県政セレクション 総合情報誌ふじのくに
企業・行政・県民が力を合わせて持続可能な社会の実現を
2024(令和6)年9月
近年、世界各地で、巨大台風や集中豪雨、干ばつなどの異常気象による災害が頻発している。
その主な原因とされているのが、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加だ。
その排出量削減は世界的な課題であり、本県においても、県民、企業、行政が連携して、脱炭素化のための取り組みを推進している。
中小企業の排出量削減が、脱炭素化の鍵を握る
2020年10月、わが国は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。
本県も2022年3月に「第4次静岡県地球温暖化対策実行計画」を策定し、「2030年度までに温室効果ガスの排出量を46.6%削減(2013年度比)」の目標を掲げ、脱炭素化のための取り組みを進めてきた。
本県の「二酸化炭素排出量の部門別構成(2021年度)」を見ると、家庭部門が17.7%であるのに対して、製造業を中心とする産業部門の割合が42.0%を占める。このことを踏まえて、県は温室効果ガスの大規模排出事業者に「温室効果ガス排出削減計画」の策定を義務付け、毎年1%以上の排出量削減を求めてきた。
その一方で、大規模排出事業者ではない中小企業などについては、脱炭素化のための取り組みが思うように進んでいないのが実情である。本県が「温室効果ガス排出量46.6%削減」の目標を達成するためには、中小企業・小規模事業者の排出量削減が鍵を握っている。
温室効果ガスの種類別、二酸化炭素排出量の部門別構成(2021年度)
カーボンニュートラルに取り組む 5つのメリット
①競争力の向上(新たな受注機会の獲得)
②コストの削減、生産性(収益力)の向上
③企業価値(ブランド力・企業イメージ)の向上
④社員のモチベーション向上(人材採用・定着率向上)
⑤有利な資金調達(ESG投資・補助金・制度融資)
中小企業などの脱炭素化の相談にワンストップで対応
中小企業・小規模事業者の脱炭素化が思うように進まない主な要因となっているのが、人材不足と資金不足だ。これらの課題に対応するため、県は2022年度から企業の脱炭素化の「ワンストップ相談窓口」として、「企業脱炭素化支援センター(公益財団法人静岡県産業振興財団内)」を設置した。窓口には2年間で累計570件の相談が寄せられている(2022年度および2023年度実績)。
このような相談に対して、センターは「普及啓発」「人材育成」「計画策定」「設備導入」の4つのフェーズで脱炭素経営の支援を行う。
「普及啓発」では、セミナーや講演会などで脱炭素化の動きや先進的取り組みといった情報を提供し、脱炭素化に対する意識醸成を図る。
「人材育成」では、脱炭素化に取り組む企業内リーダーや専門家などの人材を育成する。
「計画策定」では、脱炭素化の計画を策定する企業に対して、省エネ診断、生産工程や設備の見直しなどニーズに応じた専門家派遣などを行う。
そして「設備導入」で、省エネ設備などを導入する企業に対して、補助金活用や資金調達をサポートしていく。
このように、センターではそれぞれの企業の実情に合わせた細やかなサポートにより、脱炭素化支援の実効力を高めている。
静岡県企業脱炭素化支援センター ワンストップの脱炭素経営支援
普及啓発
セミナー・講演会などを通して、脱炭素化の先進事例などの情報提供
人材育成
脱炭素化を進める企業内リーダーや専門家の育成
計画策定
専門家派遣などによる、脱炭素経営に向けた計画の策定支援
設備導入
省エネ設備導入のための補助金や制度融資などの活用支援
金融機関などがプッシュ型で脱炭素経営を働きかける
企業脱炭素化支援センターは、ワンストップ相談窓口として、脱炭素化の「支援を求める企業」をサポートしてきた。しかし、それだけでは十分とは言えない。
中小企業にとって、脱炭素化の取り組みから背を向け続けることは、エネルギーコストの増大、有利な融資機会の喪失、サプライチェーンからの締め出しなど、将来の経営存続を揺るがす大きな問題となり得るが、長期的な経営課題は二の次にされることが多い。
今後、脱炭素化をさらに推進していくためには、経営面に直接影響力を持つ立場の者が、長期的な視点に立ち、資金面も含めた現実的な対応を支援していく必要がある。
その役割を期待されているのが、地域の金融機関だ。
日ごろから企業経営に深く関わる金融機関が、取引先企業に対して、二酸化炭素排出量の見える化や排出削減の取り組みなどを直接的に働き掛けていく。
脱炭素という地球規模の課題に対し、脱炭素経営の指南を行う人材を個々の金融機関が単独で育成することは非効率である。
このため、2024年5月、県内全13の金融機関、県・市町、経済団体、大学、シンクタンクなどが構成メンバーとなり、共同して人材育成を行い、取引先の脱炭素経営への誘導を効果的・効率的に進めていくことを目的に、「しずおかカーボンニュートラル金融コンソーシアム」が設立された。
コンソーシアムでは、行員など支援者の脱炭素化スキル向上につながる講座や研修、支援者が企業に提供する「対策メニュー」の作成などを通じて、脱炭素化支援の現場をバックアップする。このような金融機関が中心となったコンソーシアムは全国的にも珍しく、先進的な事例として注目を集めている。
中小企業などの脱炭素化の相談にワンストップで対応する「プル型」支援を中心とした企業脱炭素化支援センター、脱炭素経営に取り組む企業を掘り起こす「プッシュ型」支援のしずおかカーボンニュートラル金融コンソーシアム。
両者が連携しながら、カーボンニュートラルの未来に向けて、中小企業・小規模事業者の脱炭素化を推進していく計画だ。
しずおかカーボンニュートラル金融コンソーシアム イメージ図
脱炭素を担う、未来人材を育成「アオハル!エコロジーラボ」
県は、静岡大学と「地域脱炭素の推進」に関する連携協定を結び、脱炭素社会に貢献する人材の育成や、脱炭素化のための共同研究などを進めている。
その一つが、高校生を対象とした「アオハル!エコロジーラボ」である。これは、気候危機やエネルギー問題に興味関心のある高校生が集まって、チームをつくり、脱炭素につながる企画を開発するというプログラムだ。
高校生チームが、企画のテーマを設定し、アイデアを出し合い、大学生メンターの伴走支援を受けながらブラッシュアップしていく。最終カンファレンスでは、各チームが大学教員、地域の企業・団体の前で自分たちの企画のプレゼンテーションを行う。
高校生にとって、社会と自分の未来について考える貴重な経験の場になっている。
使用済紙おむつの再資源化で、持続可能な社会を実現したい
持続可能な社会の実現には、脱炭素化とともに資源の循環利用が欠かせない。
その一つとして、県は、使用済紙おむつの再資源化に取り組んでいる。背景には高齢化の進展に伴う紙おむつ使用量の増加があり、2030年には市町が回収するごみの約7%が紙おむつになると予測されている。
紙おむつはパルプとプラスチックなどの素材でできており、再資源化が可能だ。
しかし、「分別回収」「再生処理」「再生資源の活用」の各プロセスでクリアすべき課題が多いため、県は2024年度から「使用済紙おむつ再資源化実証事業」をスタートさせ、市町や企業と連携して進めている。
使用済紙おむつの再資源化には、資源の循環利用だけでなく、環境に配慮したまちづくり、雇用の創出などの多くのメリットがあります。また、使用済紙おむつの拠点回収化を通じた子育て世代への支援や、分別やゴミ出しが困難な高齢者への支援など、子育てや福祉といった社会的課題の解決にもつながると思います。
本事業を通じて、先進的な事例を導入モデルとして周知することで、県内における取り組みを拡大していきたいと思います。