フカボリ

「それ、いいじゃん!やってみよう!」交流から生まれるイノベーション基地 SHIP

2023年7月31日

県民だより令和5年8月号では、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)人材の育成をテーマに、イノベーションの拠点SHIPをご紹介しました。この春、JR静岡駅の程近くに開所したSHIP-SHizuoka Innovation Platform-には、イノベーションのアイデアを求めて、人々が集まっているそうです。今回、SHIP コミュニティマネージャーの玉城陽子さんに、お話を伺いました。県民だより8月号の紙面の内容も併せてご欄ください。→県民だより8月号

目次

  1. SHIPってどんな場所?
  2. デザイン設計にかけた想い
  3. 使い勝手はどう?利用者に聞いてみました!
  4. 目指すは、ICT人材の育成

1 SHIPってどんな場所?

静岡市葵区の江川町通りにある静岡銀行呉服町支店沿いの脇道を歩いて行くと、SHIPのロゴ発見!階段を登ってSHIPのある2階に向かうと、大きな窓から明るい空間が見えました。おしゃれなカフェのような内観に高揚感が高まります。3月に開所してから4カ月、会員数は944人!ニーズの高さがうかがえます。

SHIPの外観(左側:中央エレベーターから昇って2階にSHIPがあります)
入口には、今日の予定や来ている人が一目でわかるボードも

今回、SHIPを案内してくれたのは、コミュニティマネージャーの玉城陽子さん。

コミュニティマネージャー 玉城陽子さん

「SHIPは、イノベーション創出とDX(Digital Transformation:ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること)人材の育成拠点です。難しく思われがちですが、コワーキングスペースではなく人材育成や交流のための公民館のような場所です。会員登録をすれば無料で利用できます。オープンスペースはもちろん、個別打合せができるミーティングルーム、仕事に集中したい時のブース席、利用者同士が気軽に話せるカフェスペースがあります。オープンスペースでは、20人規模のイベントもできます。利用いただいている方は、リモートワークができる方はもちろん、リモートワークは難しくてもイベントへ出席することで交流を深めるきっかけとしている方もいます。静岡県庁や静岡市役所などにも近いので、打合せ時間の合間に立ち寄って企画をまとめるなど、短時間の利用にも最適です。」

2 デザイン設計にかけた思い

躯体をあえて露出させたオープンスペース
空間の余白(天井の様子が見られる)

入口付近は白を基調にした明るい雰囲気に対して、コンクリートの躯体が現しになったセミナーエリアは、落ち着いた印象。セミナーエリアから入口付近を見ると、天井の様子が見られました。SHIPのデザイン設計に携わった松村龍さん(株式会社CSA不動産 一級建築士事務所)に、こだわりをお伺いしました。

松村龍さん

「ICTの拠点なので、様々な業種、年代の人が来て交流している様子を想像しながら設計しました。多様な人が集まる場所、ということで、利用者の目的に応じて居場所を使い分けられるよう空間にグラデーションをつけることを工夫しました。

この場所は、元々ヘアーサロンで、天井がむき出しになっていたのですが、リノベーションする際に、あえて天井を塞がない、空間の余白を設けました。デジタルというのは、常にアップデートし、成長していくものだと思います。天井を塞げば完成してしまいますが、塞がないことでこの場所が利用者の交流により更新され、さらなるジャンプアップしていくことをイメージしました。人通りを考えれば1階が望ましいですが、2階に設けたことで隠れ家的な雰囲気にもなっています。ここはみんなで作っていく空間。足りない部分を補いながら、大人が遊べる場所になれば嬉しいです。」

3 使い勝手はどう?利用者に聞いてみました!

