静岡の未来、創造 総合情報誌ふじのくに
県土まるごと3Dスキャニング仮想空間に3次元点群データの「まち」を構築
静岡県が未来に向けて仕掛ける先駆的で大胆な取り組み。
自然災害の激甚化、道路・橋梁(きょうりょう)等の老朽化、過疎地域における公共交通の縮小など、
深刻化する社会課題に対応するための、新たなデジタル社会インフラ。
穏やかな波を港に寄せる駿河湾、その先の水平線をぼかしてたなびく薄い雲。海と空をブルーグレーのグラデーションに染めながら、やわらかな光線が降り注ぎ、清水の街に朝の訪れを告げている――。
一見CGアニメーションか航空写真のようにも見える上の画像は、静岡県が取得した3次元点群データを使って、県職員がゲーム作成用ソフトウェアで作成したものだ。
県は全国に先駆けて3次元点群データの蓄積を進めてきた。2016年度に計測機器を搭載した車両や航空機を使ってレーザー計測を開始。2019年度からは「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル静岡)構想」として、広範囲・高密度なレーザー計測を本格的に実施した。投じた総事業費は約17億3000万円。3年間かけて南アルプスの山岳地帯を除く県土面積の9割、人が住む全てのエリアの3次元点群データの収集を終えた。
その3次元点群データから出現するのは、デジタル世界に存在するもう一つの静岡県。デジタルツイン(双子)と呼ばれる仮想県土だ。
点が創り出す精緻な仮想空間
3次元点群データとは、緯度・経度・高さの3次元の位置情報を持った点の集まりで、さらに色情報や光線の反射強度などの情報も1点1点に含まれている。その膨大な点群データが形作るのは、現実世界を精緻に写し取ったまさに立体点描画。データ上の縮尺も現実世界と変わらない1分の1。各点が持つ座標情報により、仮想空間上で対象物の大きさや距離などを正確かつスムーズに計測することが可能になった。
その使い道は無限大だ。災害発生前後の点群データを重ね合わせることによる被害状況の把握、津波や河川氾濫の防災3Dシミュレーション、遺跡や文化財の調査・修復、自動運転技術への活用、バーチャル観光ツアー、インフラ整備、景観計画、森林管理など、既にいくつもの分野で利用が始まっている。
オープンデータ化により幅広い分野での応用を促進
2021年7月に発生し、今も復旧作業が続く熱海市伊豆山土石流災害では、二次災害を防ぐため実際に3次元点群データが活用された。これにより、崩れた場所と流出した土砂量の推計や、盛土の場所の把握がなされた。
また、県は3次元点群データを自由に使えるオープンデータとして公開し、個人や企業での利活用を促している。誰でもインターネットからダウンロードでき、商用目的も含めて自由に加工することが可能だ。
既に自動運転用の地図情報やゲームに活用された事例もある。今後、新しい産業の創出、事業の効率化、合意形成手法などといった、新たな可能性と価値の広まりが期待される。
「3次元点群データ」の座標情報
3次元点群データとは、1点ごとに緯度、経度、高さの3次元の位置情報を持つ点の集まりのデータのこと。 「VIRTUAL SHIZUOKA」はさらに、RGB(色)、受光強度といった情報も備えている。これにより奥行きのある立体的な景観が再現できる。
研究者による3次元点群データ活用例
レーザーを照射する3次元計測により、上空から見える地表データだけでなく、樹木や建物を透過した地形データを取得。航空写真では撮影できない土地の形状を捉えることが可能となった。上の画像では、富士山のまだ知られていない噴火口の跡を見ることができる。