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リニア中央新幹線整備と水資源・自然環境の保全の両立を目指す県の取り組み
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2026年7月18日、静岡県とJR東海は、リニア中央新幹線静岡県内の着工の前提となる「自然環境保全協定」を締結した。しかし、協定の締結はゴールではない。この協定に基づき、JR東海が実施する環境保全措置やその取り組みを監視する体制及び開業を見据えた地域づくりについて紹介する。

リニア整備による本県への影響|県内への経済波及効果と静岡県内工区が抱える3つの課題
リニア中央新幹線は、三大都市圏を結ぶ国家的プロジェクトである。静岡県としても、リニア中央新幹線整備を契機とした高速交通の将来像に大いに期待すると同時に、新幹線ネットワークのあり方が大きく変わり、東海道新幹線は、「のぞみ」の本数が減少して「ひかり」「こだま」重視の輸送形態となることが想定されるなど、静岡県内への経済波及効果の発現や県民の利便性の向上についても大いに期待できると考えている。
一方、県内10.7kmを含め、全長25kmに及ぶリニア中央新幹線の南アルプストンネル工事については、国内では最大となる土被り(山の表面からトンネルまでの深さ)約1,400mの区間があるなど、南アルプス特有の地形や地質構造から、難工事になることが想定されている。

出典:第1回リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議(R6.2.29)資料2-1(静岡県が一部加筆)
この難工事を巡って、県が向き合ってきた環境保全に関する課題は大きく3つある。
3つの課題:水資源・生物多様性・トンネル発生土
1つ目は「水資源」について。隣接する山梨・長野両県の川では、橋を架けて越えるのに対し、大井川ではトンネルが川の下を通過することや、トンネルが両県に向かって下り勾配になるため、トンネル内に発生する湧水が県外へ流出し、大井川の水資源が減少してしまうことが懸念されている。
2つ目は「生物多様性」について。南アルプスには希少な動植物が多数生息・生育しており、トンネル掘削に伴う沢の流量減少や水質悪化など、人為的な影響が想定されることから、南アルプスの希少な生態系への影響も懸念されている。
3つ目は「トンネル発生土」について。トンネル工事では大量の掘削土が発生し、また、自然由来の重金属類が含まれる場合もあるため、「発生土置き場の位置の選定や構造」「景観、生態系への影響」が課題となっている。

県では、こうした課題の解決に向けて、2018年に県専門部会を立ち上げ、JR東海との対話を重ねてきた結果、2026年3月に3分野・28項目すべての対話が完了。7月18日には、対話を始めてから約10年で自然環境保全協定(以下「協定」と表記)の締結に至った。

水資源と自然環境の保全に向けた取り組み|JR東海が実施する主な環境保全措置
JR東海には、今後、協定に盛り込まれた環境保全措置を着実に実行することが求められる。
主な対策は、「田代ダム取水抑制案等によるトンネル湧水の全量戻し」「ネイチャーポジティブ※1という新たな概念を盛り込んだ生物多様性の保全の取り組み」「要対策土のオンサイト処理※2による可能な限りの無害化・減量化や二重遮水シートとベントナイトシート※3を活用した徹底的な封じ込め」などである。 知事はこれらを、「静岡県の地域事情を踏まえた、他工区と比較しても踏み込んだ対策」と評している。
※1)ネイチャーポジティブ:日本語訳では「自然再興」といい、自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止めて反転させること。
※2)オンサイト処理:工事を行っている現場付近に処理設備を設置し、トンネル発生土に含まれる自然由来の重金属等の無害化(浄化)を行う工法のこと。
※3)ベントナイトシート:自然由来の粘土や不織布でできたシートのこと。万が一穴が空いて水が入ってきた場合、その水分により粘土が膨張して穴を塞ぐ自己修復機能を有する。

