フカボリ
社会とのつながりのきっかけに 今注目されている「バーチャルスクール」をフカボリ
2024年3月29日
先日、静岡県令和6年度当初予算が発表されました。静岡県ではどんな事業をしているんだろうと見てみたところ、「メタバースを活用した『バーチャルスクール』の設置」という気になる新規事業が。
新型コロナウイルスの影響で教育現場は大きく変化しました。動画を用いたオンデマンド授業やZoomを使ったオンライン型の授業が導入され、より柔軟に対応できる教育体制が普及しました。そんな中、メタバース空間に学校を設置し、アバターで登校する「バーチャルスクール」という新たな教育形態に注目が集まっています。県が作るバーチャルスクールっていったいどんなもの?県義務教育課にふじのくにメディアチャンネル特派員が取材してきました!
目次
1.教育の新たな選択肢 その背景には子どもたちを助けたいという想い
メタバースとはインターネット上の仮想空間のこと。そのメタバース空間上に設置したバーチャルスクールで、生徒は自分の分身であるアバターを操作して体験学習をしたり、チャットで交流したりできます。様々な理由で学校に行けなくなってしまった児童生徒の新たな選択肢として注目を集めています。
近年、静岡県以外の自治体でもこうした取り組みを導入する動きが広がっています。たとえば広島県や三重県、東京都などでは一足先にメタバースを活用した事業を展開しています。県義務教育課の日髙さんと福井さんは、これらの自治体へ視察に行ったのだとか。
なぜこれほどバーチャルスクールが急速に広まっているのか、そしてなぜ静岡県がバーチャルスクールの設置事業に乗り出したのか、その背景を日髙さんと福井さんのお二人に伺いました。
―バーチャルスクールの立ち上げを決めた理由は?
文部科学省の調査によると、国内の不登校児童生徒の数は増加し続けています。最新の調査では令和4年度で約30万人となり、過去最多となりました。静岡県内でも同様に増え続けており、令和4年度では小学生で1.84%、中学生で6.30%の不登校児童生徒がいます。さらにそのうちの約4割が学校や教育支援センターなどの支援を受けられていない状況です。このどこにもつながっていない子供たちのための支援としてバーチャルスクールの立ち上げが決まりました。学校に戻るためではなくて、子供たちが将来自立できるようにするため、社会とつながるきっかけを作るのが目的です。
―どういう理由で学校に来られなくなってしまう子が多いですか?
一つの事情でというわけでなくて、様々な事情が複雑に混ざっていることが多いです。いじめ、精神的・身体的な病気、家庭環境などがありますが、そういった明確な理由がないけれども鬱っぽい、集団生活に慣れないなどもあります。中にはHSC*といった特殊な才能をもっていて学校に合わないという子もいます。
*HSC:感受性が高い、感覚が敏感などの気質を持つ子どものこと
2.従来のオンライン授業とは何が違う?バーチャル空間の活用法
―バーチャルスクールでの勉強はどのようなものを想定していますか?
現段階の構想では、オンデマンド学習を考えています。小学校1年生から中学校3年生までの教材を用意して、生徒自身ができるところから自分のペースで進められる勉強法を考えています。好きな教材を選んで、ドリル学習的に自分で問題を解いていくっていうイメージです。
ただ放置にはならないように、分からないところをチャット等で聞けるシステムやスタッフが学習の進度を確認して声掛けをするなどのフォローもしたいですね。
将来的には、先生との双方向の授業ができるようになれたらとは思います。ですが、ターゲットは部屋から出られずにじっと過ごしている子供たちですので、先生との双方向な授業はまだ難しいかなと思っています。まずは社会とのつながりが全くない子供たちにバーチャル空間へと一歩出て来てもらう、これが一番のポイントです。
―勉強面以外の活動も何か考えているものはありますか?
外とのつながりも大事にしていきたいので、バーチャル空間を利用した企業の職業体験プログラムや社会見学、観光地を巡る遠足などを考えています。また、教員やカウンセラーとの関わりだけでなく、フリースクールや教育支援センターと連携して、そこに通う生徒たちともバーチャル空間で交流するというのも考えています。そういったバーチャル空間内での活動を通して、今度は自分から外に出てリアルで体験してみたり交流してみたりしようと思ってもらえたらと思います。そのきっかけとなる場所を作るのがバーチャルスクールの目的です。
―対面やオンラインと比較して、バーチャルスクールの利点は何ですか?
秘匿性が保たれており、顔や名前を出さなくてよいところです。自分を表に出すのが苦手な子でもアバター介することで他者とのつながりを作りやすいと思います。
また、対面やオンライン型のようにこの時間にこの授業って決めるよりは、自分のペースでゆるく学べるところもポイントです。オンデマンド型であれば、その日の調子なども考慮して学習を進めることができます。
3.バーチャルスクール推進事業のこれから
―さらにバーチャルスクールを浸透させるために今後してきたいことはありますか?
子どもたちの周囲の教員や保護者の理解も深めていきたいと思っています。先生や親世代は学校に行くのが当たり前という価値観の中で学生時代を過ごしてきたので、学校以外にもフリースクールやバーチャルスクールといった選択肢があるんだよということを周知していきたいです。先生に向けた研修や「Eジャーナルしずおか」(教職員向け広報誌)といった媒体で伝えてきてはいますが、まだまだだと感じます。教育関係者だけでなく、地域や家庭も合わせてみんなで子どもたちの社会的自立に向けて育んでいきましょうというスタイルをアピールしたいですね。
取材を終えて
不登校の児童生徒、相談できずにいる子供たちをどうにかして支援できないか、という想いで始まった「バーチャルスクール」。家から出られない子供たちがバーチャルスクールでの体験や交流を通して、少しでも外に出て何かしてみたいと思えたらと感じました。県の取り組みはまだ始まったばかりですので、これからどのように事業が動き、どのようなサービスが展開されるのか、今後に期待が寄せられます。
県民だより4月号の紙面の内容や令和6年度当初予算概要も併せてご覧ください。
→県民だより4月号(3月31日公開予定)
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