フカボリ
伝統の味と想いをつなぐ事業承継
2026年5月1日
こんにちは!学生特派員の磯上です。
皆さんは事業承継という言葉を知っていますか?
事業承継とは、経営者が会社の経営権や資産、技術・ノウハウを次世代の後継者に引き継ぐことを指します。私は以前、事業承継について学ぶセミナーへの取材を行ったことがあり、今回はその実例として、実際に承継をされた有限会社カクゼン桑名屋さんへお話を伺いに行ってきました!
▼以前の記事
私にも関係あるかも?学生が学ぶ事業承継 | しずおかメディアチャンネル
目次
1.事業内容と承継当時のことについて
2.お話の中で印象的だったこと
3.伝統を守りながら新しい挑戦を-従業員のお二人へインタビュー
4.事業承継でつなぐ8の字の未来-取材を通して感じたこと
1.事業内容と承継当時のことについて
今回訪問したカクゼン桑名屋さんは、明治創業の老舗のお店で、静岡の銘菓である「8の字」というボーロ状の焼き菓子を製造している会社です。5年ほど前に、静パック有限会社に事業承継されました。
承継先である静パック有限会社は、創業以来45年以上にわたり、茶類・コーヒー・菓子・その他食品素材を扱ってきたOEM企業(自社のブランドとしてではなく相手先のブランドとして商品を作る企業)です。
承継元の有限会社カクゼン桑名屋の前代表は、後継者不在や設備の老朽化、事業の先行きの見通しの不安から、廃業を考えていました。承継を考えるにあたり、「8の字」という商標や伝統の味や商品の品質が守れるかという不安があったそうです。そこで、静岡県事業承継・引継ぎ支援センター(※)が、承継候補先の紹介や交渉への同席、金融機関と連携した案件対応など、承継を諦めそうになる経営者の心の支えとなるサポートを行いました。当時関わった支援センターの方に話を伺ったところ、カクゼン桑名屋の前代表は、新たな設備導入を決めたことや承継前から試作を繰り返していた点、従業員や取引先の引継ぎに応じた点が決め手となり、静パック有限会社へ株式譲渡(経営者等が保有している株式を第三者に譲渡すること)という形で承継を決めました。その際、「8の字」というブランドを残すことや、効率的・大量生産を行わないことを条件としたそうです。
(※)静岡県事業承継・引継ぎ支援センター・・・中小企業の事業承継問題を一緒に考え、解決に導くサポートを行っている機関。


2.お話の中で印象的だったこと
続いて、有限会社カクゼン桑名屋さんに、承継当時のお話を聞きしました。特に印象的だったエピソードをご紹介します。
・「安心して身を引ける」と羨ましがられたバトンタッチ
承継後、取引先から「安心して身を引けて羨ましい」という言葉をかけられたそう。静パックの現社長は歴史を大事にされる方で、その敬意があるからこそ、現在も、「カクゼン桑名屋」という名前が残っています。
・変わらない伝統と時代に合わせた変化
パッケージを見て「8の字だ」とわかる安心感はそのまま、すぐに湿気てしまうというデメリットを解決するため、チャックのついたパッケージを採用するようになりました。
また、ボーロとクッキーの両方で味のバリエーションを増やし、キヨスクやスーパーなど、手に取りやすい場所へ販路を拡大しました。積極的な営業活動の結果というよりも、むしろスーパー側から「ぜひ置かせてほしい」と声がかかり販売をしたそうで、そのエピソードからも、地域に愛された商品ということが分かります。しかし、むやみに販路を広めることはせず、8の字のブランドを守る姿勢を貫いて、その考えに共感いただけるお店と取引されています。
・商品へのこだわり
「8の字」の親しみやすさを象徴するのが、各フレーバーに一人ずつ描かれたキャラクターです。実はこれ、社員のお子さんが描いた絵がもとになっているのだそうです。そんな温かいエピソードが、商品の優しさに繋がっています。
また、静岡ならではの緑茶味には、特別な背景があります。こちらは久能山東照宮からの依頼を受け作られたもので、パッケージには徳川の家紋があしらわれています。また、緑茶の緑色を損なわないよう、クッキータイプになっています。そして、ほんのり感じる塩味ですが、実は久能山東照宮のお清めの塩と同じものが使用されています!