この日、施設を利用していた山﨑啓輔さん(『静岡マーケティングサロン』主宰)、原田雅樹さん(株式会社SBS情報システム 次世代ソリューション開発本部長)にお話を伺いました。

原田雅樹さん(左側)と山﨑啓輔さん(右側)

山﨑啓輔さん

ーどのようなお仕事をされていますか?ー

「企業集客に関するマーケティングやコンサルティングをしています。SHIPコーディネーターの阪口瀬理奈さんからの紹介がきっかけで、週3~4回利用しています。」

ーSHIPの魅力は何ですか?ー

「この場所に来れば誰かに会える、新たな交流が生まれることです。ここに来る人は、交流を目的に来ているので、話しかけやすいです。雑談の中から共通の課題が見えてくることもあります。新しいことを始めようとしたとき、話の中から失敗しそうなことに気づくことができます。また、個別スペースもあるので、打合せ場所としても最適。自社の中で行うこともよいですが、環境を変えて行うと新しいアイデアが生まれるなど、メリットも大きいです。これまで接点がなかった人や薄かった人も、この場所を通じて、関係が深まっています。街中にあり、短時間でも無料で利用できるので、打合せの合間にふらっと来ることができるのが魅力的です。まだ来たことのない人、利用したことのない人に、ぜひ、来てもらいたいですね。」

原田雅樹さん

「昨年の12月、SHIP開所に先立って行われたプログラムに参加したことがきっかけで開所を知りました。短時間利用を含めると、週3~4回程来ています。」

ーどのような形でSHIPを利用していますか?ー

「SHIPは、利用者持ち込み企画のイベントを実施することができます。アイデアソン、3Dプリンタなど、技術を紹介する勉強会を開催する場としても活用しています。これまでつながったことがない人と知り合えることが魅力です。これまで200人程の方とお話しすることができました。山﨑さんとも、このSHIPを通じて、よりつながりを深めることができました。

自社内に留まっていたら接点のなかった領域、分野の方ともつながることができています。知り合った方のつながりから、さらに別の方とも接点を持つことができ、新たな企画への進展が期待できそうなものもあります。ゆくゆくは、新規ビジネスにつなげられればと思っています。

SHIPは、様々な企業の方を巻き込んで、新たなアイデアを生み出す母体となってほしいですね。」

ーSHIPの使い心地はどうですか?ー

「利用しやすいです。徒歩で移動できる場所にあることはもちろん、2階にあるので人目を気にすることもないのでふらっと立ち寄ることができます。15~20人程のイベントを催したいときに最適です。広すぎず狭すぎず、丁度よいです。」

山﨑さんと原田さんは、これまで面識はありませんでしたが、SHIPを通じて知り合い、気軽にお話できる関係になったそうです。利用者も、毎月伸びているそうです。イノベーション拠点としての進捗具合をどのように感じているのか、玉城さんに伺いました。

「想定以上に早い進捗です。3月は19人/日でしたが、6月は33人/日です。開所当初の想定は、利用者は5人/日位で、まずはSHIPを周知するために自主イベント主体の取り組みを考えていました。今は、持ち込み企画のイベントが9割を占めます。SHIPを利用した人による口コミがさらなる口コミを生んでいます。会員登録者のうち7割が紹介によります。利用者の職業・業種も幅広く、大学生の利用もあります。30~50代の方の利用が主ですが、20代、60代の方の利用もあります。先日は70代の方の利用もありました。静岡近郊の方の利用が半数を占めますが、東部や西部、中には県外の方の利用もあります。」

-持ち込み企画のイベントはどういうものですか?ー

「イベントの方向性は、大きく3つに分かれます。①自分が理解・勉強したことを他の人にも知ってもらいたい、②自社の持っている技術を困っている人のために使いたい、③新たなサービスの提供の前にニーズを把握したい、というものです。初めからイベントの実施を希望する方もいますが、業務相談のためにお越しになった方と打合せをする中で、こちらからイベントの実施を提案することもあります。開催するイベントは、毎回、盛況です。」

会員間の交流やセミナーの場としても利用

ーイベント開催場所の提供以外に、どのような支援を行っていますか?ー

「スタートアップ支援やDXに関する相談対応、DX人材の育成セミナーを実施しています。相談内容によっては企業間のマッチングを提案することも。イベントやマッチングなどを通して、企業間のつながりが生まれることが新しいビジネスへの第一歩です。小さくてもいいから新たなことに挑戦することや失敗してもいいんだという環境があることが、イノベーションのカギです。

