フカボリ
学校看護師として働く-子どもを支え、見守る思い-
2024年7月23日
医療的ケアを必要とする子どもは、年々増加しています。特別支援学校だけではなく、小中学校にも在籍しています。医療的ケアを必要とする子どもへの支援のため、県立特別支援学校では、学校看護師の配置を行っています。令和3年9月の「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(以下、医療的ケア児支援法)」の施行からまもなく3年を迎えます。この3年間で変化したことはあるのか…。今回、県立中央特別支援学校で、医療的ケアをしながら子どもたちを見守る『学校看護師』さんを取材しました。
県民だより8月号(8月1日発行)と併せてご覧ください。
目次
1.医療的ケア児支援法。施行後、3年を迎えて-県立中央特別支援学校の場合-
医療的ケアは、一般的に学校や在宅などで日常的に行われている、たんの吸引・経管栄養・気管切開部の衛生管理などの医行為を指します。学校看護師さんは、学校で、日常的に医療支援を必要とする子どもへの医療的ケアや教員への指導・助言などを行っています。
今回、県立中央特別支援学校の教頭の池谷さん、教諭(自立活動)の青山さんと外園(ほかぞの)さんの3人にお話を伺いました。
-医療的ケア児支援法の施行後、環境面や設備面など、学校としての変化はありますか?ー
一番大きく変わったことは、今年度から人工呼吸器の管理を保護者に代わり、学校看護師が担うことができるようになったことです。これまでは人工呼吸器の管理を必要とする子どもが登校する際は、保護者の常時付き添いをお願いしていました。それが、保護者の依頼を受けて学校看護師が担うことができるようになったので、ご家族の負担軽減につながる選択肢の一つとなりました。
医療的ケア児支援法の目的は、「医療的ケア児を子育てする家族の負担を軽減し、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職を防止する」ことです。この実現に向けて、令和4年度から二年間、本校で試行的に学校看護師による管理ができるのかを検証し、受け入れ体制を整えてきました。
この間、県は、県立特別支援学校だけでなく、小中学校も含め、医療的ケアの基本的な考え方や実施する際に留意すべき点、校内や外部機関との連携体制などの考え方を示したガイドライン(静岡県医療的ケアガイドライン)を作成し、この春(令和6年3月)発行しました。今年度から県立特別支援学校では、人工呼吸器の管理を実施できる体制整備を進めているところです。
現在、本校では、試行的に検証してきた成果を踏まえ、保護者からの依頼を受けた子どもの人工呼吸器の管理を学校看護師が担っています。主治医からの留意点の確認や医療機器の使い方の把握など、学校看護師及び教員間の共通理解を図り、子どもが安全に、そして安心して教育を受けられるよう、気を引き締めています。学校看護師は、子どもの体調面の確認だけではなく、医療機器のトラブル時の対応も求められますので、医療機器業者との連携も密にしています。
設備面では、人工呼吸器をつなぐコンセントの配置を見直しました。子どもたちが授業を受けるときにスムーズに電源を確保できるようにしました。
人工呼吸器の管理、といっても、24時間必要とする方もいれば、夜間だけ必要という方もいます。また、一時的に人工呼吸器を外すことが可能な方もおり、一人一人状況は異なります。教育の受け方も、通学する子どももいれば、自宅に教員が訪問して教育を受ける子どももいます。保護者の負担軽減につながるよう、多角的に校内の支援体制を整えています。
2.学校看護師の一日
学校看護師さんは、医療的ケアを必要とする子どもが通う特別支援学校に配置されています。普段、県立中央特別支援学校ではどのような一日を過ごしているのか、聞いてみました。
<一般的な一日>
通常は、8時45分から15時30分までの勤務です。勤務開始と終わりは保健室。全員での朝の打ち合わせが終わり次第、子どもたちが登校する教室(各フロア)へ向かいます。そして、体温や血中酸素濃度、脈拍、呼吸状態の確認とともに、その日の調子や医療的ケアのスケジュールを保護者から聞き取ります。このとき把握した情報は、養護教諭や他の学校看護師との打ち合わせの時間に共有します。
授業中は、子どもの様子を見守っています。導尿や経管栄養(水分の注入)などの医療的ケアは休み時間に併せて実施するスケジュールを組んでいるのですが、授業中に吸引などの医療的ケアが必要となることもあります。そのときには、子どもの近くにいる教員が手を挙げて知らせてくれたり、学校看護師が様子を確認したりします。12時から13時までの給食の時間は、経管栄養(栄養剤やペースト食の注入)など、子どもの食事面をサポートしています(胃ろう(経管栄養)など)。その前後で分担して昼食休憩を取っています。
授業が終わる15時過ぎに各フロアから保健室に戻ってきて、物品の片付けや申し送り事項の確認などを行い、15時30分に勤務終了となります。
ー子ども一人一人に専属の学校看護師さんがいるのですか?ー
専属の体制は取っていません。本校は、小学部、中学部、高等部があり、週単位でローテーションをしながら対応しています。各フロアで即時の相談や応援が必要な場合などに対応できるよう、トランシーバーで連絡を取り合っています。
ーどういう人が向いていると思いますか?志す人へのメッセージをお願いしますー
子どもが好きで子ども中心に考えられる人。学校看護師は、一人ではなくチームで働きます。チームの一員として今までの経験を生かしたり、向上心があったりする人がいいですね。