3.伝統を守りながら新しい挑戦を-従業員のお二人へインタビュー
静パック有限会社の従業員のお二人(山田さん、矢野さん)にお話を聞きました。

Q.現場で伝統の味を守るために、バトンタッチ後に工夫したことは何ですか。
基本のプレーン味については、教えていただいた通りに作りました。原料やその仕入れ先はずっと変わっておらず、取引先のご縁をそのまま引き継いでいます。原料が変わると味自体も変わるかもしれませんし、何よりお客様の中にはそういった変化に気づかれる方もいますので、何度もテイスティングを重ね、(先代のカクゼン桑名屋さんに)同じ味になるまで見ていただきました。また、新商品を開発するたびに先代さんのところに持っていっています。
Q.事業承継をした直後の気持ちはどうでしたか。
以前はボーロタイプだけでしたが、承継後、クッキータイプなどアイテムの種類が増えたため、開発の面白みはあったと思います。パッケージなどもかわいらしいものに変えたので、新たな顧客層ができてくれれば、という思いもありました。
承継前は加工会社で、販売や営業の仕事はしていなかったので、販売先へ行って、自社の製品を自分たちで売るということは初めてで、手探りの状態でした。コロナ渦であったこともあり、先代さんが繋いできてくれたものに泥を塗ることができないと思っていたので、必死でした。
頼まれたことをそのままやるだけではなく、自ら(新しいものを)生み出すということについては、楽しみでもありました。
Q.これから挑戦したいと思っていることはありますか。
今、(令和8年度中に)作りたいと思っているものが1つあるんです。もちろん、新商品の導入にはコストがかかるものなので、実現できるかはわかりません。すぐに売れるものを重視するのではなく、ブランドを維持しつつ手に取ってもらえる商品を作っていきたいと思っています。
4.事業承継でつなぐ8の字の未来-取材を通して感じたこと
取材をしてみて、有限会社カクゼン桑名屋さんと、静パック有限会社さんの承継事例は、承継をしたいけれど伝統の形が失われるかもしれない、という不安を持っていた承継元と、伝統は守りつつ新しいチャレンジもしていく承継先のベストマッチが実現している事例だと思いました。これは、歴史を大切にする、静パック有限会社の現社長さんの想いもあってのことだと伺いました。
また、事業承継を機に、これまでのボーロタイプだけでなく、クッキータイプも登場させて両方のバリエーションを増やし、これまでの伝統を守りつつ、新たな需要に応えている点が、働く人が変わったからこそ、引き継ぐだけでなくチャレンジをすることで企業自体の成長にもつながっているのだと感じました。事業を承継する、となると、特に伝統があればあるほどそれをそのまま受け継ぐことに必死になりそうですが、静パックさんは、果敢に新しいことに取り組んでいったことが、先代さんを安心させることや企業成長の機会をつくることにつながったのだと思います。取材中、従業員のお二人からも、これまでつないできてくださった先代さんへの感謝と尊敬の姿勢や、これからのチャレンジにワクワクしている様子がとても伝わってきました。こんな方々に引き継いでもらえる先代さんも、伝統ある事業を引き継いで新しいことにも挑戦できる静パックの従業員さんも、どちらもすてきだな、と第三者ながら感じていました!!
そして、円滑な事業承継をサポートする静岡県事業承継・引継ぎ支援センターの役割も大きく、金融機関などと協力した事務的なサポートに限らず、事業者さんのモチベーションの面でのサポートも行ったと伺いました。事業者さんから見れば、そのような支援もありがたいものなんじゃないかなあ、と思います。
令和「8」年ということもありますし、8の字のお菓子として、これからどんな商品が出てくるのか、とっても楽しみです!!