今、SHIPでも新たな取り組みを行おうとしています。SHIP入口には、今、誰が来ているかがわかるよう、インスタントカメラで撮った写真+手書きのコメントを記載したカードを掲示しています。この情報をデジタルで表現することはできますが、あえて紙・インスタントカメラというアナログ手法を用いています。このカードそのものをWEBでリアルタイムで表現することに挑戦しようとしています。電子化された文字情報ではなく、あえて紙のカードそのものをリアルタイムで見せることへの挑戦。今までのDXは、人がシステムに合わせて作業を変更する流れでしたが、今回の挑戦は、アナログな作業は変えずにシステムが作業に寄り添う。これまでの作業を変えてそれに慣れる、というコスト(時間・労力、システム利用料など)がなくてもデジタル化はできる!ということを実証しようとしています。安価でできるので、失敗してもよいと考えています。」

入口に掲示するカード。WEBでのリアルタイム表示に挑戦中!

ーDXというとハードルが高そうな印象がありますが、DXで大切なことは、何ですか?ー

「DXは、紙をすべてなくすことではありません。紙をなくすという手段ありきではなく、大事なのは何のためにDXに取り組むのかという目的。DXの目的は、元々は業務効率化。そして、その先にあるのがイノベーション。紙一つとっても、人々に周知する際に、今もなお周知しやすいのは紙媒体のちらしです。そのちらしをなくしてまでデジタル化への切り替えが必要なのかという目的に立ち返る必要があります。DXの結果として何をしたいのか。デジタル化するとより面白くなりそうなものは何かを考えることが大事です。」

4 目指すは、ICT人材の育成

利用される方がいるからこそ生まれるイノベーション。口コミで広がる利用者の輪は、徐々に大きく広がりつつあります。最後に、この場所にかける想いを伺いました。

ーこの場所をどういう場所にしていきたいですか?ー

「新しいことにチャレンジするきっかけとなる場所。誰もが使いやすい場所。偶然の出会いから面白い発想が生まれる場所。失敗してもいいからやってみよう!という土壌がある場所にしたいですね。利用する方は、みなさん交流を求めているので、こちらから話しかけ、別の方を紹介すると快くあいさつしてくれるのがありがたいです。」

ー玉城さんの目から見て、イノベーションに向けた本県の環境をどのように感じますか?ー

「様々な分野で高い技術を持っている企業が多いです。グローバルな企業やニッチトップの企業、コア技術を持っている企業、製造業だけではなくサービス業もあり、東西の大都市に囲まれた立地環境にあります。あとは、『やろう!』と思っている人が挑戦できるかどうか。やる素質がある人をやる気にできるかどうか。『失敗してもいいから挑戦しよう』という意識・環境を浸透させていくことが重要であり、その役割を当所が担っていると思っています。

イノベーションの拠点としてのステップは着実に前進しています。今は、種まきの段階。お互いが持っているカード(得意なこと)を見せ合える関係を作れるかどうか。関係を作ることができれば、次のステップへと進展していきます。これから花開くことが楽しみです。そのお手伝いをしていきたいです。ふらっと立ち寄るだけでもよいので、ぜひ、多くの方に利用いただきたいです。」

<取材を終えて>

伺った当初は、初めての空間で緊張しましたが、SHIPで流れているBGM、他者との距離感が丁度良い座席配置・・・。時間が経つにつれて和やかな雰囲気でお話を伺うことができました。場所を変えることで新たなアイデアが生まれる、これまで接点のなかった人や同じ課題を持った人とつながりを持てる、ここに来れば誰かに会える、そんな魅力がSHIPにはありました。

打合せの合間の仕事場やイベントへの参加など、ぜひ、SHIPを利用してみてはいかがでしょうか。

SHIPのホームページはこちら→https://ship-shizuoka.jp/

―――↓問い合わせ――――――――――――――――――――――――――

県広聴広報課 電話054(221)2231 FAX054(254)4032

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