて解消と判断します。いじめ見逃しゼロを目指し、積極的に認知することで不登校につながる前に防止したいです」

3 子どもたちにとって、学校に行きたいと思える場所にするために-未然防止に向けて-

いじめ・暴力・不登校に対して、これまで学校では、起こってしまった後、どうするか、という事後対応が多く、未然防止への対応がやや弱い状況ありました。未然防止のために必要なことは、学校が子どもたちにとって楽しい場所であること、行きたいと思える場所になること、居心地のよい場所になること、子どもたち同士の絆が深まること。

このため、平成22年度から国立教育政策研究所による「魅力ある調査研究事業」の公募が行われ、全国各地でモデル事業が行われてきました。今回、令和2年度からモデル事業に取り組んできた稲垣浩人先生(令和4年度富士市立田子浦中学校 校長)にお話を伺いました。

取り組み前、田子浦中学校では、地域や保護者の協力は非常に強くありましたが、生徒自ら何かをするという意識は低く、不登校率も全国平均よりも高かったそうです。このため、稲垣先生は、自ら生徒が主体となれるよう、声かけから始められました。

稲垣浩人先生(令和元年度~令和4年度富士市立田子浦中学校 校長)

「学校に来るときの靴の色、白でなくてもいいんじゃない?と声をかけても、初めは、白色でも困っていない、自分だけ違う靴だと周りの目が気になる・・・と、反応は乏しかったです。それでも、様々な機会を見て、生徒に質問を投げかけていくと、今度は生徒から、校則を変えたい、という発案が出てきました。」

生徒からの発案を受け止め、「初めてのことだからやってみれば」と伝えていくと、校則の見直しや学園祭の実施など、生徒自らが考えて提案する流れへと変わったそうです。

「思春期の時期、生徒に失敗をさせたくない、という考えもありますが、やりたいことに挑戦した結果の失敗は失敗ではなく経験です。生徒自身に、『こうしたい』、『あれやってみたい』という意欲が芽生えたこともありますが、同時に教員も『挑戦させてあげよう』という意識に変わっていきました。生徒一人一人にそれぞれの役割があり、様々な考えを尊重する校風を作りあげています」

学校を作り上げていくのは生徒。それを支える教員。その時々に学校の特色があります。一つの成功事例を他校にそのまま当てはめるのではなく、学校各々の特色に合った学校づくりが大事なポイントとなります。現在、田子浦中学校の事例を参考に新たな取り組みを始める中学校もあるそうです。

教育委員会義務教育課 担当職員

「全国各地の学校で、生徒指導上の諸課題に向き合い、その学校に相応しい対応を模索しています。他校の事例が自分の学校に馴染むとはかぎりません。参照する場合も、学校で育てたい児童生徒像や育成を目指す資質・能力などを教職員が共通理解した上で、取り入れる必要があります。正解は一つではありません。また、特効薬もありません。子どもたちの声を聞き、実態を捉えて取り組みを改善しながら、居心地のよい学校を目指して実践しています」

4 今、どうにかしたい・・・多様な学びの機会

学校では、いじめへの対処や未然防止の取り組みを進めていますが、今、置かれている環境を、すぐに変えたい、という場合もあります。

教育機会確保法には、「全児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保」を理念に掲げています。同時に、「義務教育を十分に受けていない者の意思を尊重しつつ、年齢や国籍などに関係なく、能力に応じた教育機会を確保するとともに自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、教育水準の維持向上」、「国、地方公共団体、民間団体等の密接な連携」も掲げています。

県教育委員会では、不登校などで悩んでいる子どもやご家族を支援するため、支援団体や相談機関などを紹介しています。その人に相応しい学びの場が見つけられるよう、民間団体においても学習支援や家庭支援などが行われています。

ふじのくにi(アイ)マップ

ニート・ひきこもり・不登校などで悩んでいる子ども・若者やその家族の支援に関わっている、県内の支援団体・相談機関などをご紹介しています 

https://www.pref.shizuoka.jp/kodomokyoiku/school/kyoiku/shakaikyoiku/seishonen/1003948/1032050.html

教育委員会義務教育課 担当職員

「豊かな学校生活を送ってもらいたい、という思いはあります。しかしながら、それが難しい状況になってしまった時、環境を変えて学びを続けるという選択肢もあります。民間施設等とも連携しながら、様々な角度から子ども一人一人のフォローをして、学びの機会を確保していければと思っています」

様々な要因・背景により、登校したくてもできない状況にある子どももいます。教育機会確保法により、様々な学びの形が尊重されるようになりました。不登校をなくすために学校の改革も進められているとともに、民間施設等など、無理に学校に来なくても、学びを続けられる新たな居場所を見つけることも可能となりました。一方で、豊かな人生を送ることができるよう、環境を変えた後の継続フォローも不可欠です。登校がゴールではありません。子ども一人一人の才能や能力、その可能性を伸ばせるよう、今、学校、教育委員会、公的機関、民間団体などの関係者がより積極的に連携を深めています。

後編では、不登校率が全国平均よりも高かった富士市立田子浦中学校の未然防止に向けた改革を紹介します(5月公開予定)。

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