本校で働く学校看護師は、子育て中の人もいますし、一段落をした人もいますので、幅広い方に向いていると思います。まだまだ学校看護師という働き方があることを知らない人が多く、人づてで広まっているところです。医療的ケアを行ったことがない看護師さんでも、子どもが好きという志があれば、大丈夫。初めてのことや分からないこともチームでフォローしていきます。
3.学校看護師として働く方々の思い
医療的ケアが必要な子どもたちにとって、安全で安心な学校生活を過ごすためには、教員だけではなく、学校看護師さんの果たす役割も大きいと感じました。お一人お一人、その思いをお伺いしたいところでしたが、私の取材よりも子どもたちの学校生活のサポートの方が大事ですので、事前に教頭の池谷さんに学校看護師さん12人のこえを聞いていただきました。
ーどのようなとき、学校看護師としてのやりがいを感じますか?ー
- 毎日の成長を近くで見守れることの喜びを日々感じます。子どもたちの笑顔や楽しそうな声の中で働けることが何よりもうれしいです。パワーをもらえます。
- 最も長くて小学1年生から高校3年生までの12年間見守ることができます。継続して看ているからこそ、子どもたちの異変を察知することができ、安全・安心な学校生活につながっていると思います。
- 子どもの学びの機会を増やすことに携われること、お手伝いできることにやりがいを感じます。私たちがいることで、子どもたちの活動の場が広がっていると感じています。人工呼吸器が必要な子どものケアが始まってからは、より学校看護師としての必要性が感じられ、子どもたちの自立と安全の両方のお手伝いができていると実感します
- 子どもだけではなく、保護者との連携もすごく大事で、家族ケアを学べるところもやりがいです。保護者の方へその子の状態を報告すると、感謝されることもうれしく、やりがいを感じます。
ー普段、心掛けていることは?ー
- 医療的ケアも教育の場であるので、こちらで全てをやるのではなく、子どもに応じて、できることはやってもらえるように接しています。
- 子どもたちの学びを最大限できるように支持し、何かあれば教員の手伝いもしながら安全に授業を受けられるようにしています。吸引など必要なケアをして、スッキリした状態で過ごせるよう心掛けています。
- あくまでも学びが最優先される「サポーター」と考え、仕事をしています。
- 子どもたちそれぞれの学校生活を大切にしたいと思っています。自分が子どもの頃は何を思っていたのかを思い出しながら働いています。
ー病院にも看護師さんがいます。病院との違いはどんなところでしょうか?ー
- 病院は治療の場ですが、学校は生活(教育)の場。療養のためではなく、生活(教育)の場で子どもたちと関われます。授業や学校生活を整えるため、チームで協力して、その子のための最善を考えていけることです。
- 生活の支援をするのが仕事であり、教員をサポートする立場でいることが病院と違います。
- 子どもたちにとって、一番近くにいる存在は教員です。看護師は、子どもたちにとって何番目かのサポーターという立ち位置かなと思っています。今まで病院が一番近くにいる存在と思っていたので、勤務し始めたときはその違いに戸惑うこともありました。
- 子どもたち一人一人ケアの仕方や使用する物品にも違いがあり、より細やかさが求められます。学校には医師がいないので、その子が不調の時や緊急時に、その対応もより求められます。
- 安全に教育活動が行えるか、ただケアをして状態を安定させるだけではなく本人の自立を育めるか、といった安全性と自発性を考えながら教員と協力しています。
ー県民の方に知ってもらいたいことはありますか?ー
- 学校看護師という仕事があることを知ってもらいたいです。また、看護師の働き方も病院や施設などだけではなく、学校という場で働く方法もあります。働き方の一つの選択肢として知って欲しいです。子育てをしながら、看護師経験とスキルを発揮できる魅力的な職場です。
- 特別支援学校の子どもたちはとてもかわいいです。医療的ケアをサポートすることができれば、たくさんのお友達と一緒に学校生活を送ることができます。子どもたちにとっても、保護者にとっても楽しくて貴重な時間のお手伝いができることは、とてもうれしいことです。
- 疾患があっても元気に登校できる場所があるよ、ということを知ってもらいたいです。いろいろな子どもがいる中、いろいろな学びの場があること、そこでがんばって学んでいる子どもがいることを知って欲しいです。
- 学校での医療的ケアは、看護師だけではなく教員の方々の力も大きいです。教員は、教育面だけでも大変な中、医療的ケアができるよう研修などを受け、取り組んでいます。
- 子どもたちの作品を見たときなど、その素直な感性にハッとさせられます。特別支援学校は優しく温かな空気が流れている場所の一つだと思います。
- 医療が日常的に必要な子どもたちも、毎日、学校へ通い、勉強して、よりよい自分になるために日々努力していることをこの機会に知ってほしいと思います。
取材を終えて
医療的ケアを必要とする子どものいる学校への取材は2度目でした。取材のたびに感性あふれる子どもたちの作品に心を打たれます。子どもたちにとって、学校が安全な環境だから、安心して通うことができます。子どもを支え、見守る学校看護師さんの存在の大きさを改めて実感しました。
→県民だより8月号
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