〈主なモニタリング内容〉
※4)水資源:河川流量、トンネル湧水量、地下水の水質及び水位 など
※5)生物多様性:動植物の生息・生育状況、河川の水質 など
※6)トンネル発生土:沈砂池の水質、盛土の状況(崩落の有無等)、緑化植物の生育状況 など
さらに、協定には自然環境に影響を及ぼす不測の事態等が生じた場合、JR東海は直ちに工事を一時中断して原因を調査するとともに、因果関係がないことが明らかな場合を除き、専門家等の意見を聴き、県と協議の上、対策を講じることも明記されている。
水資源と自然環境の保全に向けた取り組み|県・国による監視体制
県は、これらの環境保全措置の実施状況を確認・検証するため、協定締結に合わせて、さまざまな分野の専門家で構成する「中央新幹線部会(以下「部会」と表記)」を新設した。

JR東海は、トンネル掘削箇所周辺や中下流域などにおいて、河川流量や地下水位、南アルプスの動植物の生息・生育状況など、全部で203項目を工事着手前から工事中、工事完了後まで継続的にモニタリングを実施し、決められた頻度で県に報告する。

▼リニア中央新幹線事業にかかる本県の組織体制
https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/kankyo/1040554/1002001/1007419.html
県では、JR東海から報告されるモニタリング結果を部会において評価・検証し、必要に応じて同社に対し調査や対策を要請する。国とも連携し、国がJR東海に助言・指導を行う体制も整えている。評価・検証の結果は、流域の市町や利水者、県民にも共有される。地域の関係者や住民が異常事象や損害を確認した場合は、県やJR東海に相談することもできる。
また、協定の締結に先立つ2026年1月には、国土交通省の立ち会いの下、水利用に影響が生じた場合に備えた補償の確認書も締結し、「機能回復や水利用継続に向けた措置を適切に講じること」「請求期限や対象期間の制限を予め設けないこと」「因果関係についてはJR東海が調査すること」「国も関与する継続的な体制により工事の影響等を確認し、国の指導の下、JR東海により対応がされるようにすること」等が合意された。
知事は、協定締結の判断を表明した2026年7月7日の県議会全員協議会の場で「まさに『これからが本番』であり、JR東海に対しては、将来にわたり『リニア中央新幹線整備と大井川の水資源や南アルプスの自然環境の保全の両立』を遺漏なく実施していくよう、そして、県及び大井川流域10市町等への正確な情報提供、住民の皆さまへの丁寧な説明等を行うよう、引き続きしっかり求めていく」と締めくくった。
開業を見据えた静岡県の展望|基本合意書に基づく地域づくり
県とJR東海は協定締結と同日に、「中央新幹線(品川・名古屋間)の建設と地域振興に関する基本合意書」も締結した。基本合意書は、リニア中央新幹線の開業を見据え、県とJR東海が連携・協力して地域振興に誠実に取り組んでいくという基本姿勢を示したものであり、柱は次の3事項である。
- 東海道新幹線の活用等による静岡県内の産業・観光の活性化
- 東海道新幹線の活用等による新たな関係人口の創出
- 鉄道駅及び駅周辺地域の利便性向上、地域交通との連携強化等による交流人口の増加
知事は就任時からJR東海に連携の深化を求め、「リニア中央新幹線名古屋開業時のひかりの増便についてもお約束いただいた」と述べているところであり、大阪開業時には東海道新幹線は、「のぞみ」の本数が減少して「ひかり」「こだま」重視の輸送形態となることが想定されることから、県内に止まる新幹線の本数が増えることを契機として、関係者が連携し、県民本位の施策を進めることで、静岡県内においても経済波及効果の発現や県民の利便性の向上が期待される。
こうした中で、基本合意書も踏まえながら関係者が取り組みを進めることが重要であり、県としても、JR東海と連携しながら、一つ一つ成果を積み上げていきたいと考えている。
県は今後もJR東海や国、流域の市町と連携し、大井川の水資源と南アルプスの自然環境を守りながら、リニア中央新幹線開業の効果を地域活性化につなげていく。
なお、JR東海は、静岡工区の着工の前提となる自然環境保全協定を締結したことを受け、品川・名古屋間の開業時期の見通しを年内には明らかにする考えを示している。
▼静岡県「リニア中央新幹線整備工事に伴う環境への影響に関する対応」
https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/kankyo/1040554/1002001/index.html
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