静岡の未来、創造 総合情報誌ふじのくに

高機能バイオマス素材「CNF」の幅広い産業分野での実用化に挑む

2025(令和7)年3月

CNF(セルロースナノファイバー)は、
木材などのセルロースをナノレベル(100万分の1ミリ)まで微細化したバイオマス素材である。
軽量・高強度などの機能性があり、さまざまな製品への応用が期待されている。
本県は全国に先駆けて、CNF関連産業の創出と集積を目指して
「ふじのくにCNFプロジェクト」に取り組んできた。
プロジェクトの一環として、県富士工業技術支援センターでは、
事業者にCNFなど微細化セルロースのサンプルを無償提供し、
それを活用した研究開発・試作・製品化の支援を行っている。

県富士工業技術支援センター

高機能バイオマス素材「CNF」の可能性と課題

CNFをはじめとする微細化セルロースは、「高機能バイオマス素材」として注目されている。これらは、軽量でありながら高い強度を持ち、優れた保水性や低い熱膨張性といった特性を備えている。現在、化粧品・食品・文具などの分野で実用化が図られているものの、市場の拡大は十分に進んでいない。その主な要因の一つが、製造コストの高さである。

CNFの製造方法は、化学的製法と機械的製法に大別される。化学的製法では、化学反応を利用してセルロースをナノレベル(3~4nm※程度)まで均一に微細化することができるが、製造コストが高くなる。少量の使用で高付加価値を生み出せる化粧品や食品添加物のような用途には適しているが、大量に使用する分野への展開は難しい。

CNFの有望な用途の一つに、樹脂製品の強度を高める複合材がある。現在、多くの樹脂製品にはガラス繊維が補強材として使用されているが、これをバイオマス素材のCNFに置き換えることで、樹脂製品のリサイクルが容易となり、環境負荷の低減・カーボンニュートラルの実現に貢献できる。自動車部品などへの応用が期待されているものの、その実現には製造コストの低減が課題となる。

※nm・・・ナノメートル。1nmは1mmの100万分の1相当。

CNFの特性と期待される主な用途

CNFなどの微細化セルロースは、さまざまな特性を持つ高機能素材であり、幅広い産業分野で用途開発が進められている。また、環境面においても、製品(自動車など)の軽量化などによるCO2削減、樹脂製品などのリサイクル性の向上による循環経済の実現への貢献も期待される。

化学解繊CNF
機械解繊CNF

静岡県内企業によるCNF関連製品開発事例

製紙機械の技術を応用し、CNFの低コスト生産を実現

県富士工業技術支援センターは、中小企業の技術開発、品質管理、成長分野への進出など、さまざまな課題解決を支援している。CNF分野では技術的中核機関として、関連機器の整備や研究、技術指導を進めてきた。

その一つが、機械メーカーの相川鉄工株式会社と共同開発した「CNF製造向けリファイナー」だ。リファイナーとは、製紙工程でパルプ繊維をすり潰して細かくする機械である。この技術を応用することで、化学処理を行わずにCNFを製造することに成功した。

大量生産にも対応し、同センターに設置された小規模なリファイナーでも、1日当たり最大120kgのCNFの生産が可能だ。量産化により、製造コストが低減されることで、さまざまな産業分野でのCNFの利用拡大が期待される。

CNF製造向けリファイナー
試験機SDR
量産機DDR

リファイナーの刃物の形状を工夫し、クリアランス(隙間)を調整制御することで、セルロースの微細化を実現しました。化学的製法に比べると、繊維幅は数十~数百nmとややばらつきがありますが、樹脂製品の補強材としては十分な品質です。リファイナーはもともと製紙機械として普及しているため、製紙会社で運用しやすいのも利点です。2023年4月の販売開始から、すでに複数の製紙会社が導入しています。

相川鉄工株式会社 技術本部 ソリューション事業部 
山村 延彦さん 武安 裕也さん

CNFのサンプル提供を通じて、新たな用途開発を促進

CNFの市場を拡大するには、製造コストの低減に加え、幅広い産業分野での用途開発が欠かせない。この課題に対応するため、同センターは、CNFに関心のある事業者向けにサンプルの無償提供を開始した。

「CNFの入手が難しい中小企業などにも、気軽に試せる機会を提供することが狙いです。事業者の用途に応じて、化学的製法(3~4nm程度)または機械的製法(数十~数百nm程度)で製造されたサンプルを提供します。
また、製造条件に関する情報も無償で提供し、事業者自身がCNFを製造する際の相談にも応じています。さらに、静岡大学や富士市と連携し、ふじのくにCNF研究開発センターや富士市CNF連携拠点を設立しています。そこで、研究者や学識経験者にもアドバイスをいただきながら、事業者の技術開発・試作・製品化をサポートしていきます」と、同センター 山下CNF科長は語る。

このサンプル提供については、中小企業・小規模事業者からの問い合わせも多く、さまざまな分野で新たな活用アイデアが寄せられているという。

本県は豊富な森林資源を有し、パルプ・紙産業の出荷額は全国1位である(2023年経済構造実態調査[経済産業省])。さらに、県内には輸送機械、電気機械、化学工業、食品、医療など多様な産業が存在しており、CNF関連産業の創出・集積において絶好の環境と言える。高機能バイオマス素材「CNF」は、本県の産業の新時代を開く可能性を秘めている。

CNF関連製品の実用化を目指す事業者への支援体制

ふじのくにCNFプロジェクト

静岡県が推進する、CNF関連産業の創出と集積、社会実装を通じて、循環経済や脱炭素社会の実現を目指す取り組み。「基盤強化」、「イノベーション」、「社会実装」の三つの柱で、さまざまな活動を展開している。

2015年6月

産学官連携による「ふじのくにCNFフォーラム」を全国に先駆けて設立。

2017年10月

静岡大学農学部に「ふじのくにCNF寄附講座」を開設し、研究開発と人材育成を推進。

2019年5月

県富士工業技術支援センター内に「ふじのくにCNF研究開発センター」を開設。

2023年6月

「ふじのくにCNFフォーラム」を発展的に改組し、「ふじのくにセルロース循環経済フォーラム」として再編。

国際セミナーにて、海外の研究者による研究発表、国内大手企業の取り組みを紹介
CNFの特性を体験するワークショップを開催
ふじさんめっせ(富士市)で開催した「ふじのくにセルロース循環経済国際展示会」にて、県産木材由来のコンセプトカー「しずおか もくまる」を初披露

詳しくはこちら(ふじのくにセルロース循環経済フォーラム 公式X)